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第十二章 婚活と雪女

クリスらは自ら給仕をすることにしました

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それからがてんやわんやだった。

そもそも、今回はクリスの母の侯爵夫人シャーロットとオーウェンの母の王妃キャロラインしか想定していなかったのだ。
それがテレーゼ女王とエリザベス王妃、更にはサウス王国皇太子が加わってあっという間に収容人数オーバーした。ドラフォードやテレーゼから来た貴族夫人の数も多く、当然キャパオーバーだった。
建物はあってもサービスする人がいなかった。


「どうしますか。オーウェン様」
馬車で王宮に向かいつつフェビアンが尋ねる。

「この前のアーサーの時の不手際で侍女の数を増やしたろう」
「しかし、日がまだ浅く、礼儀作法が全然出来ておりませんが」
「ドラフォードの連中は俺が抑える。マーマレードはクリスがなんとかしてくれるだろう。最悪ジャンヌを投入する。テレーゼはアメリアよろしく頼むぞ」
「えっ、でも、私今それどころではなくて」
アメリアが反論しようとした。アメリアとしては母にヘルマンのことを認めてもらえるかどうかの瀬戸際なのだ。

「アメリア、そうかと言ってここできちんとお世話できないと更に印象が悪くなるんじゃないか」
オーウェンが諭すように言う。

「それはそうだけど」
「うちの母には先程のように援護するように伝えるから、女王陛下のご機嫌を何とか取ってくれ」
「判った。できるだけやってみるけれど」
気難しい母に満足してもらえるかどうかは自信がなかった。


王宮に転移したクリスはとりあえず、一番設備の高級な応接に4人を案内する。拙い仕草で侍女連中がお茶を入れる。

応接の後ろには軍勢を率いる凛々しいシャラザールが描かれた大きな絵が置かれていた。

「ほう、戦神の戦絵か。これはテレーゼ解放戦ではないか。レンブランドの本物か」
その絵を見てオリビアが目を見張った。
テレーゼの歴史の教科書の表紙を飾る1品だ。これは模写ではなくて高名な画家のレンブランドの実物だ。

「はい。外務卿が飾ってくれたのです」
微笑んでクリスが言った。

「ほう、ノルディンの皇太子がか。しかし、ノルディンでは戦神はタブーだと聞いておるが」
1000年前の侵略戦でのシャラザールの活躍で壊滅させられ、はたまた4年前の侵攻戦でもシャラザールのために野望を打ち砕かれて、ノルディン帝国としてはシャラザールは怨嗟の対象であるはずだった。

「さあ、そこは私も良くは判りませんが、トリポリ国王陛下から寄贈いただいたと」
オリビアにクリスが答えた。
そもそもその侵攻戦でアレクはシャラザールに頭が上がらなくなり、以降走り使いとして働かされているとは憑依されているクリスは知らなかった。
そして、絵にしても、実際はトリポリの国宝だったのだが、魔王を討伐した時に、感謝の意を表してシャラザール様に奉納しろとアレクが脅し取ったものだったのだが。

そのシャラザールはおのれの勇姿を見てほくそ笑んでいたとかいないとか。

「もしよければこの絵はテレーゼにぜひとも欲しいのだが」
オリビアは踏み込んで言った。テレーゼ建国レンブランドの4部作でテレーゼ本国に本物がないのはこの絵だけだった。オリビアとしてはぜひとも王宮に飾りたかった。

「お姉さま!」
厚かましいお願いにエリザベスが嗜める。

「いや、つい言ってしまった。申し訳ない」
「とんでもございません。この絵はテレーゼ建国の1枚。私としてはアメリア様とヘルマン様の婚姻のお祝いに差し上げようと考えていたのですが」
「ヘルマンだと。それは認められん」
いきなりオリビアは態度を硬化させた。

「そうなのですか。それは残念です。まあ、じっくりとお考えくださいませ」
クリスはニコリと笑った。すぐに説得できるとはクリスも思っていなかった。

そこへノックがされてフェビアンが現れた。

「少しだけ失礼いたしますね」
クリスは呼びに来たフェビアンと外に出た。

そして、帰ってきたオーウェンらと合流する。

「クリスどうだ。侍女達の様子は」
「緊張しているのかいろいろミスしてくれてなかなかうまくいっていません」
「やはりいきなりは難しいよな」
「どうします?」
フェビアンが聞いてきた。

「1つ考えがあるんですけど、東方では最高のおもてなしというのは主人自ら給仕することなんだそうです」
クリスが言い出した。

「えっ、それってひょっとして私達子供が親に給仕するというの」
「えええ、でもそんな事できないぞ」
アメリアの言葉にヘルマンが青くなって言う。

「本職でないから拙くても仕方がないと思うんです。誠意があれば慣れない侍女がやるよりも返ってほほえましい光景かと」
「多少恥をかいてもやったほうが効果があるというんだな」
オーウェンがクリスに聞く。

「女王陛下のお気持ちを和らげるにはアメリア様とヘルマン様がお二人で誠心誠意お仕えなされるのが良いかと」
「そんなので許してくれると思うの」
アメリアが聞く。

「お二人次第ですが、その可能性は上がるかと」
「そうか、アメリアとヘルマンが給仕をするのか」
面白がってジャンヌが言う。

「何他人事よろしく言っているんだよ。お前もやるんだよ」
オーウェンが言う。

「えっ、私も」
ジャンヌが固まった。
「そんなの無理だろう。あの礼儀作法にうるさい母だぞ。無理に決まっている」
「仕方がないだろうが。貴様だけが逃げるな。俺もやる」
オーウェンの言葉にジャンヌらは驚いた。

「まあ、ジャンヌ。俺も手伝うから」
こちらはなぜか嬉々としてアレクが言った。

「えっ、でも」
「心が籠もっていれば誠意は伝わると思います」
クリスの一言に、ジャンヌは抵抗を諦めざるを得なかった。
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