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帝国皇后視点 恋敵の娘を呼び出しました

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私はオリーヴィア・バイエルン、このバイエルン帝国の皇后だ。
元々私は帝国のベルナー公爵家の長女だった。
私の若い時は周辺の王族や貴族の子弟は対岸のクラウン公国のクラウン学園に通うのがステータスだった。
クラウン学園には世界各地から秀才が集い、勉学に研究に励んでいた。学問の園だったのだ。
その学園には世界各国から王族や優秀な貴族たちがこぞって学びに来ていた。

そこには帝国第三皇子のヘルムートも来ており、私達は同学年だった。ただ、私達の中には恋愛感情など当時はなかった。
私は学園の授業についていくのがけっこう大変で、恋愛どころではなかったのだ。

しかし、そんな私も第三学年ともなると多少の余裕が出来てきた。

そんな時だ。私は2学年下のアレクシス・ハウゼン、ハウゼン王国王太子に一目惚れしてしまったのだ。
何がきっかけなのかは忘れてしまったが、入学式の手伝いをしている時に少しぶつかってしまって、恋に落ちたんだと思う。アレクシスはとても見目麗しかった。
まあ、当時はハウゼン王国の王太子だったが、私の実家も帝国では有数の領地を持つ公爵家で家格的には十分に釣り合った。と言うか絶対に帝国の公爵家の方が上だった。

私は私の手伝いをしてくれていた、我が家の傘下のディール伯爵家の娘のカリーナが二学年下でアレクシスと同じクラスだと言うので、カリーナに仲立ちを頼んだ。

私はアレクシスとその側近のパスカルとカリーナの4人でよく遊びに出来かけた。
私とアレクシスはカリーナとパスカルはいずれは婚約するのではないかと思っていた。
まさか、カリーナに裏切られてアレクシスを寝取られるとは想像だにしていなかったのだ。


私が就学を終えて帝国に帰ろうという時だ。私はアレクシスから呼び出された。

私はてっきり婚約の話だと思っていた。私が卒業するタイミングで婚約して、アレクシスが卒業する2年後に結婚するというのが私達の中では大まかに決まっていたのだ。お互いの家族にもそれとなく伝えてある話だった。私の両親としては国外に娘を出すのが不満みたいだったが、一応小国とはいえ、相手は由緒ある王族だ。渋々頷いてくれた。

「申し訳ない。オリーヴィア、俺は君と結婚できない」
アレクシスの言葉は私にとってまさに青天の霹靂だった。
まさか、こんなことになるなんて思ってもいなかったのだ。
理由を聞いても頑なにアレクシスは教えてくれずに、私は失意の中で帰国することになったのだ。

後で知ったことだが、私は身内だと思っていたオリーヴィアに裏切られていたのだ。いつの間にか、アレクシスとオリーヴィアは密かに逢引するようになっていたのだ。

それを知った両親は激怒して伯爵夫妻を呼び出したが、伯爵夫妻にしても寝耳に水な話で、オリーヴィアとは縁を切るから、それで許してくれと言われれば頷くしか無かった。

それに失意の私は同じくオリーヴィアに失恋していた第三皇子のヘルムートとたまたま帰りの船で意気投合して仲良くなっており、そのまま付き合い出したのだ。そして、私達は結婚した。

まあ、王妃にはなれなかったが、同じ帝国内だからと両親は安心したのも事実だ。
いずれは皇弟となり、私達の息子の代ではそれが公爵家になるのは確実だったので、同じ公爵家ならば問題ないだろうと両親は却って喜んだのだ。

でも、それに暗雲が立ちだしたのが、第一皇子と第二皇子の帝位継承争いだ。第一皇子と第三皇子は皇后腹だったのだが、第二皇子はエンゲル王家から嫁いだ側室が母で、周りの貴族を巻き込んで一大騒動になったのだ。第三皇子のヘルムートは関係ないと言えば無かったのだが、第二皇子と同腹の第四皇子が毒殺されたのを期に、危険を感じて帝都から郊外に逃れることにしたのだ。
丁度良い所距離にあるのが、カリーナの実家のディール伯爵領だった。

