上 下
302 / 309
第五部 小国フィーアネンの試練編

【これラノ2023ノミネート記念】ある子爵家当主の謀 フランの宝剣で天罰が下りました

しおりを挟む
私はバリエ子爵だ。

この北方の国境地方、バリエ地方では最大の領主だ。昔は伯爵だったそうだが、数代前の先祖が罪を負って子爵に降爵されたのだ。周りの子爵領や男爵領は元々我が領地だったのだ。その主の子爵共が我が物顔で私に接してくるのが私には許せなかった。時が時ならば伯爵様と尊ばれているはずなのに、子爵風情と並ばれてしまうとは……

元々伯爵家の領都だったバリエは人口も3万人を超えて、国境近くにあって隣国との交易の中心地として、このあたりでは一番栄えていた。王都には流石に敵わないが、田舎公爵のルブラン公爵の領都よりは栄えていたのだ。元々伯爵領の領都だったのだから当然だが……。だから普通の子爵領と比べても規模が大きかった。その分収めるのも大変なのだ。費用も色々とかかる。

そんな我が家の悲願は伯爵位に返り咲くことだった。今回のグロヴレ侯爵からの誘いに乗ったのも、全ては伯爵位に返り咲くためだったのだ。

その侯爵の反逆が潰されたとの報で私は焦っていた。
一緒に立ち上がる予定だったので、付近の領主にも色々と手を伸ばしていたのだ。

王家に忠義一筋だったアベラール男爵家が、帝国の侵略の手先の帝国教の司祭のアヒム・オドランの奸計に引っかかって籠絡されたと知って、私は男爵家に向かった。

私は場合によっては周りの諸家と共に、このまま、エルグラン王国を抜けて帝国領になるしかないと考えていた。

「これはこれは子爵様。ようこそお越しいただきました」
胸に十字架の首飾りを付けたアベラール男爵が頭を下げて迎えてくれた。

「これは男爵、丁重な出迎え痛み入りますな。お体は大丈夫ですか?」
「はい、これも、子爵様が派遣して頂いた司祭のオドラン様のおかげです」
男爵は今までの冷たい態度が嘘のようにとても私に親しみを寄せてくれていた。

「いやいや、これも全て神のお導きです。男爵家の皆さまが敬虔な信徒で良かった」
オドランが胡散臭い笑みを浮かべて答えていた。

「いやいや、これもそれも司祭様の奇跡のお力のおかげです」
「何を言われるか。奇跡は神を信じていただかなないと発揮されないのです。それだけ皆様が神を信じていただいているからここまで効いたのです」
さすが帝国教のペテンだ。ここまでうまくやってくれるとは思ってもいなかった。

そう言うと意味ありげにオドランは私の方を見てきた。
これでもう、男爵は俺のことを聞いてくれるはずだ。

神の予言でエルグラン王家を見捨てよと告げさせればよいのだ。

神が破門した不信心なルブラン家を重用しているエルグラン王家を見捨て、神を崇める帝国の下に馳せ参じよと。そうでないと再びこの地に疫病が流行るだろうと言わせればいいだけの話だった。

「王家からは今回の疫病に対して医者などを派遣して頂けたのですかな」
私は聞いてやったのだ。
「いや、そう言う事はまだ」
控えめに男爵が答えてくれた。

「なんとも遅いことですな。本来ならばすぐに対策して頂けなければならないのに。そのために我々は税を王家にお納めしているのですぞ」
私が少し文句を言ってみる。
「まあ、王家も今は氾濫の後片付けで、色々お忙しいのでしょう」
男爵がまだ王家の肩を持って言ってきた。
「男爵様。王家の仕事は疫病などが流行った時に即座にその病の処置をして民を助けることではありませんかな」
オドランが横から援護して言ってくれた。

「それはそうですが」
「配下の領主が困った時に即座に手を差し伸べてくれる者こそ、真の王家、配下の咎を見つけて罰するだけが王家の役割ではないのではありませんか。そのような民を民とも思わぬ行いをしていると王家と言えども因果応報で、必ず天罰が下りましょう」
私は少しオドランが言い過ぎたと思ったのだ。まあ、男爵をこちらに引き込むための言葉の綾だとは思ったが、あくどいことをしているのはこちらだし……
そう、思った時だ。

「ギャーーーー」
突然オドランが胸を押さえて、この世の終わりのような悲鳴をあげたのだ。
そして、オドランは叫び終えるとばたりと倒れたのだ。泡を吹いて。
体中から黒い煙を漂わせていた。

私達は唖然としてオドランを見ているしかなかったのだ。

**************************************************
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
『次にくるライトノベル大賞2023』にノミネートされた当物語。
https://tsugirano.jp/

投票は明日6日の17時59分まで
投票まだの方は是非ともよろしくお願いします!
ノミネートの場所は上から5番目です。
古里
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

愛する誰かがいるんなら私なんて捨てればいいじゃん

ヘロディア
恋愛
最近の恋人の様子がおかしいと思っている主人公。 ある日、和やかな食事の時間にいきなり切り込んでみることにする…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。