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第三部 隣国潜伏編 母の故国で対決します

親切にしてくれた奥さんが高熱で倒れたので、私が病原にされてしまいました

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私が気づいた時、知らない民家の布団に寝ていた。

どこだろう? ここは?

私は周りを見回した。


「気付いたかい?」
人の良さそうなふくよかな熟年の女性が声をかけてくれた。

「あんたは2日間も寝ていたんだよ」
「えっ、そうなんですか」
私は驚いた。気絶してから2日も経っていたんだ。どこで気絶?

「ここは」
「ここはムオニオ村だよ。スカンディーナ王国の外れにある」
女の人の声に私は思い出した。
フィル様にお別れを言った後に、メルケルを思い描いて転移したのだけど、何故か全く知らない村の中に転移してしまったのだ。まあ、スカンディーナ王国で知っている所は無いけれど。

やっぱりフィル様ほど想っていないとちゃんと転移できないのかもしれない。

それにここは敵地だ。伯爵領内は味方だと思うけれど、実際はどうかは判らない。

そして、あろうことか、私はこの数日の疲れが溜まっていたのか、そのまま気を失ってしまったのだ。

「ご迷惑をおかけしてすみません」
「迷惑なんて無いさ。困った時はお互い様だよ」
「ふんっ、疫病神が」
竈門の横に座っていた男の人が私を憎しみに見た目で睨んできた。

「あんた、しつこいね。次、言ったら今度こそ外に放り出すからね」
さっきまでの女の人が怒って言った。
「いや、おまえ、それは」
「いい加減におし」
その女の人の一言で男は黙ってしまった。


私はわけが分からなくて黙っているしか無かった。

後で聞いた話だが、彼がここの主人だった。私を彼の妻のヒルッカさんが看病しているのを見て疫病かもしれないと懸念して追い出そうとしたら、逆に厩に叩き出されてしまったとか。
この家にはあとは娘のイリヤさんが14歳で、息子のアーロンくんが10歳、その他におばあちゃんのイラさんがいた。

「しかし、アンさんの髪の色はアンネ様のようにきれいな真っ赤だね」
おばあちゃんが褒めてくれた。

「母さん、アンネ様のことは口にしてはいけないってあれほど言っているだろう」
息子のヘイモさんが怒って言った。
「どこの誰に聞かれているか知れたものじゃないからな」
「そんな事言ったって、もうアンネ様が殺されたのは15年も前の話だろう」
「だから母さん、その話はしてはいけないよ」
ヘイモさんがきつく言った。

やはりこの村でも母の話は禁句みたいだ。それでも、このおばあちゃんみたいに、思い出してくれる人もいるんだ。私はそれを聞いて少し嬉しかった。

「それでアンさんは何故、この村に?」
「伯爵様の領都にいる知り合いに会いに来たのです」
「そうなのかい。でも、女一人旅は危ないよ。良くここまで大丈夫だったね。最近は治安も悪いからね」
ヒルッカさんが心配して言ってくれた。
「心配してくれてありがとうございます」

「でも、治ったのならばすぐに出ていってくれるかい」
ヘイモさんに言われた。
「あんた、何言うんだい。本当に叩き出してやろうか」
ヒルッカさんが立ち上がってヘイモさんを睨みつける。

「アンさん、こんな奴の言うことを聞く必要はないからね。良くなるまでいつまでもいてくれていいんだよ」
ヒルッカさんはそう言うけれど、そう言うわけにも行くまい。でも、この村の感じでは、アンネローゼとして現れてもそう簡単に皆に受け入れられるかどうかも判らない。ここはしばらく様子を見ようと私は思ったのだ。メルケルのところに行くのはもう少し様子を見てからだ。行ったら何しに来たって言われたら元も子もないし。伯爵に来てほしいと要請を受けたわでもない。

「すいません。もう二、三日いさせてもらえますか。出来ることは何でもしますから」
私がヒルッカさんの方を見て言うと
「ああ、いつまでもいてもらっていいよ」
「勝手にしろ」
ヘイモさんは怒って出ていった。

私は次の日からヒルッカさんとイラさんを手伝った。
二人は特に私の裁縫の腕を褒めてくれた。育ての母に鍛えられたのだ。そんじょそこらの針仕事ではない。私は玄人はだしだった。アーロンくんの服のほころびを直したり、へイモさんの革の帽子を作ったりした。

「アン姉ちゃん。このズボン直してくれたんだ。ありがとう」
「アンさん。ここはどうすればいいの?」
アーロンくんとイリヤさんはすぐに私に懐いてくれた。


「何だこの変な帽子は」
しかし、ヘイモさんは相変わらず私には辛辣だ。
それを聞いたヒルッカさんが旦那の頭を思いっきりしばしいてくれた。

「す、すいません。オースティンの流行りの型にしてしまいました。スカンディーナ風の方が良かったですか」
「当たり前だ。変な帽子はいらん」
「じゃあかぶらなければいいだろう。隣のハッリさんの所にあげてくるよ」
ヒルッカさんが切れていた。
しかし、文句を言ったヘイモさんだったが、その帽子を翌日被って村の集会に行ったら、皆に褒められたととてもご機嫌で帰ってきた。
それからは私について何も言わなくなった。

この村では別にアンネローゼ王女を待望しているなんて話はどこにも出なかった。井戸に水汲みにも行かしてもらって色んな人と話をしたけれど、皆からの不満は最近領主が税を上げたので、それに対する不満だった。
反乱を起こすために資金集めをしているのだろうか。反乱を起こすために税を上げたのならば、皆がどんな反応をするか判ったものではなかった。

伯爵の館に私が顔を出せば確実に反乱を画策している領主となるだろう。それが良いのかどうかも判らなかった。

オースティンで居る場所が無くなって、スカンディーナに来たが、この村にいる限り、アンネローゼ王女が求められている訳ではないのが、よく判った。

もし求められていないのならば、この地から去ったほうが良いのではないか。

そう思い出した時だ。

ヒルッカさんがいきなり高熱で倒れたのだ。
「おい、そこの赤毛、お前が疫病の病原菌を持って来たんだろう」
今まで静かにしていたヘイモさんが俄然元気になって言い出したのだ。





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