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第十一章 パレルモ王国の陰謀
あっさりとザールの暗部のアジトは突き止められました
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その走り去る馬車を露天商の男が見送っているのを彼らは知らなかった。
「姫様。アデリナを見ていた怪しい馬車が動き出しました」
露天商に身を扮したグリフィズが魔導電話で魔導師団長のジャンヌに報告した。
「どこの手のものだと思う」
王宮に陣取っていたジャンヌが聞く。
「馬車のホロの影から見えたのは元教師のピローネンのようでした」
「ザール教関係者か」
グリフィズの報告にジャンヌは頷く。
「アジトはどこだ?」
「係の者に追跡させました」
「大丈夫か。敵はザールの暗部だろう。目をつけられたと悟られたくはないが」
「自称この道60年のベテランにつけさせましたから、大丈夫でしょう」
ジャンヌの心配にどこか遠い目をしてグリフィズが答える。
「おい、この道60年のベテランっていくつなんだ」
「年齢不詳です」
「グリフィズ、ひょっとしてそれって」
ジャンヌは不吉な予感がした。
「はい。暇だから散歩してくるとジャルカ様がご自身で行かれました」
「ジャルカ自身がか」
ジャンヌは呆れていった。ジャルカは自称クリスの次のNo.2の魔導師だ。はっきり言ってザールの暗部などかなうわけもなかろう。
「まあ、ジャルカならば見つかる心配はないとは思うが、何故面倒くさがりのジャルカが出て来た?」
「なんでも、生徒を狙った誘拐犯が暗躍する可能性があるという我らの報告にクリス様がとてもナーバスになられまして、ぜひともアデリナらにジャルカ様自ら魔術の講師をお願いしてほしいとおっしゃられまして」
「別に老婆に教えるわけでもあるまいに、ジャルカが断る理由はなかろうが」
「ただ、クリス様がとても心配されて、アデリナにクリス様並みの障壁が築けるようにジャルカ様になんとかやって欲しいと頼まれまして」
「はっ、クリス並みってそんなの無理だろうが。何しろクリスは世界ナンバーワンの魔導師だぞ。ビアンカならまだしも、アデリナは厳しいだろう」
「そうなのです。それにビアンカの能力ももっと上げてほしいとか自警団の組織を作って欲しいとか。ジャルカ様もクリス様の対応に流石に閉口されまして」
「それで逃げ出したということか」
「クリス様の言われることに対応するくらいならばご自身でアデリナを守ったほうが簡単だと言われまして」
グリフィズの答えにジャンヌは頭を抱えた。
「まあ、ジャルカならそうだわな。でも、ずうーっとジャルカはアデリナの護衛をやるつもりか」
「そう言うわけにも行かないかと」
「なら訓練させたほうが良いような気がするが」
ジャンヌは不吉な予感を覚えた。
「ジャンヌ師団長。クリス様がお越しです」
「クリスが・・・・」
二人は見合わせた。
「とりあえず、今回の動きをお伝えしますか」
「何言っている。そんな事したらクリスがつきっきりで送り迎え始めるだろう。敵が手を出してくるとは思えん。今回の動きに合わせて不穏分子のあぶり出しを魔導師団の人員の多くを割いて行っているのだ。失敗するわけにはいかん。絶対に秘密だぞ」
「お姉さま。何が秘密なのですか」
そこへクリスがアデリナらを連れて入ってきた。
「いや、なんでも無い。それよりもどうしたんだ?」
「アデリナやミアなど侍女たちの魔術訓練を魔導師団でしていただきたくお願いに参りました」
「えっ、私がか」
ジャンヌは目が点になった。
「ジャルカ様にお願いしたら、お姉さまが適任であると振られまして」
「あの、ジャルカめ。自分が嫌だからって」
ジャンヌは憤慨したが、どうしようもなかった。
「ライラ」
「えっ」
突然振られたライラが目が点になる。
「彼女らの護身訓練のスケジュールを立ててやってくれ」
「ライラ様。よろしくおねがいします」
クリスが頭を下げる。
「えっ、いや、筆頭魔導師様」
筆頭魔導師に頭を下げられたらどうしようもなかった。
ライラはジャンヌを白い目で見たが、無視するジャンヌに諦めて懸命にどうするか考え始めた。
アジトに帰ってきたケンらはご機嫌だった。これであの憎き筆頭魔導師に一矢報いられると思えば今までの苦労も報われた。
「直ちに仲間を集めよう」
「さあ忙しくなるぞ」
トムらも喜んで早速連絡を取り始めた。
一方馬車をつけてきたジャルカは、近くの物陰でため息をついた。
「何がケン&トムの何でも情報屋じゃ。このようにアジトを簡単に突き止められるようではザールの暗部も全然じゃの。儂がわざわざ出向いて来てやったのに、本当にやりがいのないことじゃの」
ジャルカは吐き捨てるように言った。
「ん、この匂いはパレルモ王国の匂いか。それも一公爵家が絡んでおるか」
