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第六章 クリス ボフミエ皇帝?になる

トリポリ国王はクリスに歓待されました

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その日の午後は王宮に賓客が来るとのことでクリスは午後を休んで王宮にいた。

控室には汗をかきながらホフマン・トリポリ国王がいた。
「よく来てくれたな」
アレクは鷹揚に言う。
「良く言うよ。無理やり連れて来たくせに」
ボソリとホフマンが小さい声で言う。
「何か言ったか」
「いえ、聞き違いでございましょう」
慌ててホフマンが取り繕う。

転移で現れたアレクにすぐに来いと強引に連れて来られたのだ。
何でも筆頭魔導師が食料の援助に感謝してお礼が言いたいという事だった。
そんなのはいりませんと断ったらアレクが切れたので慌てて付いて来た次第だった。
ホフマンにとって怖いのはアレクでクリスとかいうボフミエの筆頭魔導師なんてどうでも良かった。

謁見の間が開かれて中に案内される。

中に入るとホフマンは自分が上座に案内されていることに驚いた。
真ん中に金髪の少女がおり、その横にはオーウェンドラフォード皇太子、茶髪の女はジャンヌマーマレード皇太子だろう。アメリアテレーゼ皇太子までいる。
ドラフォードとノルディンの2大国とマーマレードとテレーゼと言う中堅国の皇太子を控えさせているクリスと言う少女の存在自体がホフマンにはよく判らなかったが。
余程魔力が強いのだろうか。
各国の王族、それも皇太子ともなると我の塊だ。個性が強く協調性が無い。
特に赤い死神などその最たるものだ。そのアレクと戦場で戦った暴風王女もいるし、ドラフォードとノルディンはいつも争っているし、陰険皇太子と呼ばれるオーウェンも我は強いはずだ。
そんな我の強い皇太子共がうまくやって行ける訳は無いとホフマンは思っていたのだが、いつの間にかGAFAを叩きのめして、更にテレーゼのわがまま王女まで、傘下に入れるなんてクリスと言う少女は余程の大物かもしれない。そうか赤い死神の傀儡か。

「クリス様。ホフマン・トリポリ国王をお連れしました」
ホフマンが驚いたことにあの傲慢なアレクサンドル・ボロゾドフが頭を下げてなおかつ様つけで呼ばわったのだ。ホフマンには信じられなかった。

「ご苦労様です。アレク様」
クリスはアレクの労を労うとホフマンに微笑みかけた。

「ホフマン・トリポリ国王陛下。よくこのようなところまでお越し頂き、感謝の言葉もありません」
クリスがホフマンに歩み寄った。

「また、この度はボフミエの民の為に食糧援助を決めて頂いたこと感謝の言葉もありません。
本当にありがとうございました」
クリスは深々と頭を下げた。
一国の国主が頭を下げたのだ。
後ろの皇太子連中も下げざる終えない。


「いやいや、筆頭魔導師殿。頭を上げてください。私は当然の事をしたまでです」
アレクの怖い視線に驚いてホフマンがクリスの頭を上げさせようとする。
クリスはともかく、これだけ大国の皇太子に頭を下げさすと後が怖い。
特に赤い死神に。

「貴国が早急に援助を決めて頂いた事で他国からも多くの援助がいただけました。
ボフミエの飢えが無くなったのは国王陛下のご決断のおかげです」
「何をおっしゃるのですか。困っている時はお互い様です」
アレクに脅されて強引に援助させられたことなどホフマンの頭からは飛んでいた。
これだけ大国の次期国王となる連中から頭を下げさせることなど二度とない。
これは一生の自慢だ。
ホフマンはクリスに感謝の言葉も無かった。

「このご恩はこのボフミエ国が存続する限り忘れる事はありません。
何かお困りのことがあれば外務卿にご相談ください。
今回のお礼については内務卿より貴国にご提案がありますので後で詳しく聞いてください」
「ありがとうございます。今後とも貴国とは良しなにお願い致します」
クリスに手を握られて中年エロおやじの表情になったホフマンはオーウェンと後ろに控えているアルバートとウィル、ジャスティンの鋭い視線には気づいていなかった。

歓迎式典の後はパーティーだった。

多くの貴族も参加していた。

飢饉が発覚して以来こういったパーティーは自粛されていた。

今回は飢饉解消の立役者としてトリポリ国王が来臨したので急遽開かれたのだった。

各国大使や軍の将校などもいた。

久々の外交の場にみんな喜んで参加してきたのだ。

「しかし、トリポリ国王など聞いた事も無い名前ですな」
「北の3流国に助けられるなど、本当に落ちぶれたものです」
ヨーナス・ハウゼン公爵の言葉にオットー・フォルスト伯爵が頷く。
「まあ、おままごと王朝ですからな。普通の王朝なら飢饉など事前に察知して起こしませんわ」
二人は笑い合った。
もっともこの飢饉は前任者らの怠慢が招いたものだったが。
「そう言えば鳴り物入りで魔導学園が出来ましたが、どうですかな」
「息子によると大したことは無いとのことですぞ」


「お楽しみですか」
その二人にクリスが声をかけた。
「これはこれは筆頭魔術師様」
小馬鹿にしたようにヨーナスが言う。
「我々下々のようなものにおかまいいただかなくても」
しかし、その後ろのジャステインがぎろりとにらんだので慌てる。
今日は騎士団長自らがクリスの護衛をしていた。
「何をおっしゃいます。ハウゼン公爵様の領土もフォルスト伯爵様の領土も領民は飢えていなかったとか。
素晴らしい手腕ですわ。今もオーウェン様と見習わなければと話していたところなのです」
そんな話はしたことが無いといきなり話をふられたオーウェンは慌てたが、クリスに会話を合わせる。
「そうですな。本当に素晴らしい」
「いやいや、そのようにほめて頂かなくても」
「そうです。普通に領地を治めていただけですから」
二人はドラフォ―ドの皇太子に褒められて悪い気はしなかった。

「学園の事をけなしておられたが」
「いやいやそんなことは」
「もしお宜しければ明日、トリポリ国王陛下が特別授業をされるので見に来ていただければと思いますが」
クリスが言う。
「しかし、クリス」
「良いのです。ご子息のデニス君もいますし、是非に」
オーウェンが戸惑うが、クリスは誘う。
「判りました。そこまでおっしゃっていただけるなら参加させていただきます」
ヨーナスは息子の名前までクリスが知っていることに驚いた。
「皆様もよろしければぜひとも」
クリスは周りの貴族も誘った。

ホフマンは周りを貴族の子女に囲まれてご機嫌だった。
特にアメリア王女に感謝されて言うことは無かった。
「アメリア王女殿下にお酌していただくなんて感激です」
「何をおっしゃっていらっしゃるんですか。明日の講義は宜しくお願いしますね」
「講義?」
「いやあ、アメリア殿下。ご安心ください。明日は私も出ますので」
驚いたホフマンをアレクが横からしゃしゃり出る。

「殿下講義って何ですか」
「明日実践クラスで講演頂くんですが。聞いていらっしゃらないんですか」
アメリアが驚いて聞く。
「まあ私がフォローしますから」
涼しい顔でアレクが言う。
「殿下。聞いておりませんぞ」
慌ててホフマンが言うが、
「何、私の横で突っ立っていてくれればいいさ」
笑ってアレクが言った。
アレクが笑ってやってくれることにろくなことは無いのだが…
ホフマンの顔は引きつっていた。
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