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第五章 ボフミエ皇帝誘拐する

大国東方第一師団長は父の命令であっても聞きません

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「シャラザール?」
オーウェンは二人が何を言っているかよく判っていなかった。
シャラザールは伝説の戦神でしかない。
何処に存在するというのだ。
それよりもクリスが心配だった。

「ジャルカ殿。何とか私もついていく方法は無いだろうか」
オーウェンが言う。
「普通の方法を使っていてはバームストンまで2日はかかってしまう。
それではクリスを助けられない」
「しかし、人を連れて移動となるとなかなか大変ですぞ。
港までの移動はなかなか厳しいですな。そのあとの戦闘の事も考えますと」
「そこを何とか」
オーウェンが頼み込む。
「どうしても行かれたいなら、アダム・ブラウン教授の新兵器がありますが・・」
「えっあの実験中のですか?」
ルーファスが驚いて言う。
「お願いします。何でもいいですから。行けたら」
オーウェンは頼み込んでいた。
後で後悔することになるとは思ってもいなかった。


「ミューラー、お前父のいう事が聞けないというのか」
電話口でフィリップ・バーミンガム公爵が激高していた。
「何をおっしゃっているのですか。私はドラフォード王国東方方面軍第一師団長を国王陛下より拝命しております。国王陛下以外の命令は聞けません」
ミューラー・バーミンガムは言い切った。
彼は軍における若手筆頭と言われているが、フィリップの子供ながら皇太后では無くて、沈着冷静、どちらかと言うと悪巧みが巧みなドラフォード国王を買っていた。
「貴様、この度は我が国の皇太子妃になられるクリス様がボフミエの皇帝に公衆の面前で堂々と誘拐されたのだぞ。これはドラフォードに対する宣戦布告と言っても良かろう。
ここまでコケにされて貴様黙っているのか」
「父上が何んと言われようと国王陛下の命令ない限りは動けません」
「貴様。そんなにボフミエの魔法が怖いのか!いつからそんなに腑抜けになった」
「父上こそ、マーマレードのたかだか侯爵家の小娘の言葉に謀られて、忠誠を誓ったとか。建国以来の名門バーミンガム家のご先祖様が泣いていますぞ」
父息子の親子喧嘩はどんどん激高していく。
「まあまあ、フィリップ。そこまで怒らなくても。ミューラーもそこまで肩ひじ張らなくても良いのでは無いかな」
古株重鎮のウィンザー将軍が二人の仲を持とうとする。
「そうは言ってもな」
フィリップは友人に仲に入られて少しトーンダウンする。
「これはこれはウィンザー将軍閣下。閣下もその小娘にドーミパンの負け戦を褒められて丸め込まれたとか」
「何だと小僧。そう言った事は私よりも戦功をたててから言え!」
瞬間沸騰器宜しくウィンザーが切れる。
-ドーミパンの負け戦だと。あれは負け戦では無いわ-

「いずれはたてて見せますよ。父上、次電話いただく時は陛下よりのご命令をお伝えください。」
馬鹿にしたように笑うとミューラーは電話を切った。

「おのれあの小僧。ドーミパンの負け戦だと。クリス様も名誉ある撤退とおっしゃっていただけたものを」
フィリップ以上にウィンザーは切れていた。
「すまん。うちのバカ息子のせいで」
フィリップが謝る。

「あのくそ息子め」
そこへ怒り心頭の皇太后がぷりぷり怒りながら帰って来た。


「皇太后様。陛下のお許しが出なかったのですか」
フィリップが聞く。
「誘拐されたのが事実としても勝手に戦争は起こせないだと。
母上は孫の嫁1人の命と兵士1万人の命のどちらが大切と思われるのかと。
皮肉だけは一人前だこと」
切れながら皇太后は言った。

「こうなればボフミエ軍に我が軍を攻撃させるしか無いですな」
ウインザーが人の悪い笑顔をして言った。
「それは良い考えだな」
将軍3人と皇太后が寄り合って悪巧みを始めた。


「本当に年寄り共は何を考えているのか」
電話を切ったミューラーは忌々しそうに吐き捨てた。
大国ドラフォードの軍の重鎮達がたかだか小国マーマレードの侯爵家の娘にこびへつらう様が見ていて気持ちが悪いというのが本音だった。

そこへノックの音が響く。
「入れ」
「師団長。攻撃準備整いました」
「は?」
副官のレオン・ヴィッツの言葉にミューラーが反応した。
「誰が攻撃すると言った?」
「やらないのですか?」
逆に副官が聞き返す。
「やるわけないだろう。お前もマーマレードの侯爵の小娘に篭絡されたのか?」
きっとして聞き返す。
「というか、今回は兵士たちがクリス様が攫われる画面が終わったとたんに、自ら率先してクリス様を助けると動き出したのですが」
「兵士たちが?あいつらも小娘に誑かされているのか」
むっとした顔でミューラーが言う。
「閣下。今回のマーマレードの王弟反逆話、聞いておられるでしょう」
「とち狂った小娘が王弟を殴り倒したと言いうあれか」
馬鹿にしたようにミューラーは言う。

「兵士たちが感動したのはそこでは無いです。
今回クリス様を命令されて襲った兵士たちの誰もが傷つかないようにクリス様はシャーザール山を巨大魔法で破壊。1人の死者も出さずに降伏させてその兵士達を掌握。ジャンヌ王女の反逆者には死をという言葉にも罰するなら自らを殺してくれとかばって彼らを率いて勲功を建てて兵士たちを無罪にさせたというその点です。
なおかつ、今回の反乱で戦闘になったにもかかわらず、死者はほとんど出なかったのです」
「ふん、どうせ馴れ合いの戦闘をしたんだろうよ」

「ひねくれたお考えですな」
ずばりとレオンが言う。
「レオン何が言いたい」
むすっとしてミューラーが言った。
ここ10年程ミューラーの補佐をしているレオンは平民出身で兵士らの面倒見も良く慕われていた。
彼の意見は師団をまとめていく上でも大いに役に立った。
無視は出来ないのだ。

「クリス様は初戦は赤い死神の侵略戦。ジャンヌ王女と共にマーマレード防衛戦に参戦されたそうです」
「偶々巻き込まれただけだろう」
「今回の王弟反逆でも一軍を指揮して先陣を切って王城に乗り込み、魔人と化した王弟をぶん殴って人間に戻したそうです」
「誇張されているんだろう」
「誇張でないのは閣下の弟君の報告で明らかでは」
「あいつも誑かされているだけだ」
「なおかつ、ノルディン侵略戦で父親に死なれた子供を何かと気にかけて面倒を見ていたとか」
「単なる人気取りだ」
ミューラーは言い切った。

「はあああっ」
レオンはため息をついた。

「なんでため息をつく?」
「いえ、閣下のひねくれも相当だなと」
ボソリとレオンは言う。
ミューラーはまたむっとした。

「どちらにせよ国王陛下の進軍命令が無い限り進軍は無い」
ミューラーは言い切る。

「良いでしょう。ただし、兵士たちは今度の皇太子妃は自分ら兵士の事をないがしろにはしない。
きちんと自分らに視線を合わせてくれるし、自分らのためにやってくれると期待しているのです。
それだけはお忘れなきよう」
それだけ言うとレオンは部屋を出て言った。

「ふんっ小娘め。うちの副官まで誑かしたのか」
不機嫌そうにミューラーは言った。
そしてこの後その小娘の為に振り回されることになろうとは思ってもいなかった。
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