上 下
65 / 444
第三章 王弟反逆

王宮解放戦3 クリス 魔物と化した王弟を張り倒す

しおりを挟む
「そうでしょ!私とあなたも嫌だけど遠い親戚なのよ。血が繋がっていてお前が悪いって私に言うならあなたも悪いになってしまうわよ」
そこで口調を変えると、

「それはあなたも6歳の時に母親殺されてかわいそうだとは思うわ。
でもね、あなたそこにいるアレクと組んで3年前にノルディン軍引き込んだわよね」

「えっいや」
どこか知らぬ世界の話って顔で聞いていたアレクがいきなり振られて仰天した。

それもここは圧倒的に敵地に一人だ。周りにはマーマレードの人間しかいない。
そんな所で昔の話をされたらどうなる?

「引き込んではいない」
王弟が否定する。

「はんっ?でもうまくいけば組むつもりだったでしょ。
そのおかげて何千人もの兵が死んだのよ。
そこのメリーの夫も死んだわ」

メリーがきっとしてアレクと王弟を見る。

「ごめんなさいね。メリー、いやなこと思い出させて。
でもね、その兵士にも子供がいたのよ。
どっかの貴族は金さえ渡したからいいとかふざけたこと言っているみたいだけど」
ギルティ師団長を見てクリスが言う。

「その子いじめられていたのよ。
お前のおやじが軟弱だからマーマレード軍はピンチに陥ったんだって。
周りはどんな教育しているんだと思っちゃうわ。
そんなの無理でしょ。そこの赤い死神は本当に強くて恐ろしかったんだから、勝てるわけないじゃない。
エドウインあなたも私と一緒に逃げたからよく判っているでしょ。
でも、兵士らはかなわないなりに、死にもの狂いで戦ってくれたのよ。
私をかばって死んでくれたのよ。
あんたらもかばって死んでくれたのよ」
全員を指して言う。
その指先からは怒りが溢れていて置いてあった椅子や机の上に置いてあったものが周りに飛び散った。

「ヘンリーあなた、妾の子供とか、平民の子供っていじめられて嫌だったって。
生まれはどうしようもないわ。
でも、その子の親が死んだのもどうしようもないのよ。
それも私たちを守って死んでくれたのよ。
あなた王族でしょ。その子供たちに何かしてやったの。
やってやったのかって聞いているのよ」
クリスは目の前の木製の机を思いっきり叩いた。

バキっと大きな音がして、木製の机は真っ二つに折れた。
相当分厚い木製の机だ。普通は壊れるわけはないのに。

「そういうお前は何かしたのか」
思わずヘンリーが言う。
やばい。多くの官僚が思った。
何故ヘンリーは知らない?

「私は何もできなかったわよ」
クリスがそう言う。
「????」
周りはその言葉に不審に思う。

「毎日毎日こんな簡単な事はエルフリーダ様なら楽々出来たのに、
エルフリーダ様の親戚なのになぜ全然出来ないんだって、
王妃様に叱られながらね。頭悪いから物理の勉強しなければいけなかったし、
あんたにそそのかされたそこにいるアーカンソー侯爵の娘には、教科書に死ねとか冷血鬼とか書かれていじめられたし、馬鹿だからいろいろやっていたらご飯食べる時間もほとんどなかったのよ」

「いろいろ言い訳しているが出来ていないのは同じだろうが。」
王弟が言い募る。

「何を言っているんです」
王弟の言葉についに我慢できなくなってメリーが叫んだ。

「王族は何一つしてくれなかったけれど、お前らは何もしてくれなかったけど、
クリス様は、クリス様はね」
王弟を睨みつけてエリーが言う。

「その寝る時間を削って息子に電話してくれていたんだよ。
あなたのお父さんがいなかったらお姉ちゃんも死んでいたって。
ありがとうって」
メリーがそう言うと身を投げ出して号泣した。

