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白馬の騎士を諦めました

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私はルヴィの本名がエルヴィン・バイエルンだと、その時に初めて知ったのだ。

昔からルヴィとしか呼んでいなかったし、両親もそうだった。ルヴィは母の実家の帝国のディール伯爵家の遠縁の子供とだけしか聞いていなかったのだ。確かにディール伯爵家は皇后陛下を出しているベルナー公爵家と親戚だった。遠縁は遠縁であっている。でも、まさか、ルヴィが帝国の皇族だとは想像だにしていなかったのだ。お父様もお母さまも教えてくれていたら良かったのに! まあ、その時に極秘で預かっているというのもあったとは思うが……

ルヴィの本名、エルヴィン・バイエルン、帝国の現皇帝ヘルムート陛下のただ一人の皇子だ。すなわち、ルヴィは第一帝位継承者だった。

元々、ヘルムート陛下自体が帝国の第三皇子で、跡は兄の第一皇子殿下が継ぐはずが、お家騒動の後遺症で早くに亡くなっていて、現陛下が継がれたと聞いている。

だからその息子の第一皇子のエルヴィン殿下も元々継ぐ気は無かったと。
それで剣聖の地位を大叔父の剣聖から継いだと聞いていた。

そうだ。よく考えたらソニックブレードは剣聖の必殺技だと聞いたことがあった。
ルヴィは剣聖だったんだ。だからあんなに強かったんだ。

剣聖を継いだルヴィだったが、その父上が現皇帝になられたので、ルヴィは皇帝を継ぐのは確実だと言われている。

私はルヴィが帝国の第一皇子エルヴィン殿下だと知って、とてもショックを受けていた。

私はここにくるまではルヴィに完全におんぶにだっこだった。ルヴィにとても助けてもらっていた。というか、ルヴィが助けてくれなかったらとっくにエンゲル王国に引き渡されていた。

そんな私にとってルヴィは格好いい、白馬に乗った騎士様だったのだ。私の子どもの頃よく読んだ絵本の中の白馬の騎士様だった。
絵本の騎士様に少女は恋をして、そして結婚するのだ。

そんな絵本の少女のように、私はおそらくルヴィに恋心を抱いていたのだ。

でも、ルヴィが第一皇子殿下であるという事が判って、私の儚い恋心は砕け散ったのだ。



ルヴィが帝国の優秀な騎士だけなら、元王女で、国が無くなって平民落ちした私でもその隣に立てるかも知れないと少しは期待していた。

ルヴィが帝国の伯爵家の次男とか三男でも、最悪、母の実家のディール伯爵家の養女に加えてもらえばなんとかなるかもしれないとほのかな思いを抱いていた。

でも、ルヴィが帝国の第一皇子殿下では絶対に無理なのだ。

まだ、我がハウゼン王国が残っていたら少しは可能性があった。ハウゼン王国は弱小国といえども、一応、私は王女だったのだから。それでもとても難しかったと思うけれど……
でも、まだ可能性はあったのだ。

それが今は私は亡国の元王女なのだ。地位も名誉も何もなかった。
帝国の第一皇子になんか釣り合うわけもないのだ。


私はルヴィが仲間たちと再会を喜んでいるのをただ、呆然と見ていた。

私の恋は終わったのだ。

そんな黄昏ている私にルヴィは振り返った。

「リナ、紹介しよう。俺の副官のダニエル・ランマースだ。伯爵家の次男だ」
「ダニエル、こちらはアデリナ・ハウゼン王国王女殿下だ」
「いえ、殿下、私は元王女で今は平民です」
「はああああ! 何を言っているんだ。リナ。ハウゼン王国がなくなったというのは帝国は認めていない」
「しかし、それが事実ですし」
「何を言っている。そんな事は俺が認めない」
私はルヴィが何をそんなにこだわっているのか判らなかったけれど、無くなったのは事実だ。今更どうしようもないと思うのだけど。

「まあ、ルヴィがそう言っているんだから、認めて頂けると有難いですな。王女殿下。ダニエル・ランマースと申します」
ルヴィの横にいた、ダニエルが私に挨拶してきた。

「こちらこそよろしくお願いします」
私はダニエルに頭を下げたのだ。
二人は騎士学校からの友人らしい。もう学園時代の友人というものが唯一人も残っていない私にはとても羨ましかった。



私はルヴィに船の中に案内された。

私が案内された部屋はとても立派なものだった。

「殿下、このような部屋は私にはもったいなく」
「リナ、俺はルヴィだ。今までは普通に接してくれていたじゃないか! 殿下なんて仰々しい呼び方で呼んでくれるな」
ムッとしてルヴィが言って来た。

「だって、それは今までは私はあなたが帝国の第一皇子殿下だったなんて知らなかったから」
「ルヴィなのは変わらない。俺はリナのルヴィなんだ」
「そんなの帝国に行くのに、呼べるわけないじゃない。他の人の目もあるわ」
私はムキになって言った。

「何を言っているんだ。それを言えば君も王女殿下だろ。じゃあ俺もアデリナ殿下と呼んでやろうか?」
「いや、それだけはやめて」
ルヴィに私は頼んだのだ。ルヴィから他人行儀な口調で殿下と呼ばれるのは嫌だった。
でも、私は元王女だ。それに対してルヴィは今も立派な世界最大の帝国の皇子殿下なのだ。
私が馴れ馴れしくするわけにはいかないのだ。

「ルヴィ、ここまで私を助けてくれてありがとう。本当に感謝しているわ」
私はルヴィに頭を下げた。

そして、扉を閉めたのだ。それと同時に心の扉も閉めたのだ。

「ちょっとリナ!」
ルヴィが慌てて扉を開けようとした。

「ごめん、少し一人にさせて」
私の頭はもうパンパンだった。
少し整理しないと泣き出してしまいそうだった。
「しかし」
「お願い、ルヴィ」
私はそう言うと扉に鍵をかけたのだ。
そして、扉に背中を持たれかけさせた。

ルヴィはしばらく部屋の前にたたずんでいたが、諦めて去って行く気配をかんじた。

そう、これでいいのだ。
私とルヴィでは絶対に釣り合わないのだ。これ以上ぬか喜びするのは嫌だ。

私の瞳から涙が漏れ出してきた。
そして、涙は後から後からこぼれて来たのだ。私はそのまましばらく涙が止まるまでずっとそうしていたのだ。
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