上 下
439 / 444
第十三章 全能神の逆襲

大国皇太子は筆頭魔導師に積極的にアタックしようと心に決めました

しおりを挟む
オーウェンはシャラザールがノルディン帝国の5万人を粉砕するのを見て、慌てて臨時のスカイバードに飛び乗った。

「ちょっとオーウェン、どこに行くんだよ」
「内務卿!」
「えええ、この仕事ほっていくんですか」
ヘルマンやシュテファンが叫ぶ中を無視して飛び出したのだ。

そろそろあいつらだけでも対処できるようにならないといけないはずだ。


機内は医療物資とかクリスの侍女のミアとアデリナを始め、クリスの文官たちを載せていた。
オーウェンは機内でも次々に指示を飛ばし、連絡するところは連絡していく。
まあ、メインは終わったのだし、あのままいる必要もあるまいと思い飛び出したのだ。
一番の理由はクリスが心配だったというのがあるが。
どこに恋人を戦場に送りたい男がいるというのだ。本来ならば絶対に反対だった。でも、戦力的にクリスが行かないと話にもならず、やむを得ず許可したのだ。
本来は自分も行きたかった。しかし、誰が後方を見ると言われると自分しかいなかったのだ。今回はテレーゼ女王のお力も借りたし、オーウエンがいるしか無かった。でも、そろそろ、どんどん移譲していくべきだとは思うのだ。実際にさせてみないと、オーウェンもアレクもコレキヨもいつまでもボフミエの地にはいないのだから。
しかし、クリスが本当に自分のもとに来てくれるのだろうか。そのままボフミエの地に残ると言われたらどうしたら良いのだろうか。
オーウェンは最近、そこが心配だった。


2時間の飛行でスカイバードはボフミエについた。

「これはこれはオーウェン様。ようこそ、このボフミエの地にお越し頂きました」
極秘で出てきたつもりが、腰巾着のトリポリ国王が迎えてくれた。

「この度は色々迷惑をかけたな」
「いえ、そのような滅相もございません。筆頭魔導師様は、王宮の客室にご案内させて頂きました」
さすがトリポリ国王。捕まえなければいけないところはしっかりと把握している。

と言うか絶対に
「シャラザールをだろう」
オーウエンが言う。

「いや、そのようなことはございません。筆頭魔導師様はこのトリポリ国の救世主でいらっしゃいます」
「本当にそう思っているのか」
「当然でございます。何しろアレクサンドル様は野戦病院でございますから」
「それはそれでクリスはまた、自分だけが特別扱いされたと嫌がるのではないか」
「クリス様は過労だけのようですし、明日には元気になられますでしょう。都合が悪ければその時に移動頂ければよいのではないですか」
「まあ、そうだな」
「で、こちらでございますよ」
案内された部屋は特別室のように豪勢な部屋だった。これは絶対に後で嫌がるとオーウェンは思ったが、取り敢えずなら良いだろう。

中の侍女たちがさっと引いていく。
「では、オーウエン様。くれぐれもシャラザール様を怒らすようなことはなさいませんように」
最後に釘を刺してトリポリ国王は出ていった。

「あいつ、好き勝手なことを」
オーウェンはブスリと言った。

オーウエンが好きにしようとしても、シャラザールの怒りが怖くてクリスには中々手は出せなかった。
というか、クリスはとても純情で下手にすると怒って一ヶ月も口を利いてもらえない可能性もあった。
その力加減がとても難しいのだ。

ベッドで寝ているクリスはとても可憐だった。
思わず、オーウェンはクリスの頬に触った。
昔怒って頬をふくらませるクリスの頬をよくつついてからかっていたな、と昔をオーウェンは思い出していた。

クリスが寝返りを打つ。クリスが布団からはみ出したので、布団をかけてやる。

クリスが熱を出して寝込んだ時があって、その時もずうっと傍にいて看病してやったことも思い出していた。
あの頃はクリスは自分のものだったのに、あれからいろいろあってクリスは今や押しも押されぬ筆頭魔導師となっていた。

ライバルも多いし、ムカつくことも多いが、一応自分は大国ドラフォードの皇太子で、今でもクリストは十分に釣り合うはずだった。

オーウェンはそのクリスの頬を撫でる。

クリスが微笑んだように見えた。

布団からはみ出しているクリスの手を握る。

クリスの手は暖かかった。

絶対にクリスを今度こそ、離してはいけない。

クリスの両親やドラフォード国内の外堀はある程度埋めたので、今後はクリスに積極的にアタックしようと、クリスの寝顔を見ながらオーウェンは心に誓ったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者と幼馴染があまりにも仲良しなので喜んで身を引きます。

