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第六章 クリス ボフミエ皇帝?になる

テレーゼ王女はスカイバードで気絶しました

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「えっ、テレーゼのアメリア王女がいらっしゃったって、先ぶれが1時間前にあったところだよな」
クリス付きの王立高等学園でクリスとクラスメートだったフェビアン・クライルハイムは驚いて言った。
「そうなんだ。転移魔法でいらっしゃったみたいで」
内務官で今は元ボフミエ第三王子のフォローをしているこれもクラスメートでボフミエ出身のシュテファン・キッツィンゲン子爵令息が言う。

「クリス様は南部に、ドラフォードの皇太后様を迎えに行かれたところだし、内務卿のオーウェン様がいらっしゃるんじゃ…」
「オーウェン卿はウイルと喧嘩して一緒に連れて行ってもらえなかったって怒っておられたけど、高速船で朝一番で向かわれたよ」
「ジャンヌ殿下は海の上で海軍の指導中だし」
「アレク殿下は北部のトリポリでペトロと酒池肉林だって」
「何その酒池肉林って」
「こんなの初めてってあのまじめなペトロが喜んで電話してきたから余程歓迎されているんじゃないかな」
あのまじめ目なペトロが真っ赤になって電話してくるなんて余程の事だ。
「こっちは忙しくて大変なのに、何やってるんだよって感じだよな」
「そうだよ。本来なら外務の仕事だろ」
「外務は外務卿と次官がトリポリで仕事をさぼって豪遊中で何とかしてほしいって他の奴らが泣きついてきたんだよ」
シュテファンが言った。

「でも、じゃあ誰が相手するんだよ」
「殿下って言えばうちにもいたから」
「うーん、ボフミエ第三王子殿下か」
フェビアンにはうまくいくとは思えなかった。

謁見の間では内務次官のヘルマン・ゲーリング元ボフミエ第三王子が椅子にふんぞり返って座っていた。
その両横をシュテファンとフェビアンで固めていた。
クリスは身分差を言うのを嫌うので、謁見の間は通常は拝謁者が下座なのを強引に反対にしているのだが、
それを椅子を動かしてヘルマンは上座についていた。
ばれたらまずいんじゃと二人に諫められたが、たまにはいいだろうと全く聞く耳も持たないヘルマンであった。


そこを散々待たされたアメリアとサイラスが入ってきた。
アメリアはヘルマンをちらっと見ると額をピクピク震わせた。
「サイラス。いつからボフミアは豚の国になったのかしら」
「何だと」
多少太り気味の事を気にしていたヘルマンが咎める。
「あなた誰よ。本来そこはクリスが座っている席よね」
アメリアが言う。
「人の名を聞く前にまず自ら名乗れ」
「豚が何か言っているわ。サイラス」
「まあまあ、姫様。ここは大人としてのご対応を」
サイラスが穏便に済ませようとする。
「豚に名乗る名前は無いけど、仕方が無いわね。テレーゼ第一王女アメリア・テレーゼよ」
アメリアが堂々と名乗る。
「私は元ボフミエ第三王子、今は内務次官のヘルマン・ゲーリングだ」
胸を張ってヘルマンが応える。
「ああ、あの、クリスに張り倒された前皇帝の息子ね。
今はお情けでオーウェンの下働きをさせられているって言う」
「何だと貴様!よくも…」
アメリアの言葉はヘルマンの鉄のプライドをズタズタに切り裂いていた。
「ふんっ、貴様こそ、魔導の本場を標榜するテレーゼの王家にもかかわらず、魔力量は傍流のクリスの10分の一にも満たない、わがままアメリア王女だろうが」
「何ですって」
ヘルマンの言葉は鉄仮面と言われる面の皮の厚いアメリアのプライドを貫いていた。
「人の事良く言えるわね。クリスの魔力の前に気絶させられたくせに」
「それは俺ではない。フランツという教師だ」
「同じような物でしょ」
「何だと」
二人はにらみ合った。
「こんな下っ端しかボフミエにはいないわけ。クリスはどうしたの」
アメリアが横に立っていたフェビアンに言う。
「クリス様は現在南部のスカイバード実験施設の側に農業の実践で行っていらっしゃって」
「そう、そのスカイバードよ。ここからもそこまでスカイバードに乗れば1時間かからずに行けるんじゃないの」
アメリアは喰いついた。
「申し訳ありません。現在実験機で残っているのは衝撃吸収装置がついていないものしかなく…」
「でも飛べるんでしょ」
「それは飛べますが」
「魔力の無い貴様が気絶せずに乗れるわけないだろう」
横からヘルマンが口出す。
「あなたと一緒にしないで。ポンコツボフミエ王子は無理でもこのアメリアに不可能の文字は無いわ」
「何を。そこまで言うなら俺も一緒に乗ってやる。貴様が泡吹く様を横で笑って見届けてやるわ」
「ふんっ。何言っているのよ。あなたが泣きか叫ぶさまを余裕を持って見守ってあげるわ」
二人の視線があって火花を飛ばしあった。


そのまま実験機に乗ることで話がついて、二人は発射台に来ていた。

「本当に宜しいのですか」
サイラスが電話画面から呆れて最終確認する。

「あのウィルが乗れたんでしょ。大丈夫よ」
余裕でアメリアが応える。
あの小さいウイルが乗れたのだ。自分も当然乗れるはずだ。
「やめるなら今のうちだぞ」
青い顔をしてヘルマンがとなりの席で言う。
「ふんっ。顔色悪いわよ。今頃怖気づいたの?」
馬鹿にしきった態度でアメリアがヘルマンを見下す。
「何言ってる。そんな訳ないだろ」
ヘルマンはやせ我慢した。
フェビアンはヘルマンを白い目で睨んでいた。
衝撃吸収装置を付けないスカイバードに王女を乗せるなどとんでもない事だった。
まあ、やめた方が良いと忠告したのに、王女自ら乗ると言ったのだ。責任は自分で取ってもらおう。

「はい。皆様。本日は南部実験施設までのスカイバードの空への旅にご搭乗いただいてありがとうございます。シートベルトは絶対に外さないでください。舌を間違って噛まないように歯を食いしばってくださいね」
操縦士は親切心から言った。
「そんなにひどいの?」
少し不安になってアメリアが聞く。
「私も最初は気絶しました」
操縦士は当然のように言った。
「この前はウィリアム様も半死半生でしたからね」
「えっウィルが半死半生?」
「オーウェン様も二度と乗らないと」
「ちよっとまって。やっぱり降りるわ」
「すいません。もう無理です。カウント始まりました」
「3、2、1」
「ちょっと待っギャー・・・」
その瞬間すさまじい加速度が二人にかかる。
ヘルマンもアメリアも次の瞬間には意識が飛んでいた。
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