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第十一章 パレルモ王国の陰謀
閑話 大文字の送り火
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「コレキヨ様はジパグに帰られないのですか」
閣議の中でクリスが尋ねた。
「そうだ。たまには帰ってきたら良いんじゃないか。夏休みを兼ねて」
「色々忙しいですからね。それに別に帰りたいとは思いませんし」
ジャンヌの言葉に冷静にコレキヨが答えた。
「そうなのか。しかし、皇太子なのだろう。たまには帰らなくて良いのか」
オーウェンが訊く。
「それはそのままお返しいたしますが。皆様方の多くも皇太子殿下では無いですか」
コレキヨが言うが、
「私は年に2回は帰っているぞ」
「そうよ私もこの前帰ったし」
「俺も2回帰っているぞ」
ジャンヌとアメリア、アレクが答える。
「ここにするメンバーで帰っていないのはコレキヨ様くらいじゃないですか」
イザベラまでが言う。
「スカイバードの就航記念の時も帰ってないだろう」
ジャンヌが白い目で見る。ジパグ国との間にも今はスカイバードが週一便、直行便で飛んでいた。
「まあ、そうは言っても魔導電話もありますし、本国とは話は良くしていますよ。それに今は我が国の絹製品が皆様のおかげてよく売れて、国の皆には喜んでもらっていますし」
「でも、たまには帰りたくなることはないのか」
「うーん、そうですね。そう言えばもうすぐお盆なので、大文字の送り火が見られないのが残念ではありますが」
コレキヨが少し考えて思い出して言った。
「何だそれは」
「8月16日の夜に先祖を偲んで山に火をともして送り火をするんです」
ジャンヌの問いにコレキヨが説明する。
「それは面白そうじゃないか」
「我々も戦没者を弔うためにやるか」
「それ良いですね」
早速みんな、やる気になってきた。
「この南側にある山を使ってそこに火を灯すようにすれば良いんじゃないか」
「あっ、その山良いね」
「ここから10キロも離れていないから王宮からでも見えるよね」
皆賛成する。
「じゃあ、私が魔術で火を灯しましょうか」
クリスが喜んで言った。
「えっ」
しかし、そのクリスの言葉に皆固まった。
「クリス、間違えて山一つ消したらまずいと思うんだ」
真面目な顔してジャンヌが言う。
「そんな、お姉さま。いくら私でもそんな事しませんよ。ねえ、アルバート」
クリスは自分の護衛騎士に聞くが、
「えっ、まあ、そうですね・・・・」
笑って誤魔化されてしまった。
「だって姉様。この前も新大陸で魔の山消してしまったところだし」
弟のウィルが言う。
「マーマレードの観光名物のシャラザール山を消滅させたのクリスでしょ」
アメリアまでもが触れられたくない過去を蒸し返してくる。
「まあ、クリス、実務面はアレクらに任せておけばいいよ」
オーウェンにまで言われてクリスは剥れた。
ジャンヌの暴風王女やアレクの赤い死神のような大変な二つ名がついていないのに、そんなふうに言われるなんてクリスにとってはとても心外だった。
もっとも身内の護衛までもが誰ひとり庇ってくれなかったのだ。オーウェンまでもが庇ってくれないなんて酷すぎると不満だらけのクリスだった。
そのクリスの不満を無視して、ジャンヌとアレクが中心になって山の木を切ったり薪を山積みしたりして場所を突貫工事で作り上げた。その御蔭で巨大な大の字が王宮からも見えるようになっていた。
大文字の送り火の噂話は近隣にも伝わって8月16日は国都は人で溢れかえっていた。
大の文字は国都ナッツァの中なら、ある程度どこでも見えるようにはなっていた。
よく見える大通りや、広場は馬車や馬の通行止めで歩行者天国になり、河原にも多くの人が集まっていた。大通りには屋台が立ち並んでもはやそれはお祭りの形相を呈していた。
そして、王宮には巨大な記念碑が建てられていた。
それはこれまで戦いで亡くなった人の冥福を祈るために建てられたものだった。
そして、夜、明かりの煌々と焚かれた中、閣僚一堂は点火作業に当たるジャンヌとアレクを除いてその碑の前に勢揃いしていた。
教皇の装いをしたクリスが後ろにオーウェンら閣僚を従えてその前に立つ。
「ボフミエ魔導国再建国からこれまで、多くの方が亡くなりました。その方々の犠牲のもとに我々の繁栄があります。亡くなられた方々に感謝の念も込めて、ここにそのご冥福を祈ります」
クリスの言葉の後に、全員が頭を垂れた。
「戦没者の冥福を祈って点灯します」
魔導電話で全国に繋がれたジャンヌとアレクの様子が横の巨大スクリーンに現れる。
二人は手を添えて点灯した。
