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第三章 王弟反逆
大国皇太子 クリスを怒らす
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オーウェンは必死に馬を飛ばしていた。
途中でクリスの一行が襲われたと聞いたので、必死に駆け付けてみれば
隕石でも落ちたのかと言うほどのすさまじい状況で。
林がなぎ倒されてその先に土色の大地が広がっていた。
強大な天災にでも襲われたような跡、誰かが魔力暴発でもしたのだろうか?
そこにいてもらちが明かないので、ミハイル領に行くと
クリスの母のシャーロットがいて、娘は軍を率いてホーエンガウ城を落としに行ったと平然と言ってのけた。
何故、クリスの母がここまで平然としているのか。
公爵の息子のアルバートがついていることも初めて知ったが、
彼とウィルの二人は戦になれているとは思うが、クリスは素人、なぜ戦に連れて行く?
「あの子は大丈夫よ」その母であるシャーロット夫人が言っていたが、まったく意味が分からなかった。
魔力があるとも聞いていないし、あの華奢なクリスが剣が使えるとは思わなかった。
慌ててホーエンガウ城に行くとクリスは王都に向かったという。
何としても追いつかねば。戦の始まる前に。
必死に馬を乗りつぶして交換して、あまり寝ていないのでふらふらするが
何とか気力だけで乗っていると、遠くに砂埃が見える。
軍の集団だ。
最後の気力をふり絞って駆けさせた。
その頃、クリスは王宮の者に連絡を取り合っていた。
「クリス様、中央師団の就寝場所とか、配置関係はある程度掴めました。」
ルーファスが情報を伝える。
「ご苦労様です。遅延性の眠り薬の手配はどうですか。」
「そちらも問題はございません。明日にはクリームシチュウの素として搬入予定です。」
何でもない事のように平然と言う。
「そちらはお任せします」
クリスは頷いた。
「クリス様にご紹介いただいた者たちも結構いろいろ働いてくれました」
「危険はないんですよね。出来るだけ危険のない範囲で動かしてくださいね。」
ルーファスの説明にクリスはお願いする。
侍女や料理人、庭師などクリスのシンパは多かった。
「そちらは大丈夫です。無理はするなと言っているので」
と言いながらもルーファスはクリスの為なら命をかける者も多いのではないかという不安はあった。
それだけクリスはみんなに好かれているのだ。
これだけ皆が好意的なのは珍しい。
逆にクリスを貶めたと思われる王弟軍は皆の反応も当然最悪で、いろんなサボタージュとかも受けていて
城内は散々みたいだが。
「姉様」
寝ていたウィルが起き出した。
「どうしたのウィル」
クリスが聞く。
「何か来たよ」
後ろを指さして言う。
「ごめんなさい。ルーファス様。また連絡します。」
クリスは魔導電話を切ると「何かって?」
ウィルに聞く。
後ろを見るが遠くに点が見えた。
「言いたくないけどあれオーウェン様だと思う」
魔力を感じながらウィルは言った。
「えっ嘘?」
オーウェンとは好きだと言われたのを、私では役不足だと言ってドラフォードの王都で別れたはずだ。
その彼が後ろから走ってくる。
会えるという事に嬉しさ半分。
別れ際の事を思い出して恥ずかしさ半分。
クリスは真っ赤になった。
気配を感じてアルバートも馬車に寄ってきた。
アルバートに命じて隊列を止まらせる。
クリスは馬車から降り立った。
遠くから馬車を降りるクリスが見えた。
スカートではなくズボンをはいていた。
動きやすい格好になっていると思ったが、
遠くからでもオーウェンにはクリスが輝いて見えた。
慌てて馬を降りてクリスに駆け寄ろうとしたが、
アルバートが前に出て邪魔してくる。
「アルバート」
何故邪魔すると不機嫌な顔で名を呼ぶと。
「これはこれはドラフォード皇太子殿下。
供も連れずにどうされました」
馬に乗ったまま聞く。
「無礼だぞアルバート」
オーウェンは咎めるが