屋内も屋外もシーンとしていた。

いつの間にか戦闘は終わっていた。

閣議メンバ-は既に聞いていたがいたたまれず、
将軍たちは穴があったら入りたいと思っていたし、
ジャンヌら聞いていなかった連中は固まっていた。

ジャルカに連れてこられた国王と王妃は黙り込み、
兵士たちの多くは唖然としていた。

「それしかできていないわよ。全然できていないわ。」
クリスが言った。
そう少しの人間に励ましの電話をしただけだ。
大多数の人々には何もできていない。

しかし、国王らはもっと何もやっていなかった。

クリスの話を聞いてやり始めようとはしていたが、まだ何もしてはいなかった。

「ヘンリー殿下。
あなたこんな反乱起こす暇があったら、少しは働けば。
こんなどうしようもない事をするよりは動きなさいよ。
あなた王族でしょ。自分の下らない恨みはらすよりも前にやることあるでしょ。
なんでやっていないの」
みんなクリスの言葉にズバッズバッと胸を刺されたような顔をした。
国王夫妻とジャンヌは特にそうだ。
将軍たちも青い顔をしていた。

「というか、あんたのせいで、この反乱でまた戦災孤児が出るんだけどどう責任とるのよ」

「黙れ!小娘。」
最後の気力を振り絞って王弟は反論する。

「ふん、王族はみんなそう。
威張ったらいいと思っているのね。
黙れって、黙らないわよ」
一歩クリスは前に出た。
床に電気が走り、家具が揺れ出す。

「王妃殿下は寝る間もなく働けって言うし、
国王陛下は研究だけ。
ジャンヌお姉さまはノルディンの皇太子とイチャイチャしかしていないし、
エドに至ってはチャラチャラするだけ。
挙句に王弟は反乱起こしていじめられる子供増やすだけってどういう事。
兵士の子供たちは今度は反逆者の息子って言っていじめられるのよ。
本人何も悪くないのに、あなたらが反逆起こしたから、残していった子供らがいじめられるのよ。
自分がいじめられて嫌だったんでしょ。
その原因作ってどうするのよ!」
クリスの怒りがさく裂し空気が揺れる。
そして部屋の窓ガラスがすべて割れて飛び散った。

一同それを呆然と見ていた。

反乱に加わった兵士たちは自分の子供の事を思って泣き出した。

ヘンリーはこんなはずはないと思った。
今までの、この50年間の恨みを全てはらすつもりだった。
自分をどこかで悲劇の王子だと思っていた。

でも、この小娘の言う通りなら、自分は兵士たちに反逆者の汚名を押し付けた悪逆非道の王子になるではないか。
そんな馬鹿な。悪いのはミハイル一族のはずだ。
王弟は追い詰められていた。

「今回、本来は私なんかここに来る必要は無かった。
オウには役に立たないから引っ込んでいろって言われるし、
父にも女がやるなんてはしたないって反対されるし」
近くにいたオーウェンは下を向き、エルンストは言葉も無かった。

「でも、私が来なかったら、ジャンヌお姉さまに任せたら全員殺して終わりじゃない。
暴風王女が暴れたら、そこには死人しか残らないのよ!」
ジャンヌは青い顔をしていた。そうかクリスはそう思っていたのか。
事実だから何も言えなかったが。

「でも、父親が反乱起こして死んだら残された子供たちはどうなるの?
反逆者の息子と言われて延々といじめられるのよ。
平民の息子って言われけるよりももっともっとひどいわよ」
反乱した兵士たちは頭を抱えて泣いていた。
それを制圧しようとしていた兵士たちもただただクリスの剣幕に呆然として棒立ちになっていた。


「それと王弟殿下。
ホーエンガウ城でみんな泣いて言ったのよ。
自分の命はいらないから王弟殿下の命を助けてって。
大きな餓鬼の問題児でも、助けてほしいって。
頼まれたから仕方なしに来たのよ」
クリスはびしっと王弟を指さして言う。


「うるさい。うるさい小娘。こうなったらすべて終わりだ。」
王弟は叫ぶと黒い液体を飲み込んだ。

「殿下」
エドウィンは止めようとしたが間に合わなかった。

その瞬間王弟の周りが黒い霧で囲まれる。

「魔物の薬」
誰かがつぶやいていた。
その薬を飲むと体力強化されて魔物になるという究極の薬。禁止薬物。
もう人間に戻ることは無いという禁断の薬だ。
王弟の筋肉がもりもりと大きくなり、着ていた甲冑がはじき飛ぶ。

