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第二章 大国での失恋
王宮舞踏会4 クリスは皇太后をも味方にします
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オーウェンはクリスの事が気になって気が気ではなかったが、周りを令嬢に囲まれてどうしよも無かった。イザベラには強引に中央に踊りにつれ出されるし、他の伯爵令嬢とか公爵令嬢とか我も我もとオーウェンと踊りたがった。何とかその前から逃れようとするが、次々に現れる令嬢から逃れられなかった。
そのクリスが偏屈将軍と話しているのを見て驚いたが令嬢に阻まれて前には進めず、公爵に跪かれているのを見ては驚愕するしかなかった。
「シャーロット。あなたの娘すごいわよ」
キャロラインは驚いて公爵に跪かれているクリスを遠くに見て言った。
「本来なら私の側にいてもらつていろんな人に紹介しようと思っていたのに」
「申し訳ありません。キャロライン様。あの子お転婆でなかなか一か所に留まれなくて」
「いや、でも、ここにいるよりもはるかにすごいことやっているわよ」
キャロラインは驚愕していた。
守旧派を次々に篭絡しているさまを遠くからずうっと見せつけられていたのだ。
「あなたもそう思わない。」
国王に聞く。
「いや、息子の嫁というよりは文官にぜひとも欲しい。と思わせる働きだよ」
国王も呆然と見ていた。
クリスを皇太子の婚約者にするのは、反対派を納得させるのは大変になるだろうと思っていたのに、その反対派を次々に取り込んでいくのだ。どんなマジックを使っているのか不思議だった。
皇太后はパーティ会場の端の方で静かに座っていた。
いつもは寄ってくる公爵たちが何故か今日は来ない。
というか遠くでその公爵が小癪な隣国の娘に跪いているではないか。
あの矜持だけが高い公爵が。
散々小娘の事をけなしていたのに。
アンには信じられなかった。
あの小娘、何の魔法を使っているのだ。
気難しい公爵が小娘の笑顔ごときで篭絡されるとは思えなかった。
そこへ公爵がクリスを連れてきた。
あの公爵が人の為にパーティで動くなど信じられなかった。
「皇太后様。クリスティーナ・ミハイル嬢です。」
公爵が紹介する。
「クリスティーナ・ミハイルと申します」
クリスが礼をする。
ここまで連れてこられたら仕方がない。
「アン・ドラフォードです。」
皇太后が仕方なしにあいさつする。
「どうしたの。フィリップ。あなたが小間使いのようなことするなんて」
「皇太后様。このフィリップ、クリスティーナ様に忠誠を誓ったのですよ」
「あなたが」
皇太后は驚いた。
誰にもなびかなかったこの公爵家が忠誠を誓うなど信じられなかった。
「はい。そのクリスティーナ様が皇太后様の手を拝ませてもらいたいとおっしゃいましてな。」
「私の手を」
この汚い汚れた手を?アンは驚いた。
侍女達や令嬢たちががこのまめだらけで、生傷が絶えない手を汚いと思っていることはよく知っていた。白い手が貴族女性の基本だ。
王妃を筆頭に、最近の貴族の令嬢らが畑を耕すのを嫌がっているというか、皇太后が王宮の一角に畑を耕しているのをよく思っていないことも。
その汚れた手をこの小娘が見たいと。
見て馬鹿にするのか。
王妃はクリスを睨んだ。
「我が師、ジャルカがドラフォードにお邪魔したら、必ず、皇太后様の手を見せてももらえと。
その手こそが、国の統治の基本であると、申しましたので、失礼でございますが、是非とも今後の参考のために見せて頂けたらなと思いまして」
「このような汚い手をお見せするようなことは」
アンは慌てた。ジャルカめ、何を吹き込んでいるのやら。
「何をおっしゃいます。皇太后様は今でも手ずから畑を耕していらっしゃるとか。
