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第十一章 パレルモ王国の陰謀

パレルモ王国から雷撃に対する苦情が来ました

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翌日からライナー・アルフェストは外務の仕事についた。
最新の機器を揃えた巨大なボフミエの大執務室にライナーは驚いた。
筆頭魔導師を中心とした巨大な執務室は広い個室を中心としたドラフォードの執務室全体と比べればまだまだ小さかったが、それを一堂に集めた執務室の大きさがライナーを圧倒していた。

また、その中執務を取るのは内務の要ドラフォードの皇太子と外務の要、アレクサンドル皇太子を中心としており、二人を中心に各地に指示を飛ばしていた。

クリスともみじマークをつけたオーウェンはあいも変わらず、目も合わせもしなかった。
最も必死に合わせようとするオーウェンを全くクリスが無視しているからなのだが………・

そして、外務には各国から次々に魔導電話がかかってきていた。
ライナーも早速一つの電話を取った。

「こちらはボフミエ魔導国外務省アーサー・アルフェストです」
「こちらはパレルモ王国の宰相マィヤネンだ。直ちに筆頭魔導師殿と話がしたい」
「はいっ?、いきなり筆頭魔導師様と話がしたいと言われましても」
ライナーは戸惑った。

「何だ小僧。貴様と話している暇はないわ。すぐに繋がんか」
頭にきて宰相は叫んでいた。しかし、ライナーにとってパレルモ王国など、ザールの北部にある小国。ドラフォードの人間からしたら、感覚的に一伯爵家からのクレイムに等しかった。伯爵から怒りの電話があった所で即座に国王につなぐかと言うとあり得なかった。それともボフミエ魔導国は小国だからこんな時はすぐにつなぐのだろうか。ライナーはペトロの方を見た。

ペトロは当然首を振る。そもそもここ外務のトップは傍若無人として世界的に有名な赤い死神アレクサンドル・ボロゾドフなのだ。基本的にはややこしいことも全てアレクの前の段階で処理する。それでもどうにでもならなければアレクを出せばどんなに傲慢な者でもその瞬間に押し黙る。何しろアレクの前でも平然とできるのはこの中の閣僚連中を除くと世界で5人もいまい。そして、問答無用でアレクが平伏するのはシャラザールただ一人だ。そんなアレクを飛ばしてクリスにつなぐなどすれば下手したらその国が滅ぶ。

それほどの一大事なのだ。

そもそも、ライナーは公爵家の跡取りなのでドラフォードの国内の貴族で知らないものは少なかったが、海外になると大国ドラフォードの外務卿の息子でも知名度は少なかった。

「この王宮が貴国から雷撃の攻撃を受けたのだぞ。すぐに責任者を出さんか」
「雷撃ですか、しかし、貴国とは数千キロ離れておりますが…」
たしかにクリスが攻撃したとは聞いていた。しかし、何千キロも離れた国を攻撃出来るなどあり得るのだろうか。

「何を言っておる。貴国の筆頭魔導師ならば可能だろうが。我が国は貴国と交戦しているわけではない。いきなり雷撃してくるとはこれは戦争行為ではないか」

「ライナー代われ」
アレクが合図をした。
「しかし」
「良いのだ」
アレクが強引に代わった。

「き、貴様は・・・・・・」
いきなり赤い死神が不機嫌に出てきてマイヤネンは絶句した。

「これはこれはマイヤネン、久しぶりだな」
「これはアレクサンドル様。お久しぶりでございます」
一気にマイヤネンはトーンダウンする。筆頭魔導師の小娘に文句を言ってやろうと電話したのに、一番嫌なヤツが出てきた。

もっとも内務卿は大国ドラフォードの陰険皇太子だし、農務卿も隣国の大国陳王国の王女だ。文句を言えるのは筆頭魔導師のクリスくらいしかいず、そのクリス自身は見た目は可憐な少女だが、怒るとボフミエで一番の脅威であることがマイヤネンには理解できていなかった。何しろこの赤い死神が頭を下げて様付けで呼ぶくらいなのだ。