天歌
恋愛
「あーーん!ダンテェ!ちょっと聞いてよっ!」 甘えた声でそう言いながら来たかと思えば、私の婚約者ダンテに寄り添うこの女性は、ダンテの幼馴染アリエラ様。 「ちょ、ちょっとアリエラ…。シャティアが見ているぞ」 ダンテはアリエラ様を軽く手で制止しつつも、私の方をチラチラと見ながら満更でも無いようだ。 「あ、シャティア様もいたんですね〜。そんな事よりもダンテッ…あのね…」 この距離で私が見えなければ医者を全力でお勧めしたい。 そして完全に2人の世界に入っていく婚約者とその幼馴染…。 いつもこうなのだ。 いつも私がダンテと過ごしていると必ずと言って良いほどアリエラ様が現れ2人の世界へ旅立たれる。 私も想い合う2人を引き離すような悪女ではありませんよ? 喜んで、身を引かせていただきます! 短編予定です。 設定緩いかもしれません。お許しください。 感想欄、返す自信が無く閉じています

あっさりと初恋が破れた俺、神からのギフトで倒して殺して奪う

Gai
ファンタジー
男の子は幼いながらに知ってしまった。 女の子が男の子を好きになる要因は顔なのだと。 初恋が敗れたと知った四歳のティール。 父に、母に、兄に慰めて貰ったが、直ぐに傷が癒えることは無かった。 だが、五歳になった翌日、ティールは神からのギフトを得た。 神からのギフト、それは誰しもが与えられる神からの恩恵では無く、限られた者のみしか得られないスキル。 後天的に習得出来るスキルであっても、内容は先天的に得たスキルの方が強い。 そしてティールが得たスキルは強奪≪スナッチ≫ そして知性。 この二つのスキルを得たティールの思考が、考えが、未来が一変する。 「そうだ、初恋に敗れたからなんだ。そんな消し飛ぶくらい人生を楽しんでやる!!!」 さて、ティールはその知性で何を考え、奪取≪スナッチ≫で何を奪うのか

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

お妃候補に興味はないのですが…なぜか辞退する事が出来ません

Karamimi
恋愛
13歳の侯爵令嬢、ヴィクトリアは体が弱く、空気の綺麗な領地で静かに暮らしていた…というのは表向きの顔。実は彼女、領地の自由な生活がすっかり気に入り、両親を騙してずっと体の弱いふりをしていたのだ。 乗馬や剣の腕は一流、体も鍛えている為今では風邪一つひかない。その上非常に頭の回転が速くずる賢いヴィクトリア。 そんな彼女の元に、両親がお妃候補内定の話を持ってきたのだ。聞けば今年13歳になられたディーノ王太子殿下のお妃候補者として、ヴィクトリアが選ばれたとの事。どのお妃候補者が最も殿下の妃にふさわしいかを見極めるため、半年間王宮で生活をしなければいけないことが告げられた。 最初は抵抗していたヴィクトリアだったが、来年入学予定の面倒な貴族学院に通わなくてもいいという条件で、お妃候補者の話を受け入れたのだった。 “既にお妃には公爵令嬢のマーリン様が決まっているし、王宮では好き勝手しよう” そう決め、軽い気持ちで王宮へと向かったのだが、なぜかディーノ殿下に気に入られてしまい… 何でもありのご都合主義の、ラブコメディです。 よろしくお願いいたします。

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

欲しいというなら、あげましょう。婚約破棄したら返品は受け付けません。

キョウキョウ
恋愛
侯爵令嬢のヴィオラは、人の欲しがるものを惜しみなく与える癖があった。妹のリリアンに人形をねだられれば快く差し出し、友人が欲しがる小物も迷わず送った。 「自分より強く欲しいと願う人がいるなら、譲るべき」それが彼女の信念だった。 そんなヴィオラは、突然の婚約破棄が告げられる。婚約者である公爵家の御曹司ルーカスは、ヴィオラを「無能」呼ばわりし、妹のリリアンを新たな婚約者に選ぶ。 幼い頃から妹に欲しがられるものを全て与え続けてきたヴィオラだったが、まさか婚約者まで奪われるとは思ってもみなかった。 婚約相手がいなくなったヴィオラに、縁談の話が舞い込む。その相手とは、若手貴族当主のジェイミーという男。 先日ヴィオラに窮地を救ってもらった彼は、恩返しがしたいと申し出るのだった。ヴィオラの「贈り物」があったからこそ、絶体絶命のピンチを脱することができたのだと。 ※設定ゆるめ、ご都合主義の作品です。 ※カクヨムにも掲載中です。

会えないままな軍神夫からの約束された溺愛

待鳥園子
恋愛
ーーお前ごとこの国を、死に物狂いで守って来たーー 数年前に母が亡くなり、後妻と連れ子に虐げられていた伯爵令嬢ブランシュ。有名な将軍アーロン・キーブルグからの縁談を受け実家に売られるように結婚することになったが、会えないままに彼は出征してしまった! それからすぐに訃報が届きいきなり未亡人になったブランシュは、懸命に家を守ろうとするものの、夫の弟から再婚を迫られ妊娠中の夫の愛人を名乗る女に押しかけられ、喪明けすぐに家を出るため再婚しようと決意。 夫の喪が明け「今度こそ素敵な男性と再婚して幸せになるわ!」と、出会いを求め夜会に出れば、なんと一年前に亡くなったはずの夫が帰って来て?! 努力家なのに何をしても報われない薄幸未亡人が、死ぬ気で国ごと妻を守り切る頼れる軍神夫に溺愛されて幸せになる話。 ※完結まで毎日投稿です。

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
恋愛
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

処理中です...