「これはしたり、ここは戦場、それも目の前には他国の戦士。
主君に近づこうとする不届き物の前に立ちふさがるのは当然です」
アルバートは異にも感じていないみたいだ。
「お前の主君は俺だろう」
「はっ何をおっしゃるのです。
私の主君はクリスティーナ・ミハイル様ただお一人です。」
オーウェンの問いにアルバートは言い切る。
「はっ?お前はドラフォードの騎士だろう」
驚いてオーウェンは言った。
「それは少し前の話。
今ではクリスティーナ様の騎士としてお認め頂きました」
自慢気にアルバートは宣言する。
「そんなことが出来るはずがないだろう」
「何をおっしゃいます。
元々私が誓ったのは、戦神シャラザールのみ。
戦神シャラザールの化身と思しきクリスティーナ様に仕えるのは当然のこと。
このことは皇太后さまのお許しも得ております。
クリスティーナ様のご命令のみを聞けと」
アルバートが説明する。
「そんな…」
おばあさまは何をやるんだよとそこまで聞いていなかったオーウェンは呆れた。
そもそもアルバートをクリスの護衛の為にドラフォードから派遣したものとばかり思っていた。
アルバートはドラフォードの近衛の中でも5本の指に入るのに、それをクリスの部下にするなど考えられなかった。
しかも、アルバートが命じられただけで令嬢の騎士になるなど信じられなかったが、それだけクリスに心酔したという事だろうか。親はあの公爵だ。
「アルバート。同盟国の皇太子殿下です。
お通しして下さい。」
オーウェンがそこまで考えたところでクリスが声をかけた。
「判りました」
素直に馬を降りてアルバートが横を開ける。
あの気位の高いアルバートがクリスのいう事をあっさり聞くなど信じられなかった。
「これはこれはドラフォード皇太子殿下。わざわざこのようなところにお越しいただくなど、
道中なのでなにもございませんが、馬車の中でお話をお伺いさせて戴ていてもよろしいですか。」
クリスが優雅に言う。
「宜しいですか。」
クリスがまず皇太子に乗ってもらおうとしたが、首を振ってオーウェンが手を添えてクリスを先に馬車に乗せた。
アルバートは周りの兵士たちに指示して道端で休憩に入らせる。
「水筒のお茶しかありませんが、」
クリスがお茶を継いでオーウェンに差し出した。
「ありがとう」
オーウェンは飲み干す。
夏の終わりとはいえ、道中は暑かった。
「で、どのようなご用件ですか」
クリスが尋ねる。
クリスとしては顔が赤いのは大分引いていたが、若干興奮が残っていた。
「いや、あなたが王弟殿下の兵に襲われたと聞き慌てて走ってきたのだ。
ご無事で良かった。」
オーウェンは満面の笑顔で喜んだ。
「ありがとうございます」
クリスはオーウェンが心配して飛んできてもらってうれしかった。
「でも、ドラフォードの王都からここまでは大分距離がありますよ」
不審に思い聞く。
「いや、忘れ物があったので、これからそちらの王都に向かう途中だったのだ。」
オーウェンはドラフォードの王都から全力でクリスを追ってきたという事は誤魔化した。
「さようですか。心配していただいてありがとうございます。」
クリスは素直に喜んだ。
「今、将軍の方々は皆捕まってしまっていて、
差し出がましいですが、乗り掛かった舟で私が皆さんと一緒に王都に向かっているのです。」
「しかし、クリス嬢が前線に立つのは問題ではないか」
心配してオーウェンは言った。
しかし、クリスはオーウェンの言葉をろくに指揮も出来ない奴が軍を指揮するのはおかしいと聞こえた。
「皇太子殿下。私は王妃教育の折にジャルカ様より軍の指揮をどうすればよいかという事も学んでおります。」
少し硬い声でクリスは言った。
「しかし、何も女性が何も前線に立たずとも。」
オーウェンとしてはクリスが心配だった。
愛する女性が戦いの前線にいるなど。
愛する者は安全なところにいてほしいと。
しかし、クリスは自分一人が後方の安全なところにいるのを良しとはしなかった。
「女とか男とか関係ありません。」
クリスはきっとして言った。
