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第四章 王立高等学園

学祭・演劇編 大国王子はクリスにキスされて幸せです

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「キャァー」
シャル役のクリスはイザベラにわざとぶつかられてこける。
「何処見て歩ているのよ!」
イザベラが高らかに言う。
「あら、こんなところに何かあるわ」
そのクリスをしらじらしくオリビア役のエカテリーナが軽く踏む。
「何をされるのですか?」
下からクリスは見上げて言う。
「あら、ゴミが何か話したわ」
「あらこれはシャルと言う名の新種のゴミよ」
メーソンにかぶせてエカテリーナが言う。
そして、足の汚れを払う。
「私としたことが汚いものを踏んでしまったわ」
「オリビア様。足が腐りますわよ」
汚いものを見るようにメーソンが見下して言う。

「本当ね。危ないところだったわ」

「あら、あなたこれは」
ぶつかられたショックで落ちた黄色いハンカチをエカテリーナは拾い上げる。
「これはエリオット様のハンカチじゃないの!何故あなたが持っているの?」
「返してください。」
クリスは起き上がってエカテリーナからハンカチを取り返そうとツするが、
エカテリーナはそのクリスを突き飛ばす。
「近寄らないで。ゴミ風情が」
「何か臭いますわ」
「本当にドブネズミのにおいよ」
悪役3人娘が次々に言う。

「おのれ―――」
それを客席で見ていたウィルが歯を食い縛ってブルブル震えながら見ていた。
「ウイルお芝居」
ガーネットが横でウイルの手綱を引いて何とか抑えている。


ドラフォードの王宮の広間でも同時上映されていた。
それを青い顔でイザベラの母のアンリ・ナヴァール侯爵夫人は見ていた。

「あの子、クリス様になんてことを」
周りの反応を見ながら震えていた。
「お母様。演技ですから」
息子のマクシミリアンがとりなす。
「でもあんな憎たらしい顔をして。嫁の貰い手無くなったらどうするのよ」
思わず声が大きくなる。

「し――――」
皇太后が後ろを振り向いて注意する。
慌ててアンリは口を閉じる。

「いざとなったら誰か紹介してあげるから」
小さい声で皇太后は言う。
「本当ですわよ。皇太后さま」
思わずアンリはまた声を上げて、慌ててまた口をつぐむ。

その後皇太子エリオット役のオーウェンとクリスは仲睦まじそうに、花壇で話している。
-本当にオーウェンは楽しそうに演じているわ。
皇太后はオーウェンが地で演じていると思った。

その二人の様子を柱の陰からハンカチをかみしめてきーーーっとオリビアが睨みつけていた。

3人の音楽部隊が楽しそうな音楽を奏でる。
悪役3人はゴミ箱をひっくり返したり水を2人にかけたりするが、二人はびくともしない。

軍事大国の王子アーバンも心を寄せるが
「ごめんなさい」の一言であっさりと振られ、傷心の王子はあっさりと国に帰って行く。

「ふんっ。ノルディンの王子がそんなにあっさりと引いていく訳なかろう」
今度は皇太后の声がドラフォードの王宮に響く。
「皇太后さま」
アンリが静かに注意すると赤くなって皇太后は頷いた。


そして、舞台は婚約破棄のイベントに突入した。
「公爵家令嬢オリビア。シャルに対する今までの数々の公爵令嬢らしからぬ悲惨ないじめの行為。
ここにいる証人たちによってすべて明るみに出た。
そのような事をした貴様を王族の中に加える事は出来ぬ」
オーウェンは断罪した。
「そんな、エリオット様。あまりにひどいお言葉」
エカテリーナが泣き潰れる。
「何を言う。この度重なるシャルへの侮辱の数々、到底皇太子妃が取るような行為ではない。
ここに貴様との婚約破棄を言い渡すとともに、そのいじめの数々に耐え抜いた聖女シャルを私の婚約者とすることにする」
「エリオット様!」
泣き崩れるエカテリーナの前で戸惑うクリスの手を後ろからオーウェンが肩を抱く。

「大変でございます」
そこへボロボロの恰好の兵士達が駆けこんで来た。
「隣国の王子アーバンが3万もの大軍で攻め込んできました。国境軍は壊滅。一路王都に向かっております」

「何だと!あいつシャルに振られた腹いせに攻め込んで来たのか」
オーウェンは叫んでいた。

運命の音楽が奏でられ舞台が赤く染まる。

「おのれアーバンめ。直ちに全軍集めて出撃する」
「しかし、すぐに集めても1万も集まるかどうか」
「北の大国に対抗できるかどうか判りません」
兵士たちが口々に応える。

「それでもやるしかあるまい」
オーウェンはは言う。
「エリオット様」
シャル役のクリスが舞台の中央に出る。
「私が行きます」

「はっ?何を言っている。令嬢のあなたが行ったところでどうなる事でも無かろう」
驚いてオーウェンが言う。

「エリオット様。今まで隠しておりましたが、私は戦神シャラザールの化身。
昔あなたを助けたのは私では無くてシャラザールなのです」
「何だと」
「そうでなくては巨大な魔獣など投げ飛ばせるはずもございません」
そしてオーウェンに向き合って
「私は無敵の戦神シャラザールなのです。たとえアーバンが何万の大軍を率いていても必ず倒して見せましょう」
そう言って一礼する。

「行くなシャル!」
オーウェンはクリスにここぞとばかりに抱きついた。
絶対に役得だ。こんな機会は二度とないとばかりに。

「えっ」
舞台のそでではエステラが絶句する。
他の者も息をのんでいた。

クリスも驚いていた。
本来ならせりふがあと2つばかりあって振り向いていこうとするシャルにエリオットが抱きついて後ろに肘鉄するはずが、前から抱きしめられたのだ。
でも演劇を止めるわけにはいかない。

「俺を置いて行かないでくれ」
オーウェンの整った顔がドアップで迫る。
オーウェンは更にきつくクリスを抱きしめる。
「エリオット様」
クリスはオーウェンの腕を外そうとするがきつく抱きしめられて外せない。
見つめ合う二人だが、オーウェンは完全に二人の世界に入っているが、
クリスはどうやってオーウェンの抱擁から逃れるか必死に考えた。
もうこうするしかない。
クリスはオーウェンの頬にキスした。

「うそ」
エステラは呆然と見ていた。
確かにオーウェンに拗ねられてシナリオには書いたが、クリスに拒否されて没になったはずだった。

「まあ、このような破廉恥な」
真っ赤になってアンリが言う。
皇太后も学生演劇ではやりすぎではと思った。

オーウェンにとってはクリスがキスしてくれたことは天にも舞い上がらんほどの事だった。
たとえほっぺたにでも…
今まで散々つれなくされたのに。
それも全国放送の生中継中に。
やっと長年の夢が一部かなった。
オーウェンは歓喜のあまり思わず手の力を緩める。

クリスはそのすきにオーウェンから離れようとする。
オーウェンはクリスに離されないようについていこうとした。
その瞬間クリスはオーウェンに渾身の力を込めて怒りの肘鉄を喰らわせていた……
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