なんか二人の結婚式のキャンドルライト点灯みたいだなとジャンヌが聞いたら切れそうなことをクリスはふとここに思ったが、それは口に出せはしなかった。
集められた薪に次々に火が燃え移っていき、あっという間に巨大な大の文字(人形)が夜空に浮かび上がった。
それは国都の多くの場所で見られた。
「おおおお」
大きな歓声が湧き上がった。
「きれい」
「ついたぞ」
「大の字が見えた」
王宮でも声が上がる。
ここまで長いようで短い9ヶ月だった。
クリスは今までよくやってこれたと自分自身を振り返った。
「どうしたの。クリス、考え込んで」
そのクリスを見てオーウェンが聞く。
「いえ、今までいろんな事があったなと思い出していたのです」
「本当だね。私は昔、クリスと見た花火を思い出していた」
「ああ、お姉さまが魔導師の皆に無理言ってあげてもらったやつですね」
「そうそう、あのあと、ジャンヌは勝手にそんな事をしてっておば上に怒られていたよね」
「私達もお小言もらいましたね」
二人は懐かしそうに言いあった。
「どう、コレキヨ卿。これを見ると少しは里心がついたのではない」
アメリアが隣のコレキヨに聞いていた。
「異国で見る大の字は、不思議な感じですね。でも、故国では10近い文字が浮かび上がるので、もっと違った感じがするんですよ」
「何そうなのか」
「ようし、来年はもっと多くの山を飾れるように頑張るよ」
転移で帰ってきたアレクとジャンヌが言う。
「姫様にアレク様。多ければよいというものではありませんぞ」
ジャルカが言う。
「そんな事無いぞ。多いほうが送られる方は嬉しいよな。クリス」
ジャンヌがいうが、クリスはオーウェンと二人で思い出話で盛上っていて聞いていなかった。
「ちょっとそこの二人、何二人だけの世界に入っているのよ」
アメリアが声をかける。
「オーウェン、姉さまに近付きすぎ」
せっかくクリスと二人で話していたオーウェンは、二人の間に入ってきたウィルに邪魔されてしまった。
「えっちょっとウィル」
抗議するオーウェンを無視して、ウィルはクリスを皆のところにつれていく。
大の巨大文字はそれから30分間夏の夜空に光り輝いて、国都ナッツァの人々を楽しませた。
そして、その民衆の周りには秋の虫が鳴き始めていた。
************************************************************
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
そろそろ新章始めようと思ういます。
後少しお待ち下さい。
閣議の中でクリスが尋ねた。
「そうだ。たまには帰ってきたら良いんじゃないか。夏休みを兼ねて」
「色々忙しいですからね。それに別に帰りたいとは思いませんし」
ジャンヌの言葉に冷静にコレキヨが答えた。
「そうなのか。しかし、皇太子なのだろう。たまには帰らなくて良いのか」
オーウェンが訊く。
「それはそのままお返しいたしますが。皆様方の多くも皇太子殿下では無いですか」
コレキヨが言うが、
「私は年に2回は帰っているぞ」
「そうよ私もこの前帰ったし」
「俺も2回帰っているぞ」
ジャンヌとアメリア、アレクが答える。
「ここにするメンバーで帰っていないのはコレキヨ様くらいじゃないですか」
イザベラまでが言う。
「スカイバードの就航記念の時も帰ってないだろう」
ジャンヌが白い目で見る。ジパグ国との間にも今はスカイバードが週一便、直行便で飛んでいた。
「まあ、そうは言っても魔導電話もありますし、本国とは話は良くしていますよ。それに今は我が国の絹製品が皆様のおかげてよく売れて、国の皆には喜んでもらっていますし」
「でも、たまには帰りたくなることはないのか」
「うーん、そうですね。そう言えばもうすぐお盆なので、大文字の送り火が見られないのが残念ではありますが」
コレキヨが少し考えて思い出して言った。
「何だそれは」
「8月16日の夜に先祖を偲んで山に火をともして送り火をするんです」
ジャンヌの問いにコレキヨが説明する。
「それは面白そうじゃないか」
「我々も戦没者を弔うためにやるか」
「それ良いですね」
早速みんな、やる気になってきた。
「この南側にある山を使ってそこに火を灯すようにすれば良いんじゃないか」
「あっ、その山良いね」
「ここから10キロも離れていないから王宮からでも見えるよね」
皆賛成する。
「じゃあ、私が魔術で火を灯しましょうか」
クリスが喜んで言った。
「えっ」
しかし、そのクリスの言葉に皆固まった。
「クリス、間違えて山一つ消したらまずいと思うんだ」
真面目な顔してジャンヌが言う。
「そんな、お姉さま。いくら私でもそんな事しませんよ。ねえ、アルバート」
クリスは自分の護衛騎士に聞くが、