「将たるもの、後方にいるのではなく、前線にて兵士とともにあるべきだと
私は考えております。」
根気よくクリスは自分の考えを説明する。
「しかし、クリスが何も前線に立たなくとも…」
オーウェンはあくまでもクリスの安全を願った。
そうしつこく。
「ドラフォード皇太子殿下はあくまでも、私では役立たずだとおっしゃるのですね」
クリスは表情を冷たくしていった。
「いやそのような事は」
慌ててオーウェンは否定しようとした。
クリスの怒りに火をつけてしまったらしい。
オーウェンは慌てたが既に後の祭りだった。
「そうおっしゃっているのも同然です。
確かに資質的に私は名将とは言えないのかもしれません。
しかし、この軍を指揮しているのは今は私です。
途中でそれを放り出す事は致しません。」
そう宣言するとクリスはアルバートを呼んだ。
「アルバート、遅くなりました。そろそろ出発しましょう。
では、皇太子殿下は後方でゆっくりとおくつろぎください。」
そう言って皇太子を馬車から降ろすとクリスは全軍に出立を命令した。
「えっクリスちょっと」
「はいはい、邪魔です。」
何とかしようと声をあげたオーウェンをアルバートは道の端まで追い出した。
軍が整列して、アルバートが合図を出す。
全軍行軍を開始した。
オーウェンはただただそれを呆然と見送るしかなかった。
「お嬢様。宜しかったのですか。」
ウイルと変わって馬車に乗ったメイが聞いた。
「良いのです。女女って、私もやる時にはやります。」
爪を噛んでクリスが言った。
「お嬢様。爪」
メイが注意する。
クリスは慌てて爪をかむのを止めるが、クリスの怒りは収まらない。
久しぶりにオーウェンに会えたのに、戦は男のやるものと否定されても、
ここまでやってきたのは自分だ。
その責任もあるのだ。
オーウェンにはそういう事も理解してほしかった。
(オーウェン様もあなただけでは心配だから一緒に行くとか何とかいえば良かったのに)
イライラしているクリスを見て、メイはオーウェンの言葉の選択ミスを残念がった。
その言葉にもクリスは多少は反発するだろうが、絶対に守りたいとかいえば喜んで連れて来たはずなのに。
途中でクリスの一行が襲われたと聞いたので、必死に駆け付けてみれば
隕石でも落ちたのかと言うほどのすさまじい状況で。
林がなぎ倒されてその先に土色の大地が広がっていた。
強大な天災にでも襲われたような跡、誰かが魔力暴発でもしたのだろうか?
そこにいてもらちが明かないので、ミハイル領に行くと
クリスの母のシャーロットがいて、娘は軍を率いてホーエンガウ城を落としに行ったと平然と言ってのけた。
何故、クリスの母がここまで平然としているのか。
公爵の息子のアルバートがついていることも初めて知ったが、
彼とウィルの二人は戦になれているとは思うが、クリスは素人、なぜ戦に連れて行く?
「あの子は大丈夫よ」その母であるシャーロット夫人が言っていたが、まったく意味が分からなかった。
魔力があるとも聞いていないし、あの華奢なクリスが剣が使えるとは思わなかった。
慌ててホーエンガウ城に行くとクリスは王都に向かったという。
何としても追いつかねば。戦の始まる前に。
必死に馬を乗りつぶして交換して、あまり寝ていないのでふらふらするが
何とか気力だけで乗っていると、遠くに砂埃が見える。
軍の集団だ。
最後の気力をふり絞って駆けさせた。
その頃、クリスは王宮の者に連絡を取り合っていた。
「クリス様、中央師団の就寝場所とか、配置関係はある程度掴めました。」
ルーファスが情報を伝える。
「ご苦労様です。遅延性の眠り薬の手配はどうですか。」
「そちらも問題はございません。明日にはクリームシチュウの素として搬入予定です。」
何でもない事のように平然と言う。
「そちらはお任せします」
クリスは頷いた。
「クリス様にご紹介いただいた者たちも結構いろいろ働いてくれました」
「危険はないんですよね。出来るだけ危険のない範囲で動かしてくださいね。」
ルーファスの説明にクリスはお願いする。
侍女や料理人、庭師などクリスのシンパは多かった。