ディール伯爵夫妻は娘のこともあり、必死に私達の面倒を見てくれた。
ただ、伯爵家の周りもきな臭い動きがあったので、私は息子のエルヴィンのことがとても心配だった。
まだ9歳なのに、ろくに外にも出せないのだ。中にいるばかりでは剣の稽古にも支障を来した。

そんな時に伯爵に、何なら、ハウゼンに行かせてはどうかと話があった。
「カリーナのところなんて絶対にいやよ」
私は言ってきたヘルムートに反対したが、息子が争いに巻き込まれるのは避けたかった。
対岸ならばそこまでは第二王子派のても届くまい。
私は泣く泣く、息子をカリーナのもとにやったのだ。

1年で、第二王子が毒殺されて継承争いは終わった。

帰って来たエルヴィンはたくましくなって帰ってきたのだ。
一応カリーナ達はエルヴィンを客としてちゃんと扱ってくれたらしい。
私はホッとした。

帰って来たエルヴィンは皇弟殿下の剣聖の下で剣聖になるための訓練を始めると言い出した。
私はもちろん反対したが、継承者がこのお家騒動のゴタゴタで結構少なくなっており、それを認めざるを得なかった。
エルヴィンは皇弟の下で修行し始めたのだ。
私はエルヴィンが耐えられるわけはないと思っていたのだが、エルヴィンは剣聖の修行に耐えて、剣聖になったのだ。

そんな時だ。皇帝になった第一皇子が亡くなったのは。
元々、毒殺されそうになって体が弱っていたのだ。そこに流行り病にかかってあっという間だった。

私はあれよあれよという間に皇后になったのだ。
元々、第三皇子妃だったので、皇后としての心構えなど何もなかった。
そこからロッテ・マイヤーの魔の授業とシゴキで何とかそれらしく見えるまでに数年かかった。
しかし、各地で反乱が起こり、それを抑えるのが大変だった。
剣聖エルヴィン率いる軍勢が中心となって反乱を制圧していったのだ。
ヘルムートも私も慣れぬ執務で必死に帝国をまとめようとしていた。

そんな時にエンゲルがハウゼンに攻め込んだのだ。
エルヴィンは何故援軍を送らなかったかと攻めてくれたが、到底送れるような状況ではなかった。
まあ、ハウゼンが滅んだと聞いた時に、私を裏切るからバチが当たったのよと心の中で少しは思ったのは事実だ。それを否定するわけではないが、わざと援軍を送らなかったという事は無かった。


ハウゼンの危機を聞いてエルヴィンは私達が止めるのも聞かずに、勝手に対岸に渡ってくれるし、私は息子のことが気が気ではなかった。
なんとか無事に帰って来たくれたものの、なんとエルヴィンはメンロスの王太子と婚約していたカリーナの娘を連れてきていたのだ。
それも婚約したいと言い出したのだ。
私は驚いた。

いくら、エルヴィンが1年間お世話になったからと言って、亡国の王女を第一皇子の嫁にするわけはないではないか。こんなことならさっさと婚約者を決めておけば良かった。
皇位継承のドタバタでどうしても息子の婚約者選びが遅くなってしまった点は否めなかった。

ヘルムートと同じでカリーナの娘の美しさに当てられてしまったのだろう。
私とヘルムートは少し冷却期間をおけば熱が冷めると思った。
その旨を息子には伝えたのだが、息子はすぐに婚約すると言い張ってくれたのだ。

こうなれば致し方ない。私はカリーナの娘をその祖父母のいるディール伯爵家に送ろうと思った。離れれば、息子の気も変わるだろう。
そこまでの準備をして、私はカリーナの娘を呼び出したのだ。

しかし、カリーナは私からアレクシスを横取りし、死してなお、今度は私から息子を取り上げようとするなど本当に最後までムカつく女だ。
死んだのなら静かにしていれば良いものを。娘も素直にメンロスの王太子の婚約者に収まっていれば良かったものを、エルヴィンが帝国の継承順位第一位になった途端にそちらに乗り換えようとするなど母と同じではないか。本当に厚かましい女だ。
そんな事を考えていたのもあろう。

その娘があまりにもカリーナに似ていて、この私が冷静さを失う事態になるなど想像もしていなかった。


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