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王女の侍女は大国公爵令息に略奪婚?されました

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気付いたら私は中庭に突っ伏して泣いていた。

アルバートは雲の上の人で私とは釣り合わない。

私は必死にそう思おうとして頑張っていたのだ。

それなのに、今アルバートと会ってしまったら、その決心を続けられる自信が無かった。



「ソニア、いきなり飛び出してどうしたの」
後ろからリーナ様の声が聞こえた。

私は振り返りもせずに泣いていた。

「アルバート様が嫌いになったの?」
私はリーナ様の言葉に首を振った。

「アルバート様があなたに無断であのペンダントを渡したから怒っているの?」
その言葉にも私は首を振った。

「あなたが王妃に鞭打たれているときにアルバート様が守ってくれなかったから嫌になったの」
「そんな事ないです。私が殺されそうになった時にクリスと一緒に助けに来てくれましたし」
私はつまりつまり否定した。

「ソニア」
リーナ様が後ろから優しく肩を抱いてくれた。

「ソニア、あなた、アルバート様が好きなんでしょ」
リーナ様の言葉に私は固まった。

「自分の気持ちに正直になりなさい」
私もそうなりたかった。でもそんな事したら後で後悔する。

「でも、アルバート様と私では住む世界が違います」
私は必死に否定した。



「じゃあ、少なくとも嫌ってはいないんだ」
いきなりアルバートの声がすぐ後ろからした。

「えっ」
私は固まった。なんでここにアルバートがいるの?

思わず泣き止んで振り返ると、すぐ後ろにアルバートがいた。


私はすぐに逃げようとしたが、アルバートに捕まって抱き寄せられた。

私は逃れようとしたが、アルバートは離してくれなかった。

「良かった。会ってくれないから嫌われたかと思った」
そう言いながらきつくアルバートが抱きしめる。

「ちょっと、アルバート様。離して」
私は必死に抵抗しようとするが、

「逃げるから駄目」
アルバートはびくともしなかった。

うそ、アルバートに抱きしめられている。もう二度と会わないって決めていたのに・・・・・

「アルバート様。離して下さい」
「嫌だ。絶対に離さない」
アルバートはさらにきつく私を抱きしめた。

「私とアルバート様は住む世界が違うんです」
「俺は6番目だからソニアとそんなに変わらない」
「筆頭魔導師様の近衛でしょう」
「君も、王女の侍女だ。それにクリス様の友達じゃないか」
私の言葉にアルバートは次々に反論する。

「平民の私なんかよりも、アルバート様に似合う貴族の令嬢の方がいらっしゃるはずです」
「俺は君がいいんだ。君以外は嫌だ」
その言葉に私はまた泣きたくなった。そのまま抱きしめられていたい。でも、うまくいくわけない。

「アルバート様のお父様とかお母さまが平民の私なんかの婚姻を許されるわけ無いでしょう」
絶対に許してもらえるわけはないと思って、私は最後に言った。

「そんな事無いよ。両親とも君を歓迎している」
「嘘!筆頭公爵家の息子の嫁が平民でいいわけないでしょう」
私はアルバートの言葉に言い返した。

「何言っているんだよ。そもそも我が家は一家あげてクリス様に従うって決めているからクリス様と親しい君のことをひどく言うわけないじゃないか。クリス様が認めているって言ったらぜひとも遊びに連れていらっしゃいって事になったんだけど」

その言葉に私は固まった。

うそ?そんなの信じられない。一番反対されるって思っていたご両親に認めていただいているの?

私は次の反論の言葉が出てこなかった。

「ということで、どんな事をしても君を連れて帰らないと、俺の立場がないんだ」
アルバートはニヤリと笑った。

「そんな」
「ということでソニア、一緒にボフミエに帰ろう」
アルバートはそう言うと私を抱きかかえた。
いわゆるお姫様抱っこというやつだ。

「えっ、ちょっと待ってよ」
私は慌てた。まだ話はついていない。なのに、なんで皆の前でお姫様抱っこしているのよ。
私は真っ赤になった。

「待てない。皆待っているから」
「ちょっと、リーナ様。助けて下さい」
「ソニア。あなたはインダルのボフミエ大使として任命するから頑張ってね」
リーナ様は助けてくれなかった。笑って手を振っている。ちょっとそんな。

いつの間にか城の皆が出てきて私を見ていた。
もう私は恥ずかしいやら何やらで真っ赤になっていた。どうしてこうなるのよ。

「ソニア、幸せにな」
「ボフミエでも頑張れよ」

皆、口笛を吹いたり、声援を送ってきたり、誰一人助けてくれなかった。


「ちょっと、アルバート様。私何も準備していないから」
「後で送ってもらえればいいさ」
「いや、ちょっと、本当にこのまま連れて行くの」
「だって下ろしたら逃げ出しそうだから」
「絶対に逃げないですから」
「信じられない。絶対にもう君ははなさないから」

私はがっちりとアルバートに抱えられてそのままスカイバードの中まで連れて行かれたのだった。

周りから本当に生暖かい視線を送られて、散々からかわれた。

私は恥辱にまみれて出来たら皆の前から消えてなくなりたかった。

でも、アルバートは平然としていた。なんで恥ずかしくないのよ!

怒った私はしばらくアルバートとは口も聞かなかったのは当然だと思う。



これが後世に伝わるインダル伝説の一つ、『騎士による略奪婚』の原型になったそうである。


ちょっと、なんでそんな事になっているのよ!

私は納得できなかった。ドンドン美化されて最後は目も当てられないお話になっていた。

もっとも事実だけでも十二分に目もあてられなかったのだが。

私は、この時のことを思い出しては何度も何度も恥辱に塗れる事になるのだった。



おしまい


**********************************************************

ここまで読んで頂いてありがとうございました。
お話はここで取り敢えず完結です。
閑話とかまたおいおい記載していきます。


次の新作は現在考案中です。
少しお待ち下さい。

今後とも宜しくお願いします。

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