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第七章 魔王復活

トリポリ国王は魔王カーンの使者に鷹揚に対応しました。

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昼下がりの午後、食事の終わった後、丁度眠くなる時間帯だ。
トリポリ国王ホフマンも官僚の報告を聞きながらうつらうつら船をこぎ出した時だ。

ダーン

と大きな音と共に執務室の扉が開いて宰相のロータルが飛び込んできた。

「大変でございます。国王様。モルロイから使者が参りました」
「な、何。モルロイからの使者だと」
あっという間にホフマンは眠気が吹き飛んだ。
「使者はカーンか」
思わずホフマンは立ち上がった。

「いえ、バジノヴァーとおっしゃる元クロチアの貴族の方らしいです」
「カーンが偽っているわけでは無いだろうな」
「私もちらっと見ましたが、中肉中背の小太りな方で、モルロイ国王とは似ておらぬかと」
「本当だな」
ロータルにホフマンはくどいほど確認した。


「アレクサンドロ様。カーンから使者が参りました」
ホフマンは慌ててアレクに魔導電話した。
「本人が来たのか」
「いえ、アレクサンドロ様がおっしゃったように別人でバジノヴァーという者のようです」
「ならば当初の予定通りに、せいぜい尊大な態度で相手してやれ」
「アレクサンドロ様。本当にお見捨てにならないのでしょうね」
アレクに再度ホフマンは確認する。
「貴様しつこいぞ。筆頭魔導師様も、お約束頂いただろうが」
「判りました」
「ホフマン国王。私もそちらの様子は映像で見ていよう。いざとなれば筆頭魔導師様に雷撃で攻撃頂こう。

「本当でございますか」
ホフマンは喜んで言った。
「そうだ。ここは大船に乗ったつもりでドーンと行け」
「判りました」
アレクの言葉にやっとホフマンは安心して、謁見室に挑もうとした。

「アレク様。私、雷撃はやりたくないんですけど。下手にやるとトリポリのお城ごと吹き飛ばしてしまいますよ」
二人の会話を聞いていたクリスが言う。
「クリス様。言葉の綾ですよ」
笑ってアレクが言う。
「ああ言っておけばホフマンはきちんとやります。それを見て怒り狂ったカーンがトリポリを攻撃に動けばそれを叩けば良いだけの事です」
「しかし、カロエから北上するとクロチアの領土を先に攻撃することになりますが」
「本拠が攻撃されたと知れば慌ててカーンの奴は帰ってきましょう。そこを叩けばよいだけです」
「そのままトリポリの国を占拠してから帰ってくる可能性は無いのでしょうか」
「大丈夫です。きゃつの性格からしてありえませんから」
アレクは太鼓判を押した。たとえはずれても高々トリポリ1国が地上から消えるだけだ。
アレクにとっては痛くもかゆくも無かった。
「そうですか。まあその場合は私とアレク様とお姉さまとウィルの4人で先行してトリポリの救援に行けばよいですよね」
さらりとクリスが言う。
「えっクリス、それは危険では」
オーウェンが心配して横から言う。
「しかし、こちらを信用して頂けたトリポリ国王陛下を裏切るわけにはまいりません」
クリスがきっぱり言い切った。
それをいらないことをいうかなとアレクは思ったが、クリスには反論できなかった。
ホフマンは長い付き合いなだけにアレクの性格を確実につかんでいた。
いざとなれば見捨ててくれると。
そして、クリスの保障をもらっていたことが生きた事など本人は知らなかった。


バジノヴァーは謁見の間に案内されてから早、1時間が立とうとしており、イライラしていた。
「私はモルロイ国王カーン様の使者だ。いつまで待たせるつもりだ」
側にいる兵士に恫喝したが、兵士たちも
「もうしばらくお待ちください」
と慌てる風もなく返される始末であった。
兵士たちにとってトリポリでは傲岸無比なのはアレクで、前回アレクを怒らせるといきなり王宮を破壊し始めて恐れられていたが、カーンなどという新興国の王など、アレクに比べれば全然ましだという認識しかなされていなかった。

何度目かの誰何の後で、やっと扉が開いた。

国王がゆったりと入ってくる。

そして上座にのっそりと座った。

「その方がモルロイの使者か。何やらクロチアで暴れているようだが、このトリポリには騒がせた謝罪でも来たのか」
鷹揚にホフマンは言い切った。

「な、なんですと」
バジノヴァーは驚いた。こちらは降伏勧告に来ているのに何たる態度。
この国王は魔王カーンの怖さを知らないのか

「何をおっしゃる。トリポリ国王陛下。我が主カーン様は魔王の生まれ変わりと言われているお方ですぞ。
その方を怒らせると…」
「な、なんと、モルロイ国王は犯罪者であったか」
使者の言葉をホフマンはぶった切った。
バジノヴァーはここで言葉を挟まれるとは思ってもいなかった。

