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第九章 ザール教騒乱

クリスはザール教の動きに少し懸念を抱きました

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一方王宮の執務室は今日も戦場だった。
「ヘルマン。この費用なんかおかしくない」
オーウェンが書類を内務次官のヘルマンに示す。
「いや、あっていますよ。養生費用をプラスしているんです」
「判った」
ヘルマンの説明に納得してオーウェンは判子を押していく。

そのヘルマンの肩を誰かが叩く。
「ごめんちょっと今忙しいんだけど」
振り向かずにヘルマンが邪険にする。
「すいません。ヘルマン様」
「えっクリス様。すいません」
驚いてヘルマンは立ち上がって謝った。筆頭魔道士を邪険にして良い訳はなかった。
「如何なさいましたか」
「お忙しいところすいません。ヘルマン様。この報告にあるザール教なんですけど」
未だにオーウェンに根に持っているクリスがオーウェンを飛ばしてヘルマンのところに来たのだった。
「えっ、ザール教の件が何か」
慌ててオーウェンが横に飛んで来る。
「内務卿にはお伺いしておりません」
つんっと顎を聳えさせてクリスが言う。

あちゃーーー
ヘルマンは頭を抱えたくなった。この二人仲良くなってくれないとそれでなくても仕事が忙しいのに。オーウェンはヘルマンを睨みつけているし、本当にやりにくいったら無かった。

「ザール教がどうかなさいましたか」
ヘルマンはオーウェンを睨み返しながら、聞く。
「最近活動が活発化していると書かれているのですが」
「そうですね。信者の数も急激に伸びているようです」
「先日アデリナから中等部の先生の中にも信者がいるとか聞いたのですが」
「しかし、クリス様。ボフミエ魔導国は信教の自由を認めていますが」
ヘルマンがクリスに反論する。

「それはよく判っております。しかし、わざわざ内務省から注意喚起情報が回ってくるということは何か懸念事項があるのかなと思ったのですが」
クリスの言うことも最もだった。この忙しい時にクリスに書面を回した不届き者は誰だと署名を見ると。
「正義の味方よりって、誰だ!こんなふざけた書類をクリス様に回したのは」
ヘルマンが叫んでいた。
「私もそう思ったんですけど、ヘルマン様もサインしていらっしゃいますし」
「ヘルマン。そんなふざけた書類くらいチェックしろよ。というか、何故俺に回さない」
横からオーウェンが叫んでいた。
「何言ってんですか。内務卿もサインしてます」
ヘルマンが言う。
「えっ」
ヘルマンが指差すところにははっきりとオーウェンのサインもあった。

「俺はお前のサインがあるからそのままサインしただけで・・・・」
そこまで言ってクリスの白い目に気づいて失言したことに気づいた。
「いや、クリスそうじゃなくて」
慌ててオーウェンは誤魔化そうとしたが、
「オーウェン様が私に回す書類はいい加減にしか見ていないことがよく判りました」
「えっ、ちょっとクリス」
慌てて叫ぶオーウェンをクリスは無視して、サインしている人を順繰りに辿っていく。

「ああ、それでしたらジャルカ様が気になるから調べろって言われたんです」
すぐ後ろにいたロルフが答えた。
「ジャルカ様が」
「なんでも、儂が内務卿を差し置いてそのようなことを進言するのは良くないから、正義の人からとしておいてほしいと言われまして」
「そうなのですね」
クリスは納得して頷いた。

(おのれ、ジャルカめ。ふざけた名前を使ってまた俺を嵌めてくれて)
オーウェンは八つ当たり気味にジャルカにむかつきながら拳を握り締めて怒りに震えていた。

「判りました。内務はお忙しいみたいですから、こちらで対応します」
クリスはそう言うと自分の席に戻ろうとした。
「いや、クリス、俺もやるよ」
「オーウェン様は初等科の準備をお急ぎください」
クリスは冷たくそう言うと
「フェビアン、グリフイズ様に連絡を」
「了解です」
フェビアンが直ぐに連絡する。

「これはこれはクリス様。どのようなご用事ですか」
少し警戒しながらグリフィズは聞いた。ジャルカといい、ジャンヌといいろくなことを振ってこないのだ。

「ジャルカ様から、ザール教徒の増加に対して注意するように言われたのですが」
「ああ、その件ですね。私も言われて現在調査中です」
「お忙しいとは思いますが、早急に調べて閣議で報告ください」
「えっ明日の閣議までですか」
嫌そうにグリフィズが言う。
「そこまでは無理は申しません。いつまでに出来ますか」
クリスが聞く。しかし、中々待っても貰えそうにないだろう。何しろトップからの指示なのだから。グリフィズは考えた。
「3日下さい」
「判りました。では次の月曜日の閣議でお願いします」
「了解です」
1週間位かけて調べようとしたのに、トツプダウンで催促されたので、再優先課題に格上げする。
クリスは電話を切ったが、なぜか胸騒ぎがしていた。



そのザール教国ではウルスラがアルヴィ・パーテロ枢軸卿に報告していた。
「いかがですか。ウルスラ。ナッツァの様子は」
「筆頭魔道士の護衛魔道士の一人とロヴィーサが親しくなりました」
「そうですか。公爵令嬢も役に立つ時はあるのですね」
アルヴィは笑って言った。
「はい。次の日曜日の礼拝に呼ぼうと思います」
ウルスラも笑って言う。

「そうですか。あなたの働きに期待していますよ」
「お任せ下さい」
アルヴィの期待にウルスラは頭を下げた。
「ザールのために」
「ザールのために」
二人は合言葉を言い合うと魔導連絡を切った。
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