上 下
355 / 444
第十一章 パレルモ王国の陰謀

大国の文官は最後の望みを絶たれたと思いました

しおりを挟む
バルトルト・テールマンは祖父の代からドラフォードの文官だった。祖父はパレルモ王国の出身らしかったが、詳しくは何も知らなかった。バルトルト自身は外務省に勤務でこの道30年のベテランだ。今はボフミエの担当をしており、皇太子がこの国の内務卿をしている関係で、何度かホフミエ魔導国に来たこともあった。
皇太子はこの国の筆頭魔導師に何度もアプローチしているようだが、いつ見ても邪険にされていた。

今回なんか頬に思いっきりもみじマークをつけられていた。
はっきり言って皇太子はハンサムだし、能力も高い。邪険にされる女よりは寄ってくる女に乗り換えれば良いのに、といつもバルトルトは思っていた。

そう、ついこの前までは。

前回来た時に皇太子と話そうとして、また筆頭魔導師につれなく避けられている場面に出くわした。

二人の修羅場に出くわすのもよくないので、避けて物陰に潜んだ、その避けた場に皇太子から逃れた筆頭魔導師が入ってきたのだ。

バルトルトを見ると人差し指を自らの口の前にもってきて黙ってくれるように目で頼んできた。

ここは王子のためにも声を上げるべきではとも思ったが、女性に頼まれたら断るわけにも行かない。それに、自分らには絶対的な存在の皇太子をあっさり袖にする筆頭魔導師に、爽快感と言うか、自分らにはない何かを感じていたためでもあった。

慌てて走っていく皇太子を二人で見送ると思わず二人で目を合わせて微笑んだ。

「テールマン様。下らないことに付き合わせてごめんなさい」
テールマンは名前を呼ばれて固まった。まさか、他国の筆頭魔導師に名前を覚えられているとは思ってもいなかったのだ。

「ごめんなさい。オーウェン様に用があったのよね。なのに見送らせてしまって」
そうじゃなくて自分の名前なんて覚えていてくれたことに感動したんだとは言い出す暇もなかった。

「娘さん、学園で頑張って勉強していらっしゃるのですか」
「どうして、その事を」
「オーウェン様も人使いが荒いでしょう。本国に家族がいるのに、何回も呼んではダメだってお話した時に、優秀な後継ぎの娘さんがいらっしゃって学園で頑張って勉強しておられるって、オーウェン様からお伺いしたの」

その話にまたバルトルトは驚いた。皇太子が自分の家族構成について知っているのにも驚いたが、筆頭魔導師がその自分を気遣ってあまりボフミエに呼ぶなと言ってくれたことにも感動したし、その娘のことを覚えていてくれたことにも感激した。どこの王宮の后に一部門の下っ端の役人の家族構成を気遣ってくれる者がいるだろうか。

バルトルトはこの時から密かに皇太子を応援することにした。

ドラフォードの王妃にはぜひともこの筆頭魔導師様になって頂きたいと。

その帰る時に、娘さんにとお守りを貰ったから応援を始めたわけでは断じて無い。

「何故欲しいと言った俺には貰えないのに、部下には渡すんだ」
という皇太子の冷たい視線にもめげずに、

「うちの侍女たちの為に作ったんだけど、この前仕事を邪魔したお詫びです。余り物で申し訳ないけれど貰ってほしいんですけど、霊験も少しはあるはずよ」
ウインクして筆頭魔導師はバルトルトに握らせた。

「ありがとうございます。娘も喜んでつけると思います」
「気に入ってくれたら良いけど」
少し心配そうな筆頭魔導師と恨めしそうな皇太子の表情のコントラストに思わず笑いそうになったが………


そう、そして、そのバルトルトは切羽詰まっていた。

昨日いきなりパレルモ王国の影とかいう人物が接触してきて、アルフェスト卿の乗ったスカイバードを爆破しろと魔導爆弾を渡して来たのだ。そんな事ができるかと断ろうとすると、娘を預かっている。皆で嬲りものにした後にすっぱたかで川に浮かべてやろうかと凄まれた。

「助けて、お父さん」
男は娘の声を聞かせてきた。

バルトルトはどうしようもなかった。誰かに一言でも話せばその瞬間に娘の命は断つと脅されていた。部屋の中も全て監視されていると。

ボフミエの王宮にも影と言われる人はいるようだった。

娘のためにはやるしか無かった。

でも、それで娘が助かるという保証もなかった。

しかし、誰にも話せない。以心伝心が出来れば良いのに。

もうどうしようもなかった。


そして、スカイバードに乗る時間になった。

絶望のあまり何も考えられずに、バルトルトは下を向いて搭乗口に向かっていた。

もう終わりだ。何もかも。

その絶望する手を誰かに取られた。

はっとして見るとそれは筆頭魔導師様だった。

「今回はわざわざご足労賜りありがとうございました」
筆頭魔導師は全員と握手しているのだ。

バルトルトにはそれが最後の希望の手に見えた。

「すいません。筆頭魔導師様。お守り取られてしまって」

頼むから気づいて!
必至にの思いを込めて筆頭魔導師の瞳を見た。

全ての思いを瞳に込めて。

しかし、見ただけで意思を伝えられるわけはなかった。

筆頭魔導師からの返事はなかった。

バルトルトは後ろの男に押されて先に進んだ。

バルトルトは結局誰にも告げられずに、スカイバードに乗り込まざるおえなかった。

絶望がバルトルトを覆っていた。

***********************************************

この続きは明日の朝更新予定です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

砕けた愛は、戻らない。

豆狸
恋愛
「殿下からお前に伝言がある。もう殿下のことを見るな、とのことだ」 なろう様でも公開中です。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

処理中です...