上 下
400 / 444
第十二章 婚活と雪女

クリスらはサウス王国に遠征に行き、宰相から山を吹き飛ばしても良いとお墨付きをもらいました

しおりを挟む
翌日クリスらを乗せたスカイバードの特別機が一路サウス王国を目指した。

ナッツァの空港ではオーウェン、ウィル、アルバートらがついていきたいという希望を述べて犬のようにしっぽを振るようにしていたが、クリスは全く無視したのでしゅんとしていた。

ロルフは彼らと何とか変わって欲しいとそれを見ていたが、その希望を打ち砕かれてがっかりしてスカイバードに乗った。

そして、一番うしろに座るが、後ろから見るとアレクとジャンヌの大きな魔力の塊にそれを上回ってスカイバードの中に到底収まりきらないクリスの巨大な魔力の塊に押しつぶされそうな気分に襲われる。これが数時間続くのかと思うと、暗澹とする気分だった。

「クリス様。これよりスカイバードはまだ雪害にあっていないサウスの北部のノースゲートに向かいます。ノースゲートには王都から逃れた宰相のオモンディが迎えてくれるそうです」
アレクが報告する。

「わかりました。雪女はどこにいると思われますか」
「一時期は王都にいたようですが、今は南の山脈地帯にいるのではないかと思われます」
「山脈地帯に乗り込むのか」
ジャンヌがワクワクして聞く。

「しかし、ジャンヌ。吹雪の中、北の山脈に行くのは南国育ちの者には厳しいのではないか」
寒い国であるノルディン帝国やマーマレードの北部は寒い地方だったが、ボフミエ出身のビアンカやロルフは厳しそうだった。

「やはりジャルカ様がおっしゃっておられたように、冷気の元を叩く必要があると思います」
クリスが言う。

「えっ、じゃあ南山脈を吹き飛ばすのか」
驚いてジャンヌが聞いた。

「いえ、さすがに吹き飛ばすのは難しいかと思いますが、私が攻撃すればある程度の氷は溶けると思うんです。そこで動揺した雪女が出て来たところを叩くのはどうでしょうか」
クリスが言う。

連れてきた魔導師や騎士はお互いをみやった。

クリスが攻撃したら南山脈の山々が無事に済むという保証はないのではないかと。

何しろクリスは既に山を2つ消滅させている。

これが3っつめにならないと言えるものは誰一人としていなかった。と言うか反対に大半の者はそうなるのではないかと危惧したのだった。



数時間の長時間飛行を終えて、スカイバードの特別機はサウスゲートに着陸した。
海に水しぶきを上げて着陸すると臨時に作られた桟橋に横付けされる。

「これはこれは北の皇太子殿下。ようこそこの南の王国にいらっしゃいました。私はサウス王国の宰相のオモンディと申します」
先頭で降り立ったアレクに壮年の宰相が声を駆けてきた。

「お出迎え痛みいる。ボフミエ魔導国の外務卿のアレクサンドルだ」
二人は握手をした。

「そして、我が国の筆頭魔導師様のクリスティーナ様だ」
アレクはクリスを紹介したが、

「これはようこそ、いらっしゃいました」
一応オモンディは頭は下げたが、即座にその後ろから降りてきた自国の皇太子に向いた。

「これは皇太子殿下。北の皇太子殿下をお連れ頂けるなど、大層なご活躍でしたな」
宰相はその労をねぎらう。
サウスでは女性はあまり重きを置かれていず、オモンディは降りてきた女性が、その華奢な姿かたちからも世界最強魔導師だとはとても思えなかった。



一同は状況把握のために広い部屋に案内された。

「状況はひどいのか」
チャドウィックが聞く。

「報告したように王都はもはや氷漬けです。大半の民は北の穀倉地帯に逃しましたが、このままではジリ貧です。何としても冷気の進出を止めないと」

「その冷気なのだが、南の山脈を魔術で攻撃して氷を溶かすといてのはどうだろうか」
アレクが提案する。

「それが出来ればそうしていただきたいのですが、いくら貴方様でもなかなか厳しいのでは」
宰相が疑問視する。巨大な氷を溶かすには大量の魔力がいるし、普通の魔術師がやっても焼け石に水だった。

「私でなくて筆頭魔導師様がしていただけると思うのだが」
アレクの一言で、宰相はクリスを見る。

「このような華奢な令嬢がですか」
いぶかしそうにオモンディは言った。

「筆頭魔導師様は貴国の皇太子を追ってきた雪女の分身を一撃で退治されたのだ。おそらく有効な手段になると思うが」

「まあ、北の皇太子殿下がそうおっしゃられるならお任せいたしますが、そのお体では山々はびくともしないのではありませんかな」
馬鹿にしたようにオモンディは言った。

「どこまで出来るか判りませんが、全力で勤めさせて頂きます」
クリスが下手に出る。

「ええ、ええ、山を吹き飛ばすなり、消滅させるなり、好きにして頂いて全然構いませんよ」
笑って宰相のオモンディは言った。

周りのボフミエの者たちは宰相からのお墨付きに安堵した。
特にクリスはそう思った。
これで山々を消滅させても何も文句は言われないと。

宰相はクリスの魔力量の多さを見誤っていた。

宰相は後ほどこのように言った事をとても後悔することになるとは思ってもいなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

処理中です...