何故かその気配を感じたジャルカであった。
「懸命に気配を消しておるようじゃが、それがクリス様に通用するかどうか。やれやれ下手したらまた遠征じゃな」
シャラザールに今度こそ見つからない所にいようとジャルカは決心した。最もそのようなことが許された試しは未だ嘗てなかったが………
「姫様。アデリナを見ていた怪しい馬車が動き出しました」
露天商に身を扮したグリフィズが魔導電話で魔導師団長のジャンヌに報告した。
「どこの手のものだと思う」
王宮に陣取っていたジャンヌが聞く。
「馬車のホロの影から見えたのは元教師のピローネンのようでした」
「ザール教関係者か」
グリフィズの報告にジャンヌは頷く。
「アジトはどこだ?」
「係の者に追跡させました」
「大丈夫か。敵はザールの暗部だろう。目をつけられたと悟られたくはないが」
「自称この道60年のベテランにつけさせましたから、大丈夫でしょう」
ジャンヌの心配にどこか遠い目をしてグリフィズが答える。
「おい、この道60年のベテランっていくつなんだ」
「年齢不詳です」
「グリフィズ、ひょっとしてそれって」
ジャンヌは不吉な予感がした。
「はい。暇だから散歩してくるとジャルカ様がご自身で行かれました」
「ジャルカ自身がか」
ジャンヌは呆れていった。ジャルカは自称クリスの次のNo.2の魔導師だ。はっきり言ってザールの暗部などかなうわけもなかろう。
「まあ、ジャルカならば見つかる心配はないとは思うが、何故面倒くさがりのジャルカが出て来た?」
「なんでも、生徒を狙った誘拐犯が暗躍する可能性があるという我らの報告にクリス様がとてもナーバスになられまして、ぜひともアデリナらにジャルカ様自ら魔術の講師をお願いしてほしいとおっしゃられまして」
「別に老婆に教えるわけでもあるまいに、ジャルカが断る理由はなかろうが」
「ただ、クリス様がとても心配されて、アデリナにクリス様並みの障壁が築けるようにジャルカ様になんとかやって欲しいと頼まれまして」
「はっ、クリス並みってそんなの無理だろうが。何しろクリスは世界ナンバーワンの魔導師だぞ。ビアンカならまだしも、アデリナは厳しいだろう」
「そうなのです。それにビアンカの能力ももっと上げてほしいとか自警団の組織を作って欲しいとか。ジャルカ様もクリス様の対応に流石に閉口されまして」
「それで逃げ出したということか」
「クリス様の言われることに対応するくらいならばご自身でアデリナを守ったほうが簡単だと言われまして」
グリフィズの答えにジャンヌは頭を抱えた。
「まあ、ジャルカならそうだわな。でも、ずうーっとジャルカはアデリナの護衛をやるつもりか」
「そう言うわけにも行かないかと」
「なら訓練させたほうが良いような気がするが」
ジャンヌは不吉な予感を覚えた。
「ジャンヌ師団長。クリス様がお越しです」
「クリスが・・・・」
二人は見合わせた。
「とりあえず、今回の動きをお伝えしますか」
「何言っている。そんな事したらクリスがつきっきりで送り迎え始めるだろう。敵が手を出してくるとは思えん。今回の動きに合わせて不穏分子のあぶり出しを魔導師団の人員の多くを割いて行っているのだ。失敗するわけにはいかん。絶対に秘密だぞ」
「お姉さま。何が秘密なのですか」
そこへクリスがアデリナらを連れて入ってきた。
「いや、なんでも無い。それよりもどうしたんだ?」
「アデリナやミアなど侍女たちの魔術訓練を魔導師団でしていただきたくお願いに参りました」
「えっ、私がか」
ジャンヌは目が点になった。
「ジャルカ様にお願いしたら、お姉さまが適任であると振られまして」
「あの、ジャルカめ。自分が嫌だからって」
ジャンヌは憤慨したが、どうしようもなかった。
「ライラ」
「えっ」
突然振られたライラが目が点になる。
「彼女らの護身訓練のスケジュールを立ててやってくれ」
「ライラ様。よろしくおねがいします」
クリスが頭を下げる。
「えっ、いや、筆頭魔導師様」
筆頭魔導師に頭を下げられたらどうしようもなかった。
ライラはジャンヌを白い目で見たが、無視するジャンヌに諦めて懸命にどうするか考え始めた。
アジトに帰ってきたケンらはご機嫌だった。これであの憎き筆頭魔導師に一矢報いられると思えば今までの苦労も報われた。
「直ちに仲間を集めよう」
「さあ忙しくなるぞ」
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ジャルカは吐き捨てるように言った。
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何故かその気配を感じたジャルカであった。
「懸命に気配を消しておるようじゃが、それがクリス様に通用するかどうか。やれやれ下手したらまた遠征じゃな」
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