上 下
114 / 444
第四章 王立高等学園

ボフミエ皇帝に備える

しおりを挟む
王宮にある諜報局は学園祭に来る他国との諜報行為等でてんやわんやだった。
そこに白髪の老師が歩いてきた。

「ジャルカ様。お久しぶりです」
諜報局に久々に顔を出したジャルカを見て驚いてルーファスは声を上げた。
「久しぶりじゃのルーファス」
「どうされたのですか。ジャルカ様がこのようなところにいらっしゃるなど」
「少し気になる事があっての」
ジャルカは笑って言った。
ルーファスはイヤーな感じがした。
ジャルカが笑うとろくなことが無いのだ。
いつもは電話での指示だが、直接来たとなると本当にろくでも無い事なのかもしれない。

「いやあ、別にたいしたことは無いとは思うのだが、今回の学園祭にボフミエの皇帝が来ると聞いての」
その一言によって結局諜報局を総動員して徹夜の連続勤務になってしまったのだった。


ボフミエ皇帝来襲の知らせはボフミエからの留学生を恐慌に陥れた。
「どうしよう、父上に殺される」
ヘルマンは震えていた。
「私も一緒ですよ」
ペトロ・グリンゲンも震えていた。
「殿下方。そんなにおびえられることはありませんぞ。皇帝陛下はせっかくの機会にとマーマレードの国王陛下と魔導電話について話し合いに来られるのです」
護衛隊長のアーロン・マルクトシュテフトは言った。

「そんな訳は無いだろう。父上から言われていた命令がうまくいきそうにないのだ」
「お怒りのはずです」
二人は恐怖に震えて言った。

「何をおっしゃっているのです。先に帰られたフランツ・マルクス様からも今後の為に魔導電話の有効活用について研究するようにと皇帝陛下から指示が出ていると元気な便りが来ていたでは無いですか」

「まあそうだが」
「普通ならば投獄されても仕方が無かったかと思いますが」
二人の不安も少しは払しょくされた。

他の二人には家族から皇帝陛下から自分らがよくやっていると褒められたと、領地にて魔導電話の仕組みを使った上映会が開かれるので見るのを楽しみにしていると手紙も来ていた。
しかし、あの皇帝がこの様でにこにこしていると到底思えないとフェビアンは思っていた。


その日も夜遅く迄演劇の練習をした後、みんなで後片付けをしていた。
この片付けをきちんとしていなとジャルカの補習が増えるのだ。
ジャンヌもそのせいで熱心に片付けだけはやっていた。

「殿下」
その中のオーウェンにジェキンスが声をかける。
「どうした?」
オーウェンがジェキンスに近寄る。

「ボフミエの皇帝が今回の演劇を見に来るそうです」
オーウェンの耳元でジェキンスは囁いた。
「あの皇帝が?」
およそ子供の事など全く興味の無さそうな皇帝がわざわざマーマレードまで子供の観劇に来るなど信じられなかった。

「狙いは何だ?」
「判りませんが、マーマレードの魔導電話に興味を持ったとか」
「確かに潜入させる目的で餌に出したが、そんなのに釣られるのか」
オーウェンは気になった。
あの皇帝がわざわざ自ら来るという事は絶対に何かあるはずだ。

「陛下には私からも伝えるが、東方方面軍に警戒するように伝えてくれ」
「しかし、あの連中が殿下のいう事を聞きますか…」
言いにくそうにジェキンスは言う。
確かに東方方面軍は反皇帝派が大半をしめている。

「アルバート!」
オーウェンはクリスの横で手伝っているアルバートを呼んだ。

「何ですか。私の主はクリス様ですが…」
ブスっとしてアルバートが言う。

「そのクリスの事だ」
声を抑えてオーウェンは言う。
「クリス様の?」
訝し気にクリスの方を見てアルバートが言う。

「ボフミエの皇帝が来る」
「あの不遜な皇帝が。何をしにこんなところに」
アルバートは不審そうに聞く。
「本来息子の観劇など来るのは絶対におかしいのだ」
「それはそうですが、それとクリス様とどう関係が」
「マーマレードの王弟反逆の時クリスは率先して軍の先頭に立ったな」
「ええ」
アルバートは頷く。

「もし、何かあれば今回も先頭に立ちかねない。ボフミエのクラスメートに何かあってみろ。ボフミエ本国にでも怒鳴り込みに行き兼ねまい」
「それは確かに」
クリスの方を見ながらアルバートは頷いた。

「何も無いと思うが東方軍にも注意を払っておいて欲しい。最悪ボフミエ本国に進軍の可能性もある」
「なるほど、父に注意を払うように伝えろと」
「準備しておくに越した事はあるまい」
「まあ、クリス様にボフミエの皇帝が逆らったところでかなうわけはありませんが…」
シャラザールの化身がクリスに宿っている事を知ったアルバートはそう言った。