「そちらは大丈夫です。無理はするなと言っているので」
と言いながらもルーファスはクリスの為なら命をかける者も多いのではないかという不安はあった。
それだけクリスはみんなに好かれているのだ。
これだけ皆が好意的なのは珍しい。
逆にクリスを貶めたと思われる王弟軍は皆の反応も当然最悪で、いろんなサボタージュとかも受けていて
城内は散々みたいだが。
「姉様」
寝ていたウィルが起き出した。
「どうしたのウィル」
クリスが聞く。
「何か来たよ」
後ろを指さして言う。
「ごめんなさい。ルーファス様。また連絡します。」
クリスは魔導電話を切ると「何かって?」
ウィルに聞く。
後ろを見るが遠くに点が見えた。
「言いたくないけどあれオーウェン様だと思う」
魔力を感じながらウィルは言った。
「えっ嘘?」
オーウェンとは好きだと言われたのを、私では役不足だと言ってドラフォードの王都で別れたはずだ。
その彼が後ろから走ってくる。
会えるという事に嬉しさ半分。
別れ際の事を思い出して恥ずかしさ半分。
クリスは真っ赤になった。
気配を感じてアルバートも馬車に寄ってきた。
アルバートに命じて隊列を止まらせる。
クリスは馬車から降り立った。
遠くから馬車を降りるクリスが見えた。
スカートではなくズボンをはいていた。
動きやすい格好になっていると思ったが、
遠くからでもオーウェンにはクリスが輝いて見えた。
慌てて馬を降りてクリスに駆け寄ろうとしたが、
アルバートが前に出て邪魔してくる。
「アルバート」
何故邪魔すると不機嫌な顔で名を呼ぶと。
「これはこれはドラフォード皇太子殿下。
供も連れずにどうされました」
馬に乗ったまま聞く。
「無礼だぞアルバート」
オーウェンは咎めるが
「これはしたり、ここは戦場、それも目の前には他国の戦士。
主君に近づこうとする不届き物の前に立ちふさがるのは当然です」
アルバートは異にも感じていないみたいだ。
「お前の主君は俺だろう」
「はっ何をおっしゃるのです。
私の主君はクリスティーナ・ミハイル様ただお一人です。」
オーウェンの問いにアルバートは言い切る。
「はっ?お前はドラフォードの騎士だろう」
驚いてオーウェンは言った。
「それは少し前の話。
今ではクリスティーナ様の騎士としてお認め頂きました」
自慢気にアルバートは宣言する。
「そんなことが出来るはずがないだろう」
「何をおっしゃいます。
元々私が誓ったのは、戦神シャラザールのみ。
戦神シャラザールの化身と思しきクリスティーナ様に仕えるのは当然のこと。
このことは皇太后さまのお許しも得ております。
クリスティーナ様のご命令のみを聞けと」
アルバートが説明する。
「そんな…」
おばあさまは何をやるんだよとそこまで聞いていなかったオーウェンは呆れた。
そもそもアルバートをクリスの護衛の為にドラフォードから派遣したものとばかり思っていた。
アルバートはドラフォードの近衛の中でも5本の指に入るのに、それをクリスの部下にするなど考えられなかった。
しかも、アルバートが命じられただけで令嬢の騎士になるなど信じられなかったが、それだけクリスに心酔したという事だろうか。親はあの公爵だ。
「アルバート。同盟国の皇太子殿下です。
お通しして下さい。」
オーウェンがそこまで考えたところでクリスが声をかけた。
「判りました」
素直に馬を降りてアルバートが横を開ける。
あの気位の高いアルバートがクリスのいう事をあっさり聞くなど信じられなかった。
「これはこれはドラフォード皇太子殿下。わざわざこのようなところにお越しいただくなど、
道中なのでなにもございませんが、馬車の中でお話をお伺いさせて戴ていてもよろしいですか。」
クリスが優雅に言う。
「宜しいですか。」
クリスがまず皇太子に乗ってもらおうとしたが、首を振ってオーウェンが手を添えてクリスを先に馬車に乗せた。
アルバートは周りの兵士たちに指示して道端で休憩に入らせる。
「水筒のお茶しかありませんが、」
クリスがお茶を継いでオーウェンに差し出した。
