上 下
264 / 444
第八章 ボフミエ王宮恋愛編

陳国軍の嫌がらせでシャラザール来臨しました

しおりを挟む
その後が大変だった。

戦う気満々だったジャンヌらは1戦もせずに戦いが終わって拍子抜けしていた。
しかし、降伏したノルディン帝国の6個師団の生き残り5万人強を拘束するだけで大変だった。
また、城壁を大きく壊してしまったクリスは我に返るとただひたすら子伯爵に謝った。
ノルディンの6個師団の降伏を知った陳国王は慌てて飛んできて、クリスの前に平伏していた。

そして、国境沿いに展開していた陳国5個師団も慌てて宋城に集まり、今は祝勝の宴会が開かれていた。
「ええ、本日はボフミエ帝国の皆様のご活躍により、ノルディン帝国の6個師団が無事に降伏してくれました。陳国を救って頂き本当に有難うございます。国王として感謝の言葉もございません」
国王が礼を言った。
依然王女も感涙に涙して何度もクリスにお礼を言っていたし、子伯爵と悠然も同じだった。

しかし、陳国軍部では1戦もせずにノルデインが降伏したことについて鬱憤が溜まっていた。まともに戦っても勝てない相手だとは戦う前から判っていた。そのように戦う前は恐怖が軍部の大半を覆っていたのだが、こうもあっさりノルディンが降伏したことで陳国軍でも戦えば勝てたのではないかという見当違いの意見が盛り返していた。また、アレクあたりが元々企んでやったヤラセではないかと、心無い幹部たちは噂していた。そして、そのあたりの事を探ろうといろいろ画策していた。

陳国王の次に乾杯の合図をアレクがすることにした。
「陳国の諸君。この度の武勲は第一に筆頭魔導師様のお心を動かした依然王女にある。
そして、馬鹿な愚弟が筆頭魔導師様のお怒りを買ったことが全てだ。今君たちがここで生きていられるのは全て筆頭魔導師様のおかげでもある。ここに筆頭魔導師様に感謝の乾杯をしたいと思う。
筆頭魔導師様に乾杯」

「いえ、ちょっとアレク様。勝ったのは皆様のお力で」
クリスの言い訳を

「乾杯」

ジャンヌらの大声がかき消した。しかし、否定された陳国軍部の連中は面白くなかった。

そして、絶対にソフトドリンクにしろとアレクから言われていたにもかかわらず、クリスのグラスにはワインが注がれていた。クリスがアルコールに弱いとのことで、意趣返しの意味もあってアルコールにすり替えられていたのだ。そして、不幸にもアレクらはそれに気付いていなかった。
その陳国軍の心無いものの悪戯によって、彼らはクリスによって命を救われたことを身を以て知らされることになった。

ダンッ

クリスがグラスを一口飲んだ瞬間、凄まじい音がしたと誰もが思った。
そして、凄まじい気が会場を制圧していた。
アレクは最悪の事が起こったことに気付いた。恐る恐る後ろを振り返るとそこには憤怒の形相のシャラザールが仁王立ちしていた。

「アレク、貴様良くも余に土下座わさせたな」
「えっ、いや、私がさせたわけでは」
アレクは走ってくるシャラザールに恐怖を感じる間もなかった。
次の瞬間シャラザールの怒りの鉄拳がアレクを直撃凄まじい音と供にアレクは林の中に飛んでいった。
皆唖然と見ていた。あの赤い死神が一瞬にして弾き飛ばされたのだ。大半のものが何が起こったのか理解していなかった。

「陳国のクズ将軍ども」
そこには可憐なクリスの姿はどこにもいず、歴戦の勇将戦神シャラザールが怒りに仁王立ちしていた。

「貴様らのその腐った根性、1から叩き直してやるわ。全員剣を構えろ」
シャラザールは剣を構えた。
「えっいや、そんな」
「おらおら、早くせい」
シャラザールは剣を構える前から次々に将軍達を弾き飛ばしていく。

「えっクリス、どうしたの?」
何も知らなかったオーウェンは唖然とした。
「貴様が軟弱皇太子か」
「えっ」
そこにはクリスとは似ても似つかぬ建国の戦神シャラザールが剣を構えていた。
「戦神シャラザール」
そうそこには何度も肖像画で目にしたことのある建国の戦神シャラザールがいた。

「軟弱な貴様などクリスにはもったいないわ。どうしてもクリスが欲しければ、剣を構えて余に打ちかかってこい」
「えっ、いや」
「余に打ち勝てんうちはクリスを嫁にははやれんぞ」
オーウェンは驚いた。何がどうなって建国の戦神がクリスに成り代わって立っているのか判らないが、クリスの為になるならばやるしかあるまい。オーウェンは覚悟を決めて、戦神に撃ちかかっていった。

しかし、アレクでも瞬殺されているのに、オーウェンでは叶うはずもなく、一瞬で地面に叩きつけられていた。そのあまりの衝撃の強さに息が詰まる。ゆっくりと立ち上がった。
「ふんっ。少しは骨があるのか」
「行くぞ」
再度斬りかかるが、一瞬で弾き飛ばされる。
それを重ねること二十数度、オーウェンは立っているので精一杯だった。
「降参するのか」
「何を」
オーウェンは最後の悪あがきをすることにした。ここまで十年以上、ただひたすらクリスの事を思ってきたのだ。駆け出すや、剣に魔力の全てをまとわせて、シャラザールに叩きつけていた。
シャラザールはそれを剣で受けて、オーウェンに叩きつける。
オーウェンは弾き飛ばされて林の中に叩きつけられ気を失っていた。

「ふんっまだまだ、軟弱じゃな。しかし、少しは見込みがあるか」
オーウェンの飛んでいった方をみてシャラザールが呟いた。

「おらおら、お前ら。何ぼうっと突っ立っておる」
シャラザールの力は有り余っていた。

捕まったはずのノルディンの兵らも連れ出され、死の訓練がシャラザールよってなされたのは言うまでもなかった。
そして、ノルディンの連中も陳国の連中もアレクが何に恐れをなしていたか身を以て初めて正確に知ったのだった。その場にいた連中は誰もが、絶対に逆らってはいけないものがいることを身を以て知ったのだった。

陳国王は心に誓った。絶対にボフミエだけには逆らわないようにしようと。

宋城の近くの河原では桜の花が風で散っていた。

しかし、生きる屍とかした兵士たちはそれを見る余裕のあるものなど一人も残っていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。 物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。 週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。 当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。 家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。 でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。 家族の中心は姉だから。 決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。 ………… 処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。 本編完結。 番外編数話続きます。 続編(2章) 『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。 そちらもよろしくお願いします。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。

りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。 伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。 それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。 でも知りませんよ。 私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

全てを諦めた令嬢の幸福

セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。 諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。 ※途中シリアスな話もあります。

侯爵令嬢として婚約破棄を言い渡されたけど、実は私、他国の第2皇女ですよ!

みこと
恋愛
「オリヴィア!貴様はエマ・オルソン子爵令嬢に悪質な虐めをしていたな。そのような者は俺様の妃として相応しくない。よって貴様との婚約の破棄をここに宣言する!!」 王立貴族学園の創立記念パーティーの最中、壇上から声高らかに宣言したのは、エリアス・セデール。ここ、セデール王国の王太子殿下。 王太子の婚約者である私はカールソン侯爵家の長女である。今のところ はあ、これからどうなることやら。 ゆるゆる設定ですどうかご容赦くださいm(_ _)m

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

処理中です...