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第六章 クリス ボフミエ皇帝?になる

赤い死神は調子に乗ってクリスの前でトリポリ国王を脅迫した事をばらしてしまいました

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翌日の特別授業は大講堂で行われた。
前の席に事務クラスと魔導クラスが陣取り、その後ろには一年生と保護者の貴族らが陣取る。
クリスは前部の後ろの端に座っていた。
そして教室内が騒めいた。内務卿のオーウェンが入って来たのだ。
彼はクリスを見つけると手を振ってその横に座った。
「ちょっとオウ困ります。こんな目立った行動して頂いては」
クリスは嫌そうな顔をする。
オーウェンなんて横に座ったら目立ちすぎる。

「まあまあいいじゃない」
オーウェンは笑って言うがその後で一人でボソリとつぶやく。
「一人で執務するのも疲れた…」

それを聞いてクリスは諦めたような表情をする。
まあ、いつまでも隠し通せる訳は無いと思ってはいたが、皆にばれるのは早すぎるような気がするが。

「ねえねえ、今日も内務卿来ているけど、なんで不細工眼鏡の横にいるのかな」
「やっぱりあの子おかしいわよね」
「クリスって苗字が無いなんて言うけど」
「筆頭魔術師様がクリスなんだけど」
「でも、筆頭魔導師様はとてもきれいな人じゃなかったっけ」
「あの不細工眼鏡と全然似ていないと思うんだけど…」
「うーん」
噂話していた皆は考え込んだ。

「おい、ブス眼鏡。そこじゃまだよ。どけよ」
相も変わらず、何も考えていないデニスが端の席に座っていたクリスを見つけて言った。
「君は確かデニス君」
オーウェンが機嫌を悪くして言う。

「えっ内務卿?」
デニスは今までオーウェンがクリスのとなりに座っているのに気付いていなくて慌てた。
「同級生にブス眼鏡は無いんじゃないか」
「はいっすいません。」
上の人間には弱いデニスだった。


「諸君、おはよう」
そこへアレクがトリポリ国王を引き連れて入って来た。

「おい、あれアレクだぞ」
「なんでクラスメートのアレクが」
「お前は馬鹿か。やっぱり外務卿だったんだ」
「そんなの見ただけで判ったろ」
「うそっ」

魔導クラスを中心に騒めく。
アレクは魔導クラスの1つを束ねていた。
もう一つのクラスはジャンヌが。そしてお互いに競い合っていたのだ。

「昨日は内務卿がわざわざスカウトに授業をしたと聞いたので、外務も負けてられないと今日、特別授業をすることになった。内務も人手不足だが、外部も人手不足だんだ。
後ろの貴族諸君、あるいは平民諸君でもどんどん応募してほしい。
選考の実務はペトロ・グリンゲン君が担当するから」

「えっ俺?」
舞台の端に一緒に来ていたペトロは丸投げに驚いた。そんな話聞いてもいなかった。
まあいつもの事だが…
また眠れけない日が続くのかと思うとげんなりだったが…

「今日は昨日も筆頭魔導師様からお言葉があったが、今回の飢饉を救うきっかけをくれたトリポリ国王をお招きしている」
アレクの紹介にトリポリ国王が鷹揚に構える。
拍手がクリスを中心に広がった。


「今回の飢饉は全ては前皇帝がGAFAと組んで世界征服を企んだことに端を発している。
国民の食糧を担保に魔王を復活させようとして筆頭魔導師様をはじめ我々に阻止されはしたが。
それは諸君も知っての通りだ。
しかし、愚かにもGAFAはそのまま我々を脅したのだ。
もはや国内に食料はほとんどなく、内務ではどうしようもなかった。
外国から食料を援助してもらえなければ国に飢饉が起こり国民の大多数が餓死すると。
国の危機回避が外務にゆだねられたのだ」
その演説をオーウェンは苦虫を噛み潰したように聞いていた。
「当然私も内務卿も自分の国に援助を頼んだ。
しかし、ケチなノルディンは5千トン、マーマレードは2千トン、裕福な大国ドラフォードすら1万トンしか援助してくれないかった。
次の米の収穫期9月までに必要な米の量は草木を食っても7万トン
そのうちの1万7せんとんしか調達できなかったのだ。

