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第一章 娘が生贄にされるのを助けるために地獄から脱獄します

聖女は王国の滅びを予言しました

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王宮ではジャルカに見捨てられた国王が呆然としていた。

「どうされたのです。陛下」
そこへマティルダ王妃が入ってきた。

「いや、大賢者ジャルカに国王を罷免された」
「何を言ってるのです。大賢者様は建国の賢臣、300年も前の伝説上のお方です。いくらジャルカが年寄でも300年生きているはずはないではないですか。ジャルカのたちの悪い冗談ですわ」
王妃が笑った。
「お言葉ながら王妃殿下。私の家には代々伝わっております。困ったことがあればジャルカ様を頼れと」
ブリエントが申し出た。

「何を申しているのですか。あなたの家の家訓と大賢者とどう関係するのです」
「我が家の家訓はここ300年変わっておりません。私は父が亡くなる時に『ジャルカ様は大賢者様である。困った時には相談するように』との命を受けております」
「ブリエント。それだけでは、ジャルカが大賢者であるという証明にはならないではないですか」
「失礼ながら我が家は代々司法長官を拝命しております。我が父は法律の使徒とも呼ばれていた生真面目人間なのは皆知っておりましょう。その父が今際の際に冗談を言われたと」
王妃の言葉にブリエントは反論した。

「しかし、普通の人間が300年も生きられるなど信じられますか」
「ジャルカ様は大魔法使い。人より長く生きても問題はないかと思いますが」
「魔法使いだから300年生きてもおかしくないというのですか。それはおかしいと思いますが。そもそも今ダレル王国は危急存亡の時なのです。今陛下がいなくなれば得するのはマーマ王国です」
「これは妃殿下は我がブルエント家がマーマ王国と通じておると言われるのか」
王妃の言葉にブリエントは怒った。

「そう考えねば辻褄はあいますまい。近衛兵。ブリエントの拘束を」
「何ですと。この司法の番人ブリエント家を捉えられると申されるか」

「近衛兵。この痴れ者を国家反逆罪で捕らえよ」
王妃はきつく命令した。近衛はお互いに顔を見合わせた。

「何をするのですか。あなた様ももはや大賢者から罷免されたのですぞ」
「ふんっ、ふざけた事を。このようなたちの悪い冗談、通用するわけはなかろう。近衛兵。この戦いの最中、国王の罷免などマーマ王国に利する行為と言えよう。直ちに司法長官を国家煽動罪で拘束せよ」
「はっ」
近衛兵は慌ててブリエントを拘束した。

「何をする。貴様ら大賢者様に逆らうのか。直ちに儂を開放して国王1党を、国家反逆罪で拘束せよ」
ブリエントが叫ぶが、近衛は誰も動かなかった。

「陛下、しっかりなさって下さい。もうじき生贄がマーマ王国軍を殲滅してくれるでしょう」
「あ、ああ」
呆然と今までのやり取りを見ていた国王アーノルドは頷いた。

「あっはっはっは」
その謁見室に笑い声が響き渡った。

一同が声の方を見ると聖女ミネルヴァが入ってくるところだった。

「何をしておるのじゃ。貴様ら。命が惜しくないのか。関係ない、者達は直ちに逃げよ」
聖女、ミネルヴァが入って来るなり言いきった。

「ミネルヴァ。お前もジャルカたちとグルなのか」
王妃が叫ぶ。

「くだらぬことを。何をふざけた事を申しておる。マティルダ。王妃をクビになった女がでかい顔をするな」
ミネルヴァは言い切った。

「何じゃと」
王妃が顳かみに青筋を立てて叫ぶ。

「ふんっ、まあ良い。わらわが、貴様らに聞きたいことは別のことだ。マティルダ。今回の神託は生贄はアデラにせよとのことだった。何故、クローディアにした」
「何故と言われても、前に生贄になった平民の娘にさせるのが筋じゃろうと判断したまでじゃ」
さも当然という顔でマティルダは言った。

「貴様は本当に馬鹿じゃな。だから王妃もクビになる」
見下してミネルヴァが言った。

「ええい、近衛兵。何をしておる。ただちにこの不敬な者をひっとらえよ」
近衛兵は戸惑いつつもミネルヴァを捕まえようとした。

ミネルヴァが手を一閃する。

近衛兵は宮殿の壁に叩きつけられた。

「ええい、不敬なやつはどちらじゃ。そこなマティルダは大賢者ジャルカによって王妃を罷免されておるわ。今一番高位なのは大賢者を除けば聖女たるわらわじゃ。次に余計なことをすれば反逆罪で処刑するぞ」
ミネルヴァはそう恫喝した。

「な、何を」
マティルダが唇を噛んで睨みつける。

「もっとも、もうじき魔神が貴様らを殺しにやってくるがな」
周りはミネルヴァの言うことが判らなかった。

「元国王アーノルド並びに元王妃マティルダ。今回わらわははっきりと言ったはずだ。前回のように絶対に勝手に変更するなと。なのに何故変更したのだ」
周りを見渡しながらミネルヴァは聞いた。

「アデラを生贄にせし時はその姉の力発現し、マーマ王国軍を一掃せん。妾の言葉通りにしておれば、この国は安泰だったのじゃ」
「変えればどうなるのじゃ」
アーノルドが確認した。

「はっきり言おう。神託ではこの世界にとって一番良いのはクローディアが生贄になることと出ていたのだ」
「そら見てみろ。わらわが正しかったではないか」
王妃が勝ち誇っていった。

「愚かじゃな。マティルダは。私はこの国の聖女じゃ。この国にとって利益になることしか言わぬ」
「では何故そうしなかったのだ」
アーノルドが聞いた。

「そのような事は馬鹿でもわかるであろう」
ミネルヴァはアーノルドをじっと見た。

「そんなのわかる訳は無かろう。世界のためになってこの国のためにならないことなど無かろう」
「貴様は本当に愚かじゃな。この国のためにならないからそうしなかったのじゃ。なのに、それをなしたバカ者共がおる」
ミネルヴァは一同を見渡した。

「神託はこうじゃ。クローデイアを生贄にすれば地獄より魔神が襲来し、古き世を蹂躙し、新しい平和な世の中を作らん」
「そ、それはどういう意味だ」
アーノルドが聞く。
「そのままの意味じゃ。ジャルカが国王を首にしようがしなかろうが関係ない。何しろこの王国はもうまもなく、滅び去るのじゃ」
「何だと」

「も、申し上げます。生贄部隊が連絡を絶った件で調べに行った偵察部隊も消息を絶ちました」

「も、申し上げます。ただいま王都都心部で魔導爆発反応がありました。詳しいことは現在調査中です」
2件の報告が上がってきた。

「どういう事なのだ」
国王が聞くが答えるものはいなかった。

「だから言っただろう。貴様らの愚行が魔神を呼び寄せたのだよ」
ミネルヴァは笑って言った。
「まあせいぜい運命に逆らってみるが良い。おそらく何も出来ぬとは思うが」
そう言って高笑いをするとミネルヴァは転移していった。

後には不安な顔をしている一同が顔を見合わせていた。
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