「いくらクリスの魔力が強大でもボフミエの魔術師は強力だぞ」
それを知らないオーウェンの考えと知っているアルバートと意見は食い違っていたが、

「準備をするに越した事はありませんね」
アルバートは念のために言った。

ボフミエの皇帝がとんでもない事を行ってクリスというかシャラザールの逆鱗に触れて瞬殺される可能性もある。そうなれば全面戦争もあり得るだろう。
玉を取られてボフミエ軍がどこまで戦えるかは判らなかったが、東方軍に準備させておくことも必要かと、アルバートは考えた。

「何を準備するんですか?」
そこに不審そうにしたクリスが来た。

「いやあ、ドラフォード国内の事だよ」
オーウェンは誤魔化す。

「そうです。ちょっと気になった事があったので」
アルバートも相槌をうつ。
「そうなのですね。アルバート様も国元で気になる事があればいつでもおっしゃって下さいね」
クリスが言う。

「何をおっしゃいます。私はクリス様の騎士です。
今はクリス様の事だけを考えるように父にはきつく言われております」
「えっでも、何かあればいつでも言ってよ。本当に」
クリスが気にして言う。

「今の地位に本当に満足しておりますのでお気遣い下さいますな。クリス様と一緒にいさせていただくと本当に為になりますし、自らの足りないところが判って勉強になります」
「おべっかは良いです」
「クリス様。私はたとえ相手が皇太子殿下にもおべっかは申しません」
アルバートは言い切る。
本当だと、いらないところで矜持の高いアルバートを睨みつけてオーウェンは頷いた。

「はいはい、判りました」
クリスは納得していないが一応頷く。


「クリス、片付けは終わったか」
ジャンヌが聞いてくる。
「はい、終わりました」
「あんまり遅いとまたジャルカがうるさい。そろそろ撤退しよう」
「判りました」
クリスは返事をする。

「さあ、そろそろ帰りましょう」
オーウェンらに言うと先に立って歩き出した。

「あっクリス寮まで送っていく」
オーウェンが言ってクリスを追いかける。

「オーウェン様。こんなにたくさんいるんですからいらないですよ」
「まあそう言わずに」
オーウェンは何とかクリスと話す機会を得ようとするが、
ドラフォードの貴族たちとエカテリーナに邪魔されたのは言うまでも無かった…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

【書籍化】ダンジョン付き古民家シェアハウス

猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました。 電撃の新文芸(KADOKAWA)にて1巻刊行中・2巻は2024年6月17日刊行予定 ※書籍化にともない、アルファポリスさまのサイトでは非公開とさせていただきます。 お手数ですが、今後はカクヨムでお読みいただけると嬉しいです。 大学を卒業したばかりの塚森美沙は内定していた企業が潰れ、ニート生活が決定する。 どうにか生活費を削って生き延びねば、と頭を抱えていたが、同じように仕事をなくした飲み仲間三人と祖父母から継いだ田舎の古民家で半自給自足のシェア生活を送ることに。 とりあえずの下見に出掛けた祖父母宅の古びた土蔵の中に、見覚えのないドアが直立していた。 開いた先に広がるのは、うっすらと光る不思議な洞窟。転がり込んだそこは、どうやらダンジョンらしくーーー? 貧乏生活もダンジョンのおかげで乗り越えられる?  魔法を駆使して快適生活。レベルアップした身体で肉体労働どんとこい! ドロップアイテムで稼ぐには? 男女四人の食い気はあるが色気は皆無な古民家シェアハウスの物語。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

モブですら無いと落胆したら悪役令嬢だった~前世コミュ障引きこもりだった私は今世は素敵な恋がしたい~

古里@電子書籍化『王子に婚約破棄された』
恋愛
前世コミュ障で話し下手な私はゲームの世界に転生できた。しかし、ヒロインにしてほしいと神様に祈ったのに、なんとモブにすらなれなかった。こうなったら仕方がない。せめてゲームの世界が見れるように一生懸命勉強して私は最難関の王立学園に入学した。ヒロインの聖女と王太子、多くのイケメンが出てくるけれど、所詮モブにもなれない私はお呼びではない。コミュ障は相変わらずだし、でも、折角神様がくれたチャンスだ。今世は絶対に恋に生きるのだ。でも色々やろうとするんだけれど、全てから回り、全然うまくいかない。挙句の果てに私が悪役令嬢だと判ってしまった。 でも、聖女は虐めていないわよ。えええ?、反逆者に私の命が狙われるている?ちょっと、それは断罪されてた後じゃないの? そこに剣構えた人が待ち構えているんだけど・・・・まだ死にたくないわよ・・・・。 果たして主人公は生き残れるのか? 恋はかなえられるのか? ハッピーエンド目指して頑張ります。 小説家になろう、カクヨムでも掲載中です。

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...