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使者は何も判っていませんでした。

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慌てて城に帰ると使者が到着したところだった。

「ああ、エル。丁度王国からの使者が来たところなのよ。私達が聞いておくから、あなたは奥で休んでいなさい」
お母様がそう言ってくれた。

「お母様。私も出ます」
私は申し出た。

「えっ、でも、何を言ってくるか判ったものではないわ」
「しかし、私のことですから」
「でも、乱心したら何してくるか判ったものではないわよ。まあ、エックとクラウがいれば瞬殺だけど」
お母様がサラリととんでもないことを言う。

「叔母上。エルは私が守ります」
「えっ」
私は驚いて声をあげた。

「いや、でも、あなた帝国の皇子が同席するのは」
「護衛でもなんでも良いです。二度とエルには無礼なことはさせません」
「まあ良いわ。あんまり出しゃばってはダメよ」
フェルにお母様が釘を刺した。

お父さまを先頭にお母様と私達家族が入る。

既に外務卿ら文官は中に入っていた。

お父さまとお母様が上座に座りその左横にお兄様が、右横にお姉様と私と護衛のフェルがつく。

「お待たせした」
お父さまが声をかけた。

「これはこれは、ハインツェル卿。ご機嫌麗しく。私、王国の使者でありますデーモン・ギュンター子爵と申します。しかし、国王陛下の使者たる私を下座に通すのはいかがなものかと思いますが」
ギュンターは嫌味のつもりで言ったのだろう。

「ギュンターとやら、言葉は慎め」
外務卿が嗜める。

「何を、辺境伯の臣風情に、そのように言われる筋合いはない」
きっとしてギュンターが言った。

「お主、本当に、国王の使者か? 国王の使者ならばそのようなこと口が裂けても申さないはずじゃが」
きっとして外務卿が言う。

「貴様こそ、陛下を国王と呼び捨てにするなど言語道断。ハインツェル卿、どのような教育をなされているのか」
大声でギュンターが言った。

「言葉を控えよ」
お兄様が一喝した。

ぴしっと空気が凍る。さすが次期剣聖。

生意気なギュンターも流石に凍ってしまった。

「エック、良い。で、王国の言い分を聞こうか」
「はっ」
次期剣聖に一括されたからか、ギュンターは大人しくなった。
見た目は。

「今回の件。殿下の不注意な言動が元とは言え、その殿下に対してエルヴィーラ・ ハインツェルの
狼藉」
「呼び捨てにするな」
「ちょっと」
その瞬間、私が止める前に、剣を抜いてフェルがギュンターの喉元に剣を突きつけていた。

「ヒィィィ」
ギュンターは固まっていた。

「二度と呼び捨てにするな。その時は貴様の首が胴から離れる時と思え!」
フェルが言ってくれた。
カクカクとギュンターは頷く。

「フェル。席にもどれ」
お父さまが不快そうに言った。

「ふんっ」
男を一瞥するとフェルは私の横に戻った。

「もう前口上は良い。お前の命がいくつあっても足りんからな。今回の件に関係した者の処分について聞こう」
「王太子はじめ多くの者に重症を負わせた、エルヴィーナ嬢には修道院送りに」
フェルが剣に手をかけたので私は慌てて止める。

「で」
「でと申されますと」
「その原因を作った王太子一味への処分だ」
「いや、そのような」
そのような事を言われるなど思ってもいなかったのだろう。ギュンターは慌てていた。

「王太子は敵国ゲフマンと組んで我が娘を拉致監禁しようとしたとゲフマン国王が申しておったが」
「そ、そのような」
「証拠はいくらでもあるわ。それよりもそもそも、貴様はこの国の建国実話を知っておるのか」
「建国実話。当然知っておりますぞ」
「王国で王家が流した嘘ではないぞ。戦神、エルザベート様が、初代国王に泣いて頼まれたから国王を譲られたという実話だぞ」
「そのような、辺境伯が流された作り話であろう」
「話にならんな。王国の存亡の時に貴様などを使者に寄越すなど。国王は気でも狂ったのか?」
「な、ナニを仰るのです」
「国王に伝えよ。我がハインツェルは戦神エルザベート様の遺訓に従い秘密条項第一項の発動を検討するとな」
「秘密条項第一項?」
「国王に聞けば判るわ。息子たちに殺されない前にさっさと貴公も帰るが良かろう」
お父さまはそう言うと席を立った。

「えっ、ハインツェル公」
ギュンターは慌ててお父さまに取りすがろうとした。

「貴様、父上に寄るな」
お兄様が一喝した。

それだけでギュンターが吹っ飛んでいた。壁に叩きつけられる。
「おのれ!陛下の使者の私をここまでコケにするとは!」
「では貴様を切り刻んでやろうか? 貴様らが我が妹にしてくれた数々の遺恨。貴様一人の命では賄えまいが」
お兄様が剣に手を掛けた。

「ヒィィィ!」
お兄様の怒り声を聞いて、慌ててギュンターは部屋を逃げるように飛び出していった。



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