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第三章 王弟反逆

クリスの一閃1 山に向かって構えます

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ライオネルは中央師団の大隊1000名を引き連れてミハイル領と港をつなぐ森林地帯の街道に展開していた。

1台の2頭立ての馬車と騎兵2騎が護衛している。

こちらは魔導士10名に1000名の戦士だ。

青い森での演習という名目の元ここまで出てきた。

普通ならば楽勝のはずだった。

魔導騎士はおそらく15歳のウィル1人だけ

残りの騎士は2人しかいない。

一人は女騎士だ。

たいしたこともあるまい。

残りは生意気小娘クリスとその母親だけ。

3人を倒せば命乞いするしか無かろう。

ライオネルはその様子を想像していやらしい笑いをした。

慎重なエドウィンからは1撃必殺で時間をかけずに拘束を言明されていた。

ウィルの力を甘く見るなと。

気付かれないうちに接近。一気に襲い掛かり人質を取れと。

遠くから当たればウィル一人にも完敗する可能性があるからくれぐれも奇襲をと。

失敗したらばらばらに逃げろとまで言われていた。

「ふんっ。俺の力を舐めやがって」
ライオネルは独り言ちた。

この反乱がうまくいけば師団長は確実だろう。

貴族の女どもも思いのままだ。

クリスは王弟に差し出すとして、その母親をもらっても良かろう。

ライオネルは舌なめずりした。

魔導士たちに兵士たちの気配を消す魔術をかけさせる。

更に700名の後ろの森の中に弓兵を潜ませ街道沿いの木々の陰に300名の戦士を隠れさせる。

完璧だとライオネルは思った。

ノーマンの心配など杞憂だと。ウィルと言っても高々15歳の餓鬼。

1000名の塀で囲めば何もできない。

それさえ押さえたら何とでもなるだろうと。

しかし、ライオネルは知らなかった。

そのウイル以上の存在がいる事に。




騎乗していたアルバートは前方の不審な気配を感じた。

「クリス様。前方に1000名ほどの不審なものがいますが、」

馬車に近づいてアルバートが言う。

馬車の中では起き上がったウイルが飛び出そうとしていた。

「何処の誰かは判らないけれど、このままいっていいわ。

たいした魔力は感じないし」

シャーロットが言う。

「ウィルもアルバートも何もしなくても良いわ。出方を見ます。」

「しかし、結構な人数ですが。」

「防御壁で囲えばこの馬車くらいは大丈夫よ。私が対処できなかったら、その時は頼むわ」

シャーロットが笑って言った。

「しかし、」
アルバートがクリスを見る。

「まあお母様がそうおっしゃるなら。

アルバートも大丈夫よ。お母様の魔力はおそらくこの辺りでは最強だから」

クリスが言うので仕方がなく、剣を手にアルバートは何事も無かったかのように前に進める。


ライオネルは騎士の動きに一瞬ヒヤッとしたが、そのまま歩みを続けてきたのでほっとする。

そして、目の前に来た時に合図した。

ばらばらと飛び出した兵士たちは剣を構えて馬車に襲い掛かろうとする。

しかし、次の瞬間防御壁にぶつかって弾き飛ばされた。

ライオネルはそれに驚きながらも剣を振りかざして馬車の前に躍り出た。

「中央師団副官のライオネルと申す。ミハイル家の馬車と見た。

ご同行願いたい。」

「ふんっ雑魚が」
アルバートが言い切った。


「貴様らこそ降伏しろ。貴様らが何人いようが問題ない。

何なら殲滅するぞ。」
アルバートは剣を抜き放つ。

すさまじい、殺気だ。

「放て」
思わず後ずさりしそうになりながら、ライオネルは指示を飛ばした。

弓兵が一斉に弓を放つ。

が全て防御壁で防がれて周りにいた兵士たちに雨あられと降り注ぐる

「やめろ」
慌ててライオネルが言う。

「何してるのあなたたち、自分らで傷つけているんじゃ無いわよ

せっかくアルバートらを抑えて上げたのに。何してるのよ」

馬車を降りたってシャーロットが言う。

「生意気な物言いだな。お前らは完全に包囲されている。直ちに降伏しろ」
ライオネルはにやりと笑って言い切った。

「あなた、バカなの。」
軽蔑してシャーロットは言う。

「ミハイル侯爵家は元々魔術の強い一家。

私はテレーゼ王国出身の戦神シャラザール直系と言われているヨークシャー公爵家出身。

私一人でも一個師団くらいはお相手できるのだけれど

あなたがまず犠牲になるの。」

シャーロットはにやりと笑った。

「何だと」
ライオネルは魔術師に合図した。

その魔術師が詠唱しようとしたとたんにシャーロットが手を一閃した。

その瞬間魔術師は黒焦げになって吹き飛んでいた。

アルバートは驚いて侯爵夫人をみた。

(この方もこんなに魔力があるのか。

無詠唱で一瞬で魔術師を倒すなど、ドラフォードでもトップクラスの魔術師だ…)


「気絶しただけよ。クリス気にしないで」

クリスが悲しそうな顔でその黒焦げになった魔術師を見ていたので、慌ててシャーロットが言う。

「次は手加減しないわよ。さっさと降伏しなさい。」

「何をいう。我ら王弟殿下を有する義勇軍。

お前のような魔女に負けるわけにはいかない。」

虚勢を張ってライオネルが言う。

「実力差も判らない、バカな司令官に率いられてあなた方もかわいそうね。」

周りの兵士たちを見てニコッとシャーロットは笑った。

兵士たちはその笑顔にびくっとする。もうへっぴり腰だ。

「まずはあなたから黒焦げになりたいそうね」

ライオネルを指さす。ライオネルは思わず後ろずさる。

「まあ、いいわ、クリス、あなたの力見せて上げなさい。」
いきなりシャーロットはクリスに振る。

「えっでも、私ジャルカ様に絶対に人のいるところでは力を使うなって」
クリスは戸惑った。

「じゃああの山めがけて攻撃しなさい。それなら大丈夫でしょう。」
傍に見える山を指してシャーロットが言った。
「えっでも・・・」
更に躊躇するクリスに

「良いからさっさとやりなさい。圧倒的な実力差を見せつけて降伏させるのよ。でないとみんな黒焦げにしてしまうわよ」
普段はやさしい母だが切れると何をやりだすか判らない。

クリスは諦めて山に向かって構えた。

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