5万トン足りない。
金もない。
内務省はお手上げ状態。そこで外務省の出番となったのだ。
私はまず、入魂のトリポリ国王にお願いして何とか5千トンを援助頂くという承諾を得て、そしてそれを聞いた近隣諸国が我も我もと援助していただくことになり、ようやく諸君が飢えることが無くなったのが現実だ。
そしてここにその最初の立役者のトリポリ国王陛下をお招きした。
詳しくは今から彼に語って頂こう」
アレクはトリポリ国王を壇上に招きあげた。
みんな一斉に拍手する。

「えっここからですか」
ホフマンは驚いた。
適当にアレクの言葉に感激して食料を供出した事にしろと言われたが、そのようないい加減な話で通用するか大変不安だったが、アレクのいう事は聞かざる終えない。

「紹介に預かったホフマン・トリポリです。
アレク殿下とはノルディン皇太子殿下の時からの付き合いで、今回も困っているから何とかしてほしいと頼まれまして、隣の国が困っているのを見捨てるのもあれかなとお助けすることにいたしました」
適当に当たり障りない事をホフマンは話して誤魔化そうとした。

「それはアレクがノルディン皇太子だからか」
いきなりオーウェンが質問する。
アレクばかりいい子発言にオーウェンは切れていた。
確かにトリポリ国王の変心と言う突然の援助で周りの国々が我も我もと援助してきたので穀物量が増えたのは事実だが、最終的にはジャンヌがクリスの父親を脅したから飢饉は無くなったのだ。
それにトリポリ国王はアレクに説得されたのでは無くて絶対にアレクに脅され、周りの国も驚いてそれに倣ったのに違いないとオーウェンは踏んでいた。

「内務卿いきなり質問はどうかと思うが」
「いやいや生徒達に実践を教える場なんだろう。表面的なきれいごとなんて教えても仕方が無いだろう」
アレクの言葉にオーウェンが答える。
「まあそれはそうだが」
「で、トリポリ国王どうなんだ」
オーウェンが聞く。
生意気な態度にホフマンはムカッと来るが彼も大国ドラフォードの皇太子だ。
雑には出来ない。
「まあ、ドラフォード皇太子殿下がおっしゃるようにアレクサンドル様はノルディン皇太子殿下でありますし、その事は心の片隅には思っていました」
ホフマンは誤魔化そうとする。
「ふーん。でも、アレクがボフミエの外務やっているからって恐怖に感じなかっただろう」
「えっいえそんな事は」
「嘘つけ。アレクはノルディン皇太子を追い出されてボフミエの外務卿になったと思っていたろう。
それでいい加減にしていたらアレクが切れて宮殿かなんか破壊したんだろ。
それを恐怖に感じて食料を供出させられたというのが実際だろ」
オーウェンはペトロに詳しい話を前もって聞いていた。

「何を言っているのかな。内務卿。私がそんなひどいことする訳ないだろう」
ニコニコ笑いながら、実際は目は笑っていなかったが、アレクが答える。
「なあ、トリポリ国王」
「はい。もちろんです」
慌ててホフマンも頷く。

「その態度からして脅しているだろう」
「何を言っているのか全然」
「トリポリ国宮殿の天井は破壊されて青空が見えているとか」
「何を根拠に」
「そんなの諜報局に聞けば即座にわかるだろう。なあ、ホフマン国王」
「……」
もうホフマンは答えられなかった。
「さすがノルディン国皇太子殿下。諸君、良く心に刻み込んでおくことだ。
ノルディンの基本戦略は恐怖で相手を嚇す事だ」
「本当にもうドラフォードの陰険皇太子は細かい事にうるさいよね。
そう、諸君に言っておこう。外交はきれいごとでは解決できない。
トリポリ国王、最初は1粒たりとも援助しようとは思っていなかったよね」
にやりと笑ってアレクが言った。
「はい。ノルディンのバックにいないアレクサンドロ殿下など怖くないと」
それに乗っかる形でホフマンは答えた。
「でも宮殿を破壊された後は」
「このままだと国都を灰塵に変えられると恐怖に打ち震えました」
「そして」
続きを促すと
「5000トン出さないと国が滅ぼされると思い供出しました」
「そう、相手を脅して優位に勧める。これが外交の基本だ」
にこりと笑ってアレクが言った。

「アレク様。どういうことかしっかり説明してもらいましょうか」
そこには怒り心頭のクリスが立っていた。

「えっクリス嬢…」
今まで自信満々のアレクが怯えた声を出した。
アレクはクリスが聞いているのを忘れていた。
そしてクリスが曲がったことが大嫌いな事も。

ホフマンは信じられない物を見るような目でアレクと少女を見た。
あの赤い死神が恐れる者がいるなんて。
それもさえない黒メガネの少女に…
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