「ありがとう」
オーウェンは飲み干す。
夏の終わりとはいえ、道中は暑かった。
「で、どのようなご用件ですか」
クリスが尋ねる。
クリスとしては顔が赤いのは大分引いていたが、若干興奮が残っていた。
「いや、あなたが王弟殿下の兵に襲われたと聞き慌てて走ってきたのだ。
ご無事で良かった。」
オーウェンは満面の笑顔で喜んだ。
「ありがとうございます」
クリスはオーウェンが心配して飛んできてもらってうれしかった。
「でも、ドラフォードの王都からここまでは大分距離がありますよ」
不審に思い聞く。
「いや、忘れ物があったので、これからそちらの王都に向かう途中だったのだ。」
オーウェンはドラフォードの王都から全力でクリスを追ってきたという事は誤魔化した。
「さようですか。心配していただいてありがとうございます。」
クリスは素直に喜んだ。
「今、将軍の方々は皆捕まってしまっていて、
差し出がましいですが、乗り掛かった舟で私が皆さんと一緒に王都に向かっているのです。」
「しかし、クリス嬢が前線に立つのは問題ではないか」
心配してオーウェンは言った。
しかし、クリスはオーウェンの言葉をろくに指揮も出来ない奴が軍を指揮するのはおかしいと聞こえた。
「皇太子殿下。私は王妃教育の折にジャルカ様より軍の指揮をどうすればよいかという事も学んでおります。」
少し硬い声でクリスは言った。
「しかし、何も女性が何も前線に立たずとも。」
オーウェンとしてはクリスが心配だった。
愛する女性が戦いの前線にいるなど。
愛する者は安全なところにいてほしいと。
しかし、クリスは自分一人が後方の安全なところにいるのを良しとはしなかった。
「女とか男とか関係ありません。」
クリスはきっとして言った。
「将たるもの、後方にいるのではなく、前線にて兵士とともにあるべきだと
私は考えております。」
根気よくクリスは自分の考えを説明する。
「しかし、クリスが何も前線に立たなくとも…」
オーウェンはあくまでもクリスの安全を願った。
そうしつこく。
「ドラフォード皇太子殿下はあくまでも、私では役立たずだとおっしゃるのですね」
クリスは表情を冷たくしていった。
「いやそのような事は」
慌ててオーウェンは否定しようとした。
クリスの怒りに火をつけてしまったらしい。
オーウェンは慌てたが既に後の祭りだった。
「そうおっしゃっているのも同然です。
確かに資質的に私は名将とは言えないのかもしれません。
しかし、この軍を指揮しているのは今は私です。
途中でそれを放り出す事は致しません。」
そう宣言するとクリスはアルバートを呼んだ。
「アルバート、遅くなりました。そろそろ出発しましょう。
では、皇太子殿下は後方でゆっくりとおくつろぎください。」
そう言って皇太子を馬車から降ろすとクリスは全軍に出立を命令した。
「えっクリスちょっと」
「はいはい、邪魔です。」
何とかしようと声をあげたオーウェンをアルバートは道の端まで追い出した。
軍が整列して、アルバートが合図を出す。
全軍行軍を開始した。
オーウェンはただただそれを呆然と見送るしかなかった。
「お嬢様。宜しかったのですか。」
ウイルと変わって馬車に乗ったメイが聞いた。
「良いのです。女女って、私もやる時にはやります。」
爪を噛んでクリスが言った。
「お嬢様。爪」
メイが注意する。
クリスは慌てて爪をかむのを止めるが、クリスの怒りは収まらない。
久しぶりにオーウェンに会えたのに、戦は男のやるものと否定されても、
ここまでやってきたのは自分だ。
その責任もあるのだ。
オーウェンにはそういう事も理解してほしかった。
(オーウェン様もあなただけでは心配だから一緒に行くとか何とかいえば良かったのに)
イライラしているクリスを見て、メイはオーウェンの言葉の選択ミスを残念がった。
その言葉にもクリスは多少は反発するだろうが、絶対に守りたいとかいえば喜んで連れて来たはずなのに。
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