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第八章 ボフミエ王宮恋愛編

幕間 あなた神を信じますか

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「ビアンカは神様の存在を信じている?」
食事時に唐突にクリスの侍女のアデリナが護衛魔導師のビアンカに聞いた。
二人は年が近いので気さくなビアンカと友達感覚だった。
「えっ、そらあ信じているけど」
「えっ。ビアンカ信じているの?どうして?」
ビアンカが神を信じていることに驚いてアデリナが聞いた。

「昔、アデリナくらいの時に人さらいに攫われて奴隷にされそうになったことがあるの」
「ビアンカもそうなんだ」
アデリナは自身もこの前売られそうになった事があり、ビアンカに親近感を持った。
「その時は本当にもうだめだと思って、その時に神様にお祈りしたの。
『神様。助けて下さい』って。
そうしたら『小僧、後は任せろ』って返ってきて、気がついたら悪い奴ら皆成敗されていて、神様が助けてくれたんだって判ったんだ」
その後何故か奴隷商人達がビアンカを恐れてみていたことが気になったのだが。

「えっ、そうなんだ。私は奴隷として捕まっていた時ジャンヌ殿下に助けていただいたんで、ジャンヌ殿下が神様に見えたの。そんな感じなんだ」
「うーん、そうなのかな」
ビアンカはジャンヌは人だけどもその時現れたそれはもっと恐ろしくて強い存在だったとは思ったが、そこは黙っていた。

「それよく分かる」
フェビアンも横から入ってきた。
「私も昔、不良に囲まれてひどい目に会った時に、気を失ったんだけど、気づいたら不良たちは皆退治されていて、神様が助けてくれたんだって思った」
「神様ってめちゃくちゃいい人なんですね」
それを聞いてアデリナは言った。
「そらあ神様だもん」
「でも、ここでは昔は神様って皇帝だったでしょ」
「ああ、そうそう、あのエセ神な」
「私達を餓死させそうになったやつだよね」
「本当にあれは酷かったよね」
皆ボロクソだった。時に施政者は都合が良いので自らを神にするが、民たちは本質を知っておりボフミエ皇帝の場合はエセ神とか、死神とか言われて嫌われていた。

「やっぱり本当の神様ってとてもいい人だよね」
「クリス様みたいな方ですよね」
侍女のミアとアデリナが言う。

「ちょっと、待って、アデリナ。私は神様じや無いわよ」
横で黙って聞いていたクリスが慌てて注意した。
「えっでも、聖女クリス様ですし」
「私達のためにいろいろやって頂いて本当に感謝しているんです」
ミアやアデリナが言う。

「いやいや、まあ、それよりも、何で神様がいるかどうかなんて聞くの」
クリスは強引に話題を替えた。
「中等部のピーロネン先生がお話されたんです。皆さんは神様を信じていらっしゃいますかって」
「アデリナはなんて答えたの」
「私、奴隷としてGAFAに売られた時にもう終わりだって思ったんです。兵士達も助けてくれなくて。もう終わったって思ったんです。でもその時にジャンヌ殿下に助けて頂いて、ジャンヌ殿下が本当に神様に見えたんです。そう答えたんですけど、先生、その言葉が気に入らなかったみたいで、それは神様がアデリナの願いを聞いてくれてジャンヌ魔導師団長を派遣してくれたんだって」
「ふうん、そうなんだ」
ボフミエは信教の自由は認めていた。しかし、学校で布教の自由は認めていない。少しアメリアに注意しておこうとクリスは思った。

「で、クリス様は神様をどう思われているのですか」
「うーん、私はそんなに信じていないかな。何しろ戦神シャラザールは神を信じるくらいなら、まず自分で努力しろとおっしゃっていらっしゃったから」
「神頼みをする前にまず自分で努力するようにってことですよね」
クリスの横で食べていたメイが言った。
「さすが聖女クリス様ですね」
アデリナが感激して言った。

「いや、聖女でないし、というか、ミハイル家の教えかな。でも、シャラザール3国では普通ですよね。アメリア様」
クリスの斜め向かいで食べていたアメリアにクリスはふる。

「そうよね。私達の国の教会でもシャラザールを祀っているところが多いから。何しろシャラザール様は宗教自体を胡散臭いものって見ていらっしゃったし、新手の詐欺くらいに思っていらっしゃったのではないかしら」
「じゃあ皆さん、神様の存在も信じていらっしゃらないんですよね」
「そう思うわ。ねえ、ジャンヌ」
アメリアの横にトレイを持って腰掛けてきたジャンヌに聞く。
「えっ何の話だ」
「いや、ジャンヌは絶対に神の存在を信じないって話」
「えっ、いや、私は信じてるぞ」
「えっ」
「嘘っ」
周りの者たちは驚いてジャンヌを見た。信仰心のかけらもないジャンヌが神を信じているなんて信じられなかった。

「アレクは信じていないわよね」
アメリアはその横に来た外務卿のアレクに聞く。傲岸無比、信仰心のかけらもないようなアレクが信じているわけはないとアメリアは思っていた。

「えっ、いや俺も信じているよ」
アレクは平然と言う。
「はんっ。嘘つけ。信仰心の無い貴様がそんなの信じているわけ無いだろう」
その横に来た内務卿のオーウェンが言った。
「何言ってんだよ。俺は信じているよ」
アレクが自信満々にいう。

「そんなの誰が信じるんだよ。じゃあどんな風に信じているか見せてみろよ」
「良いけど」
そう言うとアレクはクリスの前に来ると手を合わせて祈りだした。
「戦神シャラザールよ。何卒、此度の戦いもお力をお貸しください」
「えっ、ちょっとアレク様。何で私に祈るんですか」
クリスが慌てる。

オーウェンはアレクの態度で気づいた。そう言えばクリスには戦神シャラザールが憑依しているんだった。戦神は神様だった。

オーウェンも慌ててクリスの前に跪いた。
「戦神シャラザール様。何卒、クリスとの結婚をお許しください」
「えっ、ちょっとオウ、止めてよ。冗談にもほどがあるんだけど」
クリスは本当に嫌そうに、オーウェンに食って掛かった。

「あっ、その手があった。戦神シャラザールよ。何卒、ジャンヌとの結婚をお認めください」
アレクもオーウェンに便乗して祈りだした。もうクリスは何がなんだかわからなくなった。何で二人共私を拝むんだ。

「ちょっとアレク様まで何してくれるんですか」
「そうだ、アレク、もし本当にそうなったらどうしてくれるんだ」
クリスの悲鳴にジャンヌは本気で怒っていた。

それ以降、クリスを遠くから拝む人が増えたので、クリスは本気で怒ってしばらくオーウェンに口もきかなくなった。ただ、何故皆がクリスを拝んでいるのか、本当の事を知らないのはクリスくらいだった。
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