「魔王は国際手配されている犯罪者ではないか。余に降伏に来たのか」
「何をおっしゃっていらっしゃるのです。魔王カーン様を怒らせるとクロチアのようにあなた様の首が飛びますぞ」

「わっはっはっは」
それを聞いて、いきなりホフマンは笑い出した。
バジノヴァーは何故ホフマンが笑うか判らなかった。
常識ある者ならば魔王の恐ろしさは知っているはず。恐怖のあまりおかしくなって笑い出したのかとも想われたが、どう考えても恐怖で笑っているとは思えなかった。

「やれるものならばやってもらおうではないか」

「な、なんですと」
ホフマンの言葉にバジノヴァーは驚き仰天した。こいつは気が狂ったのだろうか。
魔王話怒らせれば実際にやりかねない。

「私はボフミエ魔導帝国の聖女クリスティーナ様と同盟を結ばせて頂いている。
魔王カーンだか何だか知らないが、先日クリスティーナ様のお怒りを買い、雷撃を喰らって城もろとも黒焦げになったというではないか。城が無くなったので、慌ててクロチアの城に逃げ去ったとか」

「なっ何だと」
バジノヴァーは驚いた。

「その方知らなかったのか。クロチアは余程に辺境の地なのだな。情報が伝わるのにが遅すぎる」
ホフマンは古い国であるクロチアには今まで散々文明後進国であるとか野蛮国であるとか馬鹿にされていたのでこの機に徹底的に言い返すことにしたのだ。

「そのような事は無い。魔王様が筆頭魔導師ごときに負けるなどある得ない事を申されるな」
きっとしてバジノヴァーが言う。

「あっはっはっは。愚かなものよ。クロチアもなりふり構わずクリスティーナ様にお慈悲をお願いしておればモルロイなどとという野蛮国家の属国になどなる事も無かったものを」

「な、トリポリ国王はクロチアの二の舞になるというのか」

「ふん。貴様は本当におろかよな。貴様こそ、さっさと降伏しろ。
でないとクリスティーナ様にお願いしてその身もろとも黒焦げにしてもらおうか」

「な、なにを言われる」
バジノヴァーは慌てだした。確かにカーンがボフミエの筆頭魔導師から雷撃攻撃を受けたという噂はあった。しかし、あの恐怖の魔王に攻撃するなどそれも遠距離雷撃など不可能だと思っていた。しかし、この目の前の国王はあたかも当然のことのように言うのだ。確かにボフミエで専制していた皇帝を筆頭魔導師が倒したとは聞いていた。その魔力量が多い事も。そして、このトリポリ国王の言う事を聞けばこのトリポリはそのボフミエ国の傘下にあると。
魔王相手にはさすがに勝てなくとも、このバジノヴァー相手なら十分に可能なのではないかという事に初めてバジノヴァーは気付いた。魔王もその危険性があるからここは付き合いの浅いこのバジノヴァーを使者に出したのては無いか。殺されても良いように。


「この映像はクリスティーナ様もご照覧されているのだぞ。何だったらクリスティーナ様に今ここで雷撃攻撃を貴様に見舞って頂こうか」

「なっ何を」
そう言われてバジノヴァーはキョロキョロ辺りを見回した。

「ほら、クリスティーナ様が貴様を狙っていらっしゃるぞ」
ホフマンの声にバジノヴァーは慌てる。

「ほら」
だんっ。
後ろで破裂音のような音がした。

「ヒィィィィィ」
その瞬間にバジノヴァーはしゃがみこんで震えていた。


「えええい、何をしておる」
そこにいきなり怒り狂った魔王カーンの顔がドアップで出現した。

************************************************
遂に魔王カーン登場です。どうするトリポリ国王?

人物紹介
ホフマン・トリポリ国王48 ノルディン国境付近にあるたてめ、生き残るにはノルディンの意向が大切。アレクにすがることによって今まで生き残ってきた。先日はアレクがノルディンから離れてボフミエなどという3流国家の外務卿になったので、あまり重要視しなかったらアレクの怒りを買って半死半生の目に合わされて、アレクの怖さを思い知らされた。
アレクの為に良く大変な目に合わされている。
しかし、今は誠実で、世界最強のクリスの犬と化している。

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