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第三部 隣国潜伏編 母の故国で対決します

王太子視点12 婚約者を追いかけてスカンディーナに向かいました

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テレーサ王女は頑なに何も話さなかった。中々強情だ。

しかし、もともとの病の発生源を辿ると、王女のお付きだった伯爵令嬢が予防薬だと言って配っていた薬が怪しかった。王女のお付きだった女性はアンのヒールのおかげで一命を取り留めていたが、「お前が配った薬というのが病の発生源だったんだ」
と話すと最初は信じなかった。ヴィルマルが薬の分析結果を詳しく話すと真っ青になって、今度はペラペラ話しだしたのだ。まあ、本人は薬だと思っていたとしか言わないからそれだけでは罪に問うのは可哀想なのだが、病を流行らせたのは事実だ。

それを元に騎士団長が王女に話しても、王女は頑なに知らぬ存ぜぬを通しているみたいだった。しかし、王女は強気で、自分と王太子である俺とが婚約しないと特効薬を渡さないと言い切っているのだとか。俺は直ちに対策するために騎士団長を王女の護送も兼ねて王都に返した。

パヤラの街には騎士団の半分が残った。その者達に国境の警備を厳重にさせるとともに、隣国の情報を探らせた。アンが隣国にいるかどうかは定かではなかった。

俺はしかし、待ってはいられなかった。

「俺はこれからヴァンドネル伯爵領に潜入してアンを探す」
俺は側近に話した。

「フィル、何を言っているんだ。お前は王太子だぞ。勝手に他国に潜入するなど許されると思うか」
ルーカスが言ってくる
「そうだ。父からもくれぐれもフィルにむちゃをさせないようにお前が監視しろと言われているんだ」
いつもは俺の側につくアルフまでもが言う。

「何言っているんだ。俺たちの命の恩人を探すだけだ。何が問題がある」
「それはそうだが、陛下の了解を取らないと」
「ふんっ、そんな暇はない。ルーカス、バート、お前たちもアンに命を救われたんだろう。それにアルフ、お前もアンはクラスメートじゃないか。そのアンが俺の母のせいでスカンディーナに帰ったなんてことが俺には許せない」
俺は拳を握って地面を叩いた。

「フィル、そこまで言うなら、探すなら俺とバートで行くぞ」
「そうだ。騎士団長のいないこの街の指揮官はお前ではないか」
アルフとバートが言ってきた。

「もう、山場は終わった。後は副騎士団長に任せても問題はないだろう」
俺はバートに言った。

「それに自分の婚約者を探しに行くのに、他人を行かすバカがどこに居るんだよ」
俺はそう言うと
「今回、スカンディーナの陰謀に嵌められた母に成り替わって、アンに俺は謝らなければいけない」

「しかし、」
「フィル」
「王太子が勝手に他国に潜入するのは良くないだろう」
ルーカスが最後に言う。

「何を言っている。奴らはこの国の国民に疫病を流行らせたのだ。それをアンが救ってくれたんだ。我が王国は人としてあるまじき行為をしたのに、それにもかかわらず無償でだ。
あの役立たず聖女を見ろ。疫病を怖れておっかなびっくりしているからヒールも効かないんだよ。アンなんて1発で皆を治してくれたんだぞ」
俺は机を叩いた。

「俺は1国の王太子として、いや人としてアンに詫びなければいけないんだよ。お前らが来ないなら、俺は一人でも行く」
「わかったよ。俺も一緒に行くさ」
「俺もアンに命を救われたんだ」
アルフとバートが言ってくれた。

「ルーカスは残るか」
「馬鹿言うな。俺もアンに命を救われたのは同じだ。俺も行く」

俺たちは夜陰に紛れて、宿屋を出た。
置き手紙を残して。


しかし、
「殿下方。どちらに行かれるのですか」
俺たちは宿を出た所で魔術師団長のヴィルマルに見つかってしまった。

「ヴィルマル。お前、王都に騎士団長と一緒に帰ったのでは」
俺は慌てて聞いた。

「何を仰っているんですか。王都からなんて転移を2、3回使えば帰ってこれますからな」
ヴィルマルは笑って言った。
俺はヴィルマルも転移を使えるのを忘れていた。

「陛下からは殿下が余計なことをしないように見張れと言われて来たのですが」
嫌な奴に見つかったと、俺らは思った。こいつの実力は折上付きで、撒くのは難しそうだった。

「ヴィルマル。すまない。見逃してくれ」
「殿下。殿下が行って、もし何かあったら戦争になりますよ。確実に」
ヴィルマルが呆れて言った。

「ふんっ、疫病を我が国に持ち込んだ時点で戦争ものだろう」
俺は言い切った。

「絶対に殿下にスカンディーナには行かせるなと陛下から命令を受けているのですが」
そう言うと、ヴィルマルは俺を見た。

俺は思わず剣に手をかけた。でも、剣を手にしてもこいつに4対1でも勝てる気がしなかった。

ふと、ヴィルマルが目をそらせてくれたのだ。

「アンネローゼ様をよろしくお願いします」
そして、あろう事か頭を下げてきたのだ。

「ヴィルマル!」
「私が来た時には殿下は出奔したあとだったと陛下にはお伝えします」
ヴィルマルは俺たちを見逃してくれるようだ。

「恩に着る」
俺が言うと、
「アンネローゼ様が傷ついたら承知しませんからね」
そう言ってヴィルマルは後ろを向いてくれたのだ。

「それと国境はスカンディーナの兵どもで固められております。西側の山は険路ですが、私ならそちらから入りますね」
そう、後ろから声をかけてくれたのだ。

「判った。必ずアンは守るから」
俺たちはそう言うと歩き出した。
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