そこには王弟の顔をした真っ黒な魔物が立っていた。

「今回反乱を起こしたのは母の恨みを晴らすためだ。俺の恨みを受けてみろ!」
王弟はそういうとクリスに殴りかかってきた。

止めようとしたウィルをまず左手で弾き飛ばし、

切りかかるアルバートも衝撃波で弾き飛ばす。

間に入ろうとしたオーウェンを右腕で殴り飛ばしていた。

そしてクリスの首に手を伸ばすが、クリスの手で弾き飛ばされる。

皆唖然と見ていた。かよわいクリスの方が強い。
魔物の化け物よりも。

クリスの体が金色に輝いていた。
クリスの怒りで大気が震える。

アレクは頭を抱えてしゃがみこんでいた。
「シャラザールだ! シャラザール!」
恐怖で真っ青になってぶつぶつ呟いている。

「ヘンリー!死んで、罪をあがなえるなど甘い考えを持つな」
グイっとクリスがヘンリーの胸倉をつかんで持ち上げる。

周りのものは呆然と見ていた。

魔物と化したヘンリーが、力がほとんどないはずのクリスによって軽々と持ち上げられたのだ。

卒業記念パーティーのエドワードと同じだ。
しかし、エドは人間だったが、ヘンリーは人間では無くて魔物だ。それが力負けしている。

ヘンリーは恐怖で顔が引きつる。
馬鹿な、なんで小娘に魔物になった俺が負けるんだ。
そんな訳はない。しかし、抵抗しようにも力がまるで違っていた。

「生きて、その役割を果たすんだよ!」
クリスはそう言うや、思いっきり魔物と化した王弟を殴り飛ばしていた。

その殴る瞬間にクリスから金色の光が発せられ全員に襲い掛かり、何も見えなくなっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。 物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。 週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。 当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。 家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。 でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。 家族の中心は姉だから。 決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。 ………… 処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。 本編完結。 番外編数話続きます。 続編(2章) 『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。 そちらもよろしくお願いします。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

今更何の御用でしょう? ウザいので止めて下さいませんか?

ノアにゃん
恋愛
私は3年前に幼馴染の王子に告白して「馬鹿じゃないの?」と最低な一瞬で振られた侯爵令嬢 その3年前に私を振った王子がいきなりベタベタし始めた はっきり言ってウザい、しつこい、キモい、、、 王子には言いませんよ?不敬罪になりますもの。 そして私は知りませんでした。これが1,000年前の再来だという事を…………。 ※ 8/ 9 HOTランキング 2位 ありがとう御座います‼ ※ 8/ 9 HOTランキング  1位 ありがとう御座います‼ ※過去最高 154,000ポイント  ありがとう御座います‼

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

終わらない幸せをあなたに

クマ三郎@書籍発売中
恋愛
本妻から産まれた平凡な兄と、愛人から産まれた優秀な弟。 ラザフォード侯爵家の兄弟間の確執は、社交界でもとりわけ有名だった。 兄ヴィンセントから、弟アーヴィングが一方的に詰られ、暴力を振るわれる場面を偶然目撃してしまった王女アナスタシア。 「アーヴィング・ラザフォード。私と結婚しましょう。大丈夫よ。私は、必ずあなたを幸せにしてみせる」 これは長年家族から虐げられ続けた青年が、王女様の愛で幸せを知るお話です。 *言葉遣いなど、現代風な場面が多々あるかと思いますがご容赦ください。  設定はゆるめです

二度とお姉様と呼ばないで〜婚約破棄される前にそちらの浮気現場を公開させていただきます〜

雑煮
恋愛
白魔法の侯爵家に生まれながら、火属性として生まれてしまったリビア。不義の子と疑われ不遇な人生を歩んだ末に、婚約者から婚約破棄をされ更には反乱を疑われて処刑されてしまう。だが、その死の直後、五年前の世界に戻っていた。 リビアは死を一度経験し、家族を信じることを止め妹と対立する道を選ぶ。 だが、何故か前の人生と違う出来事が起こり、不可解なことが続いていく。そして、王族をも巻き込みリビアは自身の回帰の謎を解いていく。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

処理中です...