国政の基本は農業であるとジャルカも申しておりました。」
そう言うとクリスは皇太后の目を見た。
その澄んだ目にアンは若い頃の自分を思い出した。
皇太后はおずおずと手を差し出す。
その手をやさしくクリスの手が包んだ。
「この手が民草の心を現しているのですね。皇太后さま。暖かいです。」
いとおしむようにクリスはその手を両手で包んだ。
今までの苦労をねぎらってくれるように、クリスは自分の手をいつくしんでくれた。
アンは亡くなった夫を思い出した。
彼も自分の汚い手を慈しんでくれた。
その目から涙が溢れ出ていた。
「皇太后さま」
クリスは驚いた。
「ごめんなさい。つい、昔を思い出してしまって。」
皇太后は涙をぬぐった。
そして、クリスの手がただきれいなだけでないのに気付いた。
「あなたの手もきれいなだけじゃないけど、何か育てているの」
「皇太后様ほどではありませんが、少々畑でトマトを。でもなかなか甘くならなくて。」
困ったようにクリスが相談する。
「甘くするのはなかなか難しいのよね。水の量とか肥料の量とか・・・」
楽しそうに皇太后が話し出した。
ジャンヌはそのクリスの様子をアレクと踊りながら見ていた。
クリスはエドに婚約破棄されたのに、立ち直ってちゃんと社交している。
それも何も知らない国で。
クリスはそれをマーマレードでもただ黙々とやっていたのだ。
自分はその間、アレクや仲間と北方で楽しくやるだけだった。
エドも一人しかいない王子という事でそのプレッシャーに押しつぶされたのかもしれない。
母親も今は結構クリスのやってきたことにというか、自分がやってこなかったことにショックを受けているようだ。
自分も少しは義務を果たすしかないのか。
ジャンヌは決心した。
アレクを見つめる。
「どうしたのジャンヌ?」
その何かを秘めたようなジャンヌの様子にアレクは声をかけた。
「ううん、少し疲れただけ」
ジャンヌは笑って誤魔化した。
いつまでもアレクと遊んでいるわけにはいかないか。
アレクはノルディンの皇太子。
いつまでもジャンヌに付き合わすわけにはいかないだろう。
楽しい時間も終わりかな。
ジャンヌは今を楽しもうと思った。
そのクリスが偏屈将軍と話しているのを見て驚いたが令嬢に阻まれて前には進めず、公爵に跪かれているのを見ては驚愕するしかなかった。
「シャーロット。あなたの娘すごいわよ」
キャロラインは驚いて公爵に跪かれているクリスを遠くに見て言った。
「本来なら私の側にいてもらつていろんな人に紹介しようと思っていたのに」
「申し訳ありません。キャロライン様。あの子お転婆でなかなか一か所に留まれなくて」
「いや、でも、ここにいるよりもはるかにすごいことやっているわよ」
キャロラインは驚愕していた。
守旧派を次々に篭絡しているさまを遠くからずうっと見せつけられていたのだ。
「あなたもそう思わない。」
国王に聞く。
「いや、息子の嫁というよりは文官にぜひとも欲しい。と思わせる働きだよ」
国王も呆然と見ていた。
クリスを皇太子の婚約者にするのは、反対派を納得させるのは大変になるだろうと思っていたのに、その反対派を次々に取り込んでいくのだ。どんなマジックを使っているのか不思議だった。
皇太后はパーティ会場の端の方で静かに座っていた。
いつもは寄ってくる公爵たちが何故か今日は来ない。
というか遠くでその公爵が小癪な隣国の娘に跪いているではないか。
あの矜持だけが高い公爵が。
散々小娘の事をけなしていたのに。
アンには信じられなかった。
あの小娘、何の魔法を使っているのだ。
気難しい公爵が小娘の笑顔ごときで篭絡されるとは思えなかった。
そこへ公爵がクリスを連れてきた。
あの公爵が人の為にパーティで動くなど信じられなかった。
「皇太后様。クリスティーナ・ミハイル嬢です。」
公爵が紹介する。
