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第三部 ルートン王国交換留学編

シルビア王女視点 兄の思惑が初めて判りましたが、私は自分が犠牲になろうと思いました。

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私はシルビア・ルートン、ルートン王国の第一王女として自分としては頑張っているつもりだった。
そう私は独りよがりにも思っていたのだ。兄の心も知らずに……


最近、敬愛するフェリペお兄様がとても変だ。

私の友達の婚約者のソニアを蔑ろにして、あろうことか私の喧嘩友達のフランに機会を見ては近付こうとしているのだ。

でも、フランはソニアに比べて月とスッポンのスッポンの方だ。

顔はソニアのほうが圧倒的に美人だし、お淑やかだ。

片やフランはガサツで礼儀作法は全然なっていない。考えも単純で、私の挑発にすぐに乗ってくる単細胞だ。どちらかって言うと王妃というよりも騎士団長の方が似合っている。

もう一方のソニアは礼儀作法は完璧、思慮深く、周りに対しての思いやりも深い。裁縫や刺繍は得意で、由緒正しい未来のルートン王国の王妃としては絶対にソニアの方が相応しいのだ。

フランのソニアに勝るところと言えば公爵令嬢である点だけだった。でも、ソニアは元々アルメリア王国の王女であんなことがなければソニアの方が地位も上だったのだ。

それに、あろうことかというか、信じられないことだが、フランにはエルグラン王国のアドルフ王太子殿下という婚約者がいるのだ。フランがいいというそのアドルフ殿下の気持ちがよく判らないが、もう長年の習慣になってしまったんだろう。アドルフ殿下なら選り取り見取りなのに、フランなんかで良いのかと私は思わずガン見してしまったのだが。

殿下は完全にフランに尻に敷かれていて、いつも土下座して謝っているんだけど、それでいいのか?
私がこうエルグランの人間に聞くと、
「本当にお恥ずかしい限りですわ」
「フランのあの傍若無人ぶりは私達貴族も眉を顰めているんです」
グレースとローズが言ってくれるんだけど。

そのフランにお兄様が手を出すなんて、それこそ、貴族の不文律や習慣、礼儀作法をいくつも破ることになるだろう。

問題が大きくなる前に、私はお兄様に話そうとしたら、お兄様は明日の最終日の予定の打ち合わせで王宮に帰ったとのことだった。私はそのお兄様を追って王宮に帰ったのだ。

そして、そこで父と兄の会話を盗み聞きしてしまうことになったのだ。

「フェリペ、どうなのだ。フランソワーズ嬢とはうまくいっているのか」
なんと父がそう聞いているのだ。そんなバカな、父が今回の常識知らずの件を全面的に推しているのか? 私には信じられなかった。

「それほどには。アドルフの邪魔も入って全くうまくいっておりません」
「巷に広まっている王太子とフランソワーズ嬢の恋愛物語か」
父はため息をついて言った。

「しかし、アルメリアはシルビアのアルメリア王子への輿入れを強引に求めて来ているのだ。このままでは断り切れないぞ」

私は父の言葉に思わず固まってしまった。

なんですって! 私のアルメリア王子への輿入れですって!

私はそんな事は今初めて聞いた。

「更にはそのお付き女官としてのソニア嬢の引き渡しをもアルメリアは強引に求めてきているのだぞ」
更に父は爆弾発言を続けてくれたのだ。

そんなのソニアをアルメリアに引き渡したら、王家の血を継いでいるソニアは殺されてしまうはずだ。

「その方がソニア嬢を庇ってもいつまでも庇い続けまい。そもそもアルメリアはソニア嬢とお前が婚姻すればそれはアルメリアへの宣戦布告だと抜かしてきたのだぞ」
私はその事にも信じられなかった。

「そんな。それは完全に内政干渉ではありませんか」
「そうだ。しかし、アルメリア王国との全面戦争になれば、奴らは海上封鎖を行ってくるだろう。我が国は貿易立国だ。海上が封鎖されると貿易が減って、今より苦しい状況に陥る。それを打破するには、何としても帝国にも一目も二目も置かれているルブラン公爵家の姫とお前の婚姻が必要なのだ」
苦渋の父の声が聞こえた。

「このままではソニアを引き渡して、シルビアにもクラウディオと分かれさせてアルメリアに輿入れするしかなくなるのよ。頼むわ。フェリペ。あの二人を守るにはもうこれしか無いのよ。ソニアにはその時はつらい目に合ってもらうけれど、でも、あの子の命を守るためなのよ」
母の泣いているような声が聞こえた。

そうか。兄は私とソニアのために、自分が犠牲になろうとしていたのだ。
あんなガサツなフランのどこが良いんだろうと思っていたけれど、彼女を対アルメリアへの戦力として見ていたのだ。それならば全て判る。

兄は自分を犠牲にしてガサツなフランと婚姻して私とソニアを守ってくれようとしていたのだ。

でも、そんなのはおかしい。

私もルートン王国の王女なのだ。

ここは私一人が犠牲になってアルメリア王国に我慢してもらうように話をしに行こう。

ディオの事が脳裏に浮かんだけど、兄一人、犠牲にならすわけにはいかない。

なにしろ私はこの国の王女なのだ。

アルメリアは野蛮な国というイメージがあるが、野蛮さで言えばフランの右に出る者はいないはずだ。アルメリアの王子といえどもあれほど酷くはないだろう。

そもそも、私がフランのようにアルメリア王子を尻に敷けばいいだけの話だ。

私はそう決意するとその場を後にしたのだった。
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