「えっ、まあ、そうですね・・・・」
笑って誤魔化されてしまった。
「だって姉様。この前も新大陸で魔の山消してしまったところだし」
弟のウィルが言う。
「マーマレードの観光名物のシャラザール山を消滅させたのクリスでしょ」
アメリアまでもが触れられたくない過去を蒸し返してくる。
「まあ、クリス、実務面はアレクらに任せておけばいいよ」
オーウェンにまで言われてクリスは剥れた。
ジャンヌの暴風王女やアレクの赤い死神のような大変な二つ名がついていないのに、そんなふうに言われるなんてクリスにとってはとても心外だった。
もっとも身内の護衛までもが誰ひとり庇ってくれなかったのだ。オーウェンまでもが庇ってくれないなんて酷すぎると不満だらけのクリスだった。
そのクリスの不満を無視して、ジャンヌとアレクが中心になって山の木を切ったり薪を山積みしたりして場所を突貫工事で作り上げた。その御蔭で巨大な大の字が王宮からも見えるようになっていた。
大文字の送り火の噂話は近隣にも伝わって8月16日は国都は人で溢れかえっていた。
大の文字は国都ナッツァの中なら、ある程度どこでも見えるようにはなっていた。
よく見える大通りや、広場は馬車や馬の通行止めで歩行者天国になり、河原にも多くの人が集まっていた。大通りには屋台が立ち並んでもはやそれはお祭りの形相を呈していた。
そして、王宮には巨大な記念碑が建てられていた。
それはこれまで戦いで亡くなった人の冥福を祈るために建てられたものだった。
そして、夜、明かりの煌々と焚かれた中、閣僚一堂は点火作業に当たるジャンヌとアレクを除いてその碑の前に勢揃いしていた。
教皇の装いをしたクリスが後ろにオーウェンら閣僚を従えてその前に立つ。
「ボフミエ魔導国再建国からこれまで、多くの方が亡くなりました。その方々の犠牲のもとに我々の繁栄があります。亡くなられた方々に感謝の念も込めて、ここにそのご冥福を祈ります」
クリスの言葉の後に、全員が頭を垂れた。
「戦没者の冥福を祈って点灯します」
魔導電話で全国に繋がれたジャンヌとアレクの様子が横の巨大スクリーンに現れる。
二人は手を添えて点灯した。
なんか二人の結婚式のキャンドルライト点灯みたいだなとジャンヌが聞いたら切れそうなことをクリスはふとここに思ったが、それは口に出せはしなかった。
集められた薪に次々に火が燃え移っていき、あっという間に巨大な大の文字(人形)が夜空に浮かび上がった。
それは国都の多くの場所で見られた。
「おおおお」
大きな歓声が湧き上がった。
「きれい」
「ついたぞ」
「大の字が見えた」
王宮でも声が上がる。
ここまで長いようで短い9ヶ月だった。
クリスは今までよくやってこれたと自分自身を振り返った。
「どうしたの。クリス、考え込んで」
そのクリスを見てオーウェンが聞く。
「いえ、今までいろんな事があったなと思い出していたのです」
「本当だね。私は昔、クリスと見た花火を思い出していた」
「ああ、お姉さまが魔導師の皆に無理言ってあげてもらったやつですね」
「そうそう、あのあと、ジャンヌは勝手にそんな事をしてっておば上に怒られていたよね」
「私達もお小言もらいましたね」
二人は懐かしそうに言いあった。
「どう、コレキヨ卿。これを見ると少しは里心がついたのではない」
アメリアが隣のコレキヨに聞いていた。
「異国で見る大の字は、不思議な感じですね。でも、故国では10近い文字が浮かび上がるので、もっと違った感じがするんですよ」
「何そうなのか」
「ようし、来年はもっと多くの山を飾れるように頑張るよ」
転移で帰ってきたアレクとジャンヌが言う。
「姫様にアレク様。多ければよいというものではありませんぞ」
ジャルカが言う。
「そんな事無いぞ。多いほうが送られる方は嬉しいよな。クリス」
ジャンヌがいうが、クリスはオーウェンと二人で思い出話で盛上っていて聞いていなかった。
「ちょっとそこの二人、何二人だけの世界に入っているのよ」
アメリアが声をかける。
「オーウェン、姉さまに近付きすぎ」
せっかくクリスと二人で話していたオーウェンは、二人の間に入ってきたウィルに邪魔されてしまった。
「えっちょっとウィル」
抗議するオーウェンを無視して、ウィルはクリスを皆のところにつれていく。
大の巨大文字はそれから30分間夏の夜空に光り輝いて、国都ナッツァの人々を楽しませた。
そして、その民衆の周りには秋の虫が鳴き始めていた。
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後少しお待ち下さい。
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