「貴様が私と喧嘩をしたいと聞こえたのだが、」
「滅相もございません」
「そうか。何ならそちの国に攻め込んでもいいぞ。丁度今は暇だ」
「そのような御冗談を」
「冗談ではないのだが。何でも聞く所によると我が国の筆頭魔導師様の雷撃が貴殿の国を直撃したというのは本当か」
「左様でございます。王宮の地下室を直撃いたしまして、幸いなことに死人は出ませんでしたが、このような事は今後止めて頂きたいと思いまして」

「それは本当のことなのか」
サイドアレクが確認した。

「本当でございます」
「しかし、我が国の筆頭魔導師様が攻撃されたところを貴様が見たわけではあるまい」
「それはそうですが、ザール教国も筆頭魔導師様が雷撃で攻撃なされたとお伺い致しました。このようなことが出来るのは世界広しと言えども貴国の筆頭魔導師様しかいらっしゃらないのでは」
「今回、我が国の筆頭魔導師様の侍女が誘拐されかけて筆頭魔導師様が雷撃をくだされたのは事実だ。しかし、その相手は尽く今回の誘拐事件を企てていた叛徒共であった。これがどういうことであるか判るか」
アレクは畳み掛けた。

「いえ、よくは」
マイヤネンは良くないことが起こりそうなのは理解できた。

「我が国の筆頭魔導師様が雷撃されたのは我が人民を飢餓に追い込んだGAFAを殲滅せんとした時が1回だ。それに魔王を攻撃された時。更に私の父皇帝に対してだ」
「な、なんと、ノルディン帝国の皇帝陛下に攻撃されたのですか」
マイヤネンは驚いた。ノルディン帝国は軍事大国。小国が攻撃してただで済むわけはない。

「何を驚くことがあろう。父はボフミエの人間に魔導爆弾を仕掛けてクリス様暗殺を図った。それに対する報復よ」
「はあ」
自分の父に対してもなんとも思っていない感情で淡々と話すアレクにマイヤネンは返って凄みを感じた。というか、いくら自国の皇太子がいるとはいえ、軍事大国を攻撃するか。それもその後存続している小国があるなどマイヤネンとしては信じられなかった。まあ赤い死神がいることで戦力的に大きいとは思うが、ノルディンは12個師団もあるのだ。それだけボフミエ魔導国の戦力は強大なのだろうか。マイヤネンにはよく判らなかった。

「ザール教の教皇に至っては我が国民を奴隷として虐げておった。判るか全て犯罪者に対して行われたのだ」
「そ、そんな」
いつの間にかマイヤネンは冷や汗をダラダラとかいていた。

「我が筆頭魔導師様に攻撃されたということは今回の犯罪の黒幕が貴国であると言うことだぞ」
「そんなことはございません」
慌ててマイヤネンは否定した。

「何を言う。筆頭魔導師様の雷撃は百発百中で今まで誤射はない。そうか、雷撃を受けたものの中に確かにパレルモの人間も含まれていたようだが」
「滅相もございません。申し訳ありません。私共の勘違いでございました。雷が城を直撃したに過ぎません」
マイヤネンはもう誤魔化すしか無かった。

「そうか。そんなに都合よく雷がなるのか」
胡散臭そうにアレクが聞く。

「いや、そうに違いないのです。この度は閣下の宸襟を勘違いで悩ませて申し訳ありませんでした」
「さようか。ならば良いが、もし、犯人がいるのならば隠し立てするとよくないぞ」
「滅相もございません。そのような怪しい人間が降りましたら、即座に貴国に差し出します」
「そうだな。そうするのが良いだろう」
そう言うとアレクはニタリと笑った。

「何しろ私も暇だ。ザール国に待機しているジャスティンもいつでも出撃可能。隣国のドラフォードと陳国にも1個師団はすぐに貸し出して頂けるそうだ。ちなみに先程貴様が怒鳴り散らした男はドラフォードの外務卿の息子だぞ。私なら謝っておくがな」
「はっ、閣下の重ね重ねの忠告。心に念じておきまする」
そう言うと平伏しそうな勢いで礼をするとマイヤネンは画面から消えた。

「ふんっ。意気地のないやつだ」
アレクは見下して言った。

「ライナー。こんな感じでやってくれ」
「はっ、頑張ります」
ライナーには到底できそうにも無かった。

「ペトロ。パレルモ王国が怪しい。ジャスティンらに連絡を頼む。それと潜入している特殊部隊にも連絡を」
「判りました」
外務がさらに騒がしくなった。
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