「クリスティーナ・ミハイルと申します」
クリスが礼をする。
ここまで連れてこられたら仕方がない。
「アン・ドラフォードです。」
皇太后が仕方なしにあいさつする。
「どうしたの。フィリップ。あなたが小間使いのようなことするなんて」
「皇太后様。このフィリップ、クリスティーナ様に忠誠を誓ったのですよ」
「あなたが」
皇太后は驚いた。
誰にもなびかなかったこの公爵家が忠誠を誓うなど信じられなかった。
「はい。そのクリスティーナ様が皇太后様の手を拝ませてもらいたいとおっしゃいましてな。」
「私の手を」
この汚い汚れた手を?アンは驚いた。
侍女達や令嬢たちががこのまめだらけで、生傷が絶えない手を汚いと思っていることはよく知っていた。白い手が貴族女性の基本だ。
王妃を筆頭に、最近の貴族の令嬢らが畑を耕すのを嫌がっているというか、皇太后が王宮の一角に畑を耕しているのをよく思っていないことも。
その汚れた手をこの小娘が見たいと。
見て馬鹿にするのか。
王妃はクリスを睨んだ。
「我が師、ジャルカがドラフォードにお邪魔したら、必ず、皇太后様の手を見せてももらえと。
その手こそが、国の統治の基本であると、申しましたので、失礼でございますが、是非とも今後の参考のために見せて頂けたらなと思いまして」
「このような汚い手をお見せするようなことは」
アンは慌てた。ジャルカめ、何を吹き込んでいるのやら。
「何をおっしゃいます。皇太后様は今でも手ずから畑を耕していらっしゃるとか。
国政の基本は農業であるとジャルカも申しておりました。」
そう言うとクリスは皇太后の目を見た。
その澄んだ目にアンは若い頃の自分を思い出した。
皇太后はおずおずと手を差し出す。
その手をやさしくクリスの手が包んだ。
「この手が民草の心を現しているのですね。皇太后さま。暖かいです。」
いとおしむようにクリスはその手を両手で包んだ。
今までの苦労をねぎらってくれるように、クリスは自分の手をいつくしんでくれた。
アンは亡くなった夫を思い出した。
彼も自分の汚い手を慈しんでくれた。
その目から涙が溢れ出ていた。
「皇太后さま」
クリスは驚いた。
「ごめんなさい。つい、昔を思い出してしまって。」
皇太后は涙をぬぐった。
そして、クリスの手がただきれいなだけでないのに気付いた。
「あなたの手もきれいなだけじゃないけど、何か育てているの」
「皇太后様ほどではありませんが、少々畑でトマトを。でもなかなか甘くならなくて。」
困ったようにクリスが相談する。
「甘くするのはなかなか難しいのよね。水の量とか肥料の量とか・・・」
楽しそうに皇太后が話し出した。
ジャンヌはそのクリスの様子をアレクと踊りながら見ていた。
クリスはエドに婚約破棄されたのに、立ち直ってちゃんと社交している。
それも何も知らない国で。
クリスはそれをマーマレードでもただ黙々とやっていたのだ。
自分はその間、アレクや仲間と北方で楽しくやるだけだった。
エドも一人しかいない王子という事でそのプレッシャーに押しつぶされたのかもしれない。
母親も今は結構クリスのやってきたことにというか、自分がやってこなかったことにショックを受けているようだ。
自分も少しは義務を果たすしかないのか。
ジャンヌは決心した。
アレクを見つめる。
「どうしたのジャンヌ?」
その何かを秘めたようなジャンヌの様子にアレクは声をかけた。
「ううん、少し疲れただけ」
ジャンヌは笑って誤魔化した。
いつまでもアレクと遊んでいるわけにはいかないか。
アレクはノルディンの皇太子。
いつまでもジャンヌに付き合わすわけにはいかないだろう。
楽しい時間も終わりかな。
ジャンヌは今を楽しもうと思った。
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