上 下
194 / 444
第七章 魔王復活

クリスは高熱で苦しみます

しおりを挟む
「姉さん!」
クリスが倒れたと聞いてウィルが慌てて飛んできた。
「だから言ったんだ。危険だから、病棟に近づくなって」
泣き叫びながらウイルは言う。

「ウィル黙りなさい」
目を開けてクリスが言った。
「施政者たるもの、国の民が苦しんでいるなら、伝染病だろうが、うつる可能性があろうが、
その民に寄り添わなくてはならないのです。
安全だからと後方に隔離されるなどと施政者のすることではありません。
あなたもいずれはミハイル家を継ぐ者として心に刻みなさい」

「しかし、国法でも、黒死病の感染者は隔離しこれに近づくなと」
「そのような国法などくそくらえです。
国のトップが患者を見捨ててどうするのですか」
「しかし、姉上までかかってしまっては意味が無いでしょう」
「国民と同じ苦しみを味合わずして、何が筆頭魔術師か」
「なにも同じ病に自ら進んで進んでかからなくても」
「民の苦しみを一緒に体験してこそ施政者なのです」
クリスが言い切っていた。


一方王宮の方が大変だった。
「何だと、クリスが黒死病にかかっただと」
オーウェンが荒れ狂っていた。
「だから言ったんだ。クリスはジャンヌやアレクみたいな馬鹿じゃないんだからかかる可能性があるから近付いちゃいけないって。それを無視して近付くからこんな事になる」
頭をかきむしってオーウェンは叫んでいた。
「あああ、こんな事なら絶対に一緒にワットに行くべきだった」
オーウェンは今ほど後悔したことは無かった。
自分の想い人のクリスが黒死病に苦しんでいるなんて。
しかも、自分は立場上この場を去ってワットに駆けつける事も出来なかった。



この事は外部に秘されたが、どこからともなく漏れた。

「あっはっはっは」
カーンは馬鹿笑いをしていた。
「遂にあの小生意気な小娘が黒死病にかかったか。それは目出度い」
「まさか、本当にかかってくれるとは」
アラクシも喜んで言った。

「行かせた工作員らはどうしている」
「皆高熱を発して寝込んでいるようです。影から連絡が入りました」
「そうかよくやってくれたな。無事に命が助かれば今後は重用してやろう」
カーンは言い切った。
「侵攻作戦を実行いたしますか」
「まあもう少し待て。あと10日もせずに筆頭魔導師の小娘は死ぬだろう。それからでも良かろう」
「そうですな。黒死病ではほとんど助かりませんからな。
ワットのボフミエ軍も過半数は死ぬに違いありませんな」
「各国にこの情報を教えてやれ。王子らを出している国は恐慌を引き起こして直ちに引き上げようとするだろう。沈没船に乗っているネズミもおるまい。じっと待っていれば自然とボフミエは落ちよう」
「御意」
カーンの言葉にアラクシは拝礼した。


「ウィルどういうことだ。」
ウィルの魔導電話に父のエルンスト・ミハイルミハイルが突然現れた。
「父上」
「クリスが黒死病で倒れたと噂になっておるが」
「噂になっているのですか」
かん口令が敷かれたはずなのに。宮殿から漏れたのかとウィルはいぶかしんだ。
「モルロイの奴らが精力的に噂をしてるようだ」
エルンストは言う。
「くっそう、許せない」
ウィルはモルロイは必ず殲滅すると心に誓った。
「それよりもクリスの病状は」
「姉上は高熱を発しして苦しんでます」
心苦しそうにウィルが言う。
そして、画面を寝ているクリスに会わせた。
真っ赤な顔をしたクリスがうなされていた。

「ウィル、何をしている。お前は出来る限りクリスから離れろ」
慌ててエルンストは言った。

「いやです。父上」
ウィルは即座に否定する。

「しかし、お前までが病気で死ぬようなことがあるとミハイル家は下手したら断絶する」
「何を言っているのですか。父上。
私まで死ねば適当な親戚を養子に迎えれば良いでしょう」
ウィルは言い切った。

「しかし、ウィル」
「姉上は施政者たる者は伝染病が流行れば自ら進んでその感染地に入り、看病するように言われました。
その言葉をたがえる訳にはいきません」
「はっそんな法がどこにある。特効薬が無いのに伝染病の感染地に施政者がいけば施政者まで病にかかってしまうではないか。死んだら誰がその国の面倒を見るのだ」
「次の者が見るだろうと姉上はおっしゃいました。
自らの命を捨てて国民のためにするのが施政者の務めだと」
「いや、しかし、」
「これ以上愚痴愚痴言うと親子の縁を切りますよ。では父上」
「おい、待て、ウィル・・・・・」
切られた電話からは何も返って来なかった。


愛する娘が黒死病に倒れ、ウィルまでいつかかるか判らない状態になってミハイル卿は呆然自失の状態になった。
クリスが黒死病にかかって生死の境目にいる事はあっという間に国内外に広まり、マーマレードの教会はクリスの無事を祈る国民で溢れた。

「どうか神様。クリス様のお命をお救い下さい」
「母ちゃん。クリス姉ちゃん死んじゃうの」
ジャックが教会で祈っているメリーに訊いた。
「何言っているんだい。クリス様がそう簡単に死ぬ訳ないだろう。
何しろ魔人でさえ、やっつけられた方なんだから」
メリーがジャックの頭をしばいて言った。
そうクリスは不死身のはずだった。
必ず黒死病を克服されるはずだった。
メリーはそう信じる事にした。

しかし、皆が祈ってもクリスの高熱はなかなか下がらなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』 *書籍化2024年9月下旬発売 ※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。 彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?! 王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。 しかも、私……ざまぁ対象!! ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!! ※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。 感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

処理中です...