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カジノに踏み込んできた聖騎士達から飛行船で逃げ出しました

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「さあ、セドリック・バース。今からあなたは私の下僕よ」
唖然とした俺の前に、艶然と微笑む、美女がいたのだ。

「な、何でお前は俺の名前を知っているんだ?」
俺は驚いて聞いていた。

「そんなの決まっているじゃない。自分の下僕にする人間を前もって調べない者なんていないでしょ!」
女は言ってくれたのだ。
という事は、こいつら俺を誰か知ってわざと声をかけてきたのか?
俺がトムを睨みつけると、トムは視線をそらしてくれた。

「貴様ら、嵌めてくれたな!」
「何のことなんだか。それよりもあんたにお客様よ」
女がとぼけた口調でそう言った時だ。

ダンッ
カジノの扉が蹴破られて、騎士に指揮された兵士達が雪崩込んできたのだ。
「「キャーーーー」」
中で賭け事に興じていた客たちが悲鳴をあげる。

「セドリック・バース。貴様をフィンズベリー司祭、殺人罪で捕縛する」
「な、何だと!」
俺には覚えのないことだった。フィンズベリーってベックマン司教が金を横領しているのを密告してきた司祭だった。

「貴様ら、無実の司祭を殺したのか!」
俺はプッツン切れた。

「何を言っている。殺したのはお前だろうが!」
そう言って騎士が笑ってくれた。

「よし、逮捕しろ!」
兵士達が俺に飛びかかってこようとした時だ。

「お待ちなさい!」
そこに大声で女が制止したのだ。

「何だ貴様。この男の共犯者か?」
騎士が誰何していた。

「それは違うわ。でも、その男は今、私の下僕になったのよ。私の下僕を勝手に連れて行く権利はあなた達にはないわ」
「な、何だと。そんな訳はあるか!」
「私はキャロライン・オールドリッチよ」
騎士の怒り声に女は名乗った。

キャロライン・オールドリッチ? どこかで聞いた名前だ。
でも、どこで聞いたんだろう? 俺には思い出せなかった。

「それがどうした?」
男も聞いたこともなかったみたいだ。

「閣下、ダメです。その女はカラミティ・キャロライン、厄災女です」
兵士の一人が悲鳴を上げた。

「や、厄災女だと、言う事は『傭兵バスターズ』」
騎士は蒼白になった。周りの兵士たちもさあっと引いた。

俺は唖然とした。この女、厄災女だったんだ。

そう厄災女が率いる『傭兵バスターズ』の名前は俺も聞いたことがあった。
なんでも魔物に襲われた街などを守る代わりの報酬に、その町の全財産の半分を取り上げるとかいう血も涙もない傭兵集団なのだ。払えないと泣き叫ぶ乳飲み子から哺乳瓶まで取り上げるという最悪の傭兵団だ。俺が前やっていたオレオレ詐欺団と変わらないではないか!

そのボスが厄災女、カラミティ・キャロライナで、最悪の魔女。この魔女の機嫌を損ねると平気で街一つ廃墟にする、厄災女だと聞いたことがあった。

俺は今、その傭兵団に嵌められてその厄災女の下僕にさせられたのか……

俺は唖然とした。

「貴様か、ベックマン司教を殺した極悪人は!」
騎士がなにか叫んでくれた。
「えっ?」
俺は驚いた。ベックマンって俺がフィンズベリー司祭の密告を受けて捕まえようとした司教の名前だった。俺の代わりに処分してくれたのか!

「ふんっ、そこの役立たずの元剣聖が横領で捕まえようとした悪徳司教でしょ。ついでにその事を密告したフィンズベリー司祭を殺した真犯人よ。当然、そんな悪徳司教は教会もろとも火あぶりの刑に処してあげたわ。あなた達もその悪徳司教の味方になるのなら同類として地獄に叩き落としてあげるけれど……」
カラミティ・キャロライナが妖艶な笑みを浮かべてくれた。

「えっ?」
兵士達に動揺が広がった。騎士と厄災女を交互に見る。


「ええい、何を躊躇っている。セドリックを殺人罪で捕縛せよとは大司教様直々の命であるぞ」
「ふうーん、大司教が黒幕だったんだ」
馬鹿にしたように厄災女は騎士に言ってくれた。
「「「えっ!」」」
兵士達に動揺が更に広がる。

「さあ、役立たずの元剣聖さん。どうするの?」
俺は厄災女に言われてムッとした。
確かに今回の件で俺は役立たずだったことは事実だ。
しかし、それを平然と言うな!
そう思いつつ、俺には残された道はなかった。このまま教会に留まっていても、大司教に捕まるのが関の山だ。

「判った。お前と一緒に行く」
「違うでしょ。私の下僕にさせてくださいよ」
厄災女が平然と訂正してくれた。

「な、何だと!」
「ああら、元剣聖様は賭けで負けたら、その体を好きにしていいって言ったのに、嘘だったのかしら」
「な、何を」
俺は厄災女を睨みつけた。
兵士達が好奇の視線を俺に向けてきた。
やめろ! そんな目で俺を見るな。

「ええい、者共、小奴らを全員捕まえよ」
騎士が叫ぶ。

「仕方がないわね。時間切れよ」
厄災女がそう叫ぶと手を上に上げたのだ。

ズドーーーーーン

次の瞬間魔術で天井がぶち破られたのだ。

次々に建物のかけらが落ちてきて、皆、床に伏せる。


天井から夜空が見え、それが黒い影で覆われた。

飛行船だ!

この女、こんなものまで持っていたのか!
俺は驚いた。

飛行船からロープが落ちてきた。

「お嬢、危うく船ごと爆発するところでしたよ」
その後上から声が落ちてきた。
「えっ、外したわよ。1センチ位」
厄災女がなにか叫んでいる。
厄災女と一緒にいると一緒の傭兵部隊に入っても命がけみたいだ。

「仕方ないからいらっしゃい」
女がロープを手に取ると俺に合図してきた。
いつの間にか胡散臭いデイーラーとトムはいなくなっていた。
先にロープを掴んだみたいだ。

ロープが引かれて厄災女が上に上がっていく。
仕方無しに、俺はギリギリロープに捕まったのだ。

「お前ら、待て」
「待つわけ無いでしょ」
叫んだ、騎士に向かって厄災女は火炎魔術を放っていた。

「ギャッ」
ズカーーーーーン
次の瞬間、カジノが火の海に沈んだのだ。

俺達は燃え盛るカジノを飛行船に引かれて後にしたのだった。
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ここまで読んでいただいてありがとうございます。
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