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第二章 大国での失恋

王宮舞踏会3 クリスは大国の公爵に忠誠を誓われます

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舞踏会では皇太子が2曲目を別の女性と踊りだし、多くの者も踊りだしていた。

その中クリスは端の方で不機嫌そうにしている偏屈将軍で有名なドーブネル近づく。

「ドーブネル将軍閣下ですか。トッポウの戦いで有名な」

「そうですが」
不愛想にドーブネルは応える。

「これはご挨拶が遅れました。マーマレードのクリスティーナ・ミハイルと申します。」

「トッポウの戦いはもう昔話ですな。」
どいつもこいつもそれしか聞いてこないがと、この偏屈将軍は思っていたが、それは顔にしか出していない。
そして、こういう顔をするとたいていの相手はすぐにドーブネルの目の前から消えるのだ。
この令嬢は皇太子が好意を寄せているようだが、それがどうしたんだか。ドーブネルには全く興味はなかった。

「でも、幾多の戦いの中でも、将軍閣下の馬の素晴らしさが戦いの勝敗を分けたと聞いておりますが。」
クリスの言葉にドーブネルの目は見開かれた。
トッポウの戦いはいつも褒められるが大好きな馬たちを褒められるのはなかなかない。

「それをどこで聞かれたのですか?」
「ジャルカ様がお会いしたら、参考になるから是非とも教えて頂けと」
「あの皮肉屋のジャルカがですか」
魔導士として一流で現役の時は彼がいるためにノルディンが何度も苦杯を喫したというのは有名な話だ。
「いや、ノルディンに何度も勝っていらっしゃるジャルカ殿に認めて頂けていたとは」
途端にドーブネルは機嫌をよくする。
「やはり戦いの基本は馬なのです。
我々は馬の世話には本当に力を入れておりましてな。
ノルディンの3倍は時間をかけて世話をしておりました。
特にあの時はノルディン軍は長駆しておりましてな。日頃馬の面倒もよく見ていなかったのが、たたったのかとても疲れておりまして…」
と日頃の不機嫌さを知っている部下たちが見たら驚くほど、饒舌に話し出した。
それを良い具合に相槌を打ちながら、クリスは話を合わせていく。
ドーブネルは話して楽しくなってきた。
その陽気な話しぶりに、何事かといろんな人が集まって来て、話に加わっていく。

「まあ、ドーブネル将軍閣下。今日はご機嫌ですのね。」
「これはナヴァール侯爵夫人。こちらのレディがドラフォードの馬の事を聞いていただきましてな」
「こちらの方は」
「初めまして、ナーヴァル侯爵夫人。クリスティーナ・ミハイルと申します」
クリスは礼をした。
「ひょっとししてマクシミリアン・ナーヴァル様のご親戚の方ですか。」
「マクシミリアンの事をご存知ですか。息子なんです。」
「まあ、そうなんですか。我が国のブリエント卿がなかなか将来性のある若者だとほめていらっしゃったので」
如才なくクリスは付け加える。
「ブリエント卿というとマーマレードの正義と呼ばれている司法長官の」
アンリ・ナヴァールは喜んだ。マクシミリアンは法務官として今は地方で働いているが、同盟国の司法のトップが知っていてなおかつほめていたなんて。
クリスがマーマレードの皇太子の婚約者だったことは知られているし、当然司法長官とも面識があったのだろう。アンリにとってこれほどうれしいことは無かった。
クリスは今は自国の皇太子オーウェンが熱い視線を送っているのは最初に踊っていたことでも明らかだ。
娘のイザベルはオーウェンに御熱だったが、なかなか倍率も高い。
ここは、息子をたたえてくれるこのクリスを味方にした方が、侯爵家としてはプラスではないかと。アンリの頭は急激に回転しだした。


フィリップ・バーミンガム公爵は舞踏会では暇そうにしていた。

いつもは不満ばかり言ってうっとしいと思っているドーブネルが今日は寄って来ない。

少し離れたところで饒舌に語っていたし、皇太子の婚約者にといつも必死に言い募って来るナヴァール侯爵夫人も今日は別口で話していた。

というかその娘のライバルである、パーティ会場で婚約破棄されたとして有名な隣国のミハイル嬢と楽しそうに話しているのだ。

ふんっ何を誑し込まれているのか。
と睨みつけた途端にそのミハイル嬢の青い目と目があってしまった。

「これはご挨拶が遅れました。フィリップ・バーミンガム公爵閣下とお見受け致します。
クリスティーナ・ミハイルと申します。」
少女がゆっくりと歩み寄ってきた。

「これはこれは令嬢からお声がけしていただくとは。」
少し嫌味を言うと。
ニコッとクリスは笑って
「申し訳ありません。いつも母にもお転婆クリスと注意されているのですが、
ドラフォードで一番伝統を重んじられている公爵閣下をお見かけしてついはしゃいでしまいました。」
そんなことでは騙されんぞ、と思いつつ、クンリスの笑顔に癒されたフィリップ・バーミンガムではあった。
男は若い令嬢の笑顔には弱い。

「おじいさま。」
そこへ孫のシャルルが駆けてくる。

「お孫さんのシャルル様ですか。」
クリスが聞く。
隣国の公爵の孫の名前まで覚えていることにフィリップは驚いた。

「そうです。まだまだわがまま三昧ですが。」
「シャルル様。パーティは退屈?」
クリスが膝を折って視線を合わせて聞くと
「うん」
とシャルルが応える。

そして、シャルルはクリスの胸に輝いている風車のような飾りに目がいった。
キラキラ輝いていてきれいだ。
「その飾りをよこせ」
シャルルは無礼極まりない言い方で言う。
公爵は慌てて止めようとしたが、この小娘がどういう反応を示すか興味が勝った。
皇太子にもらったその忠誠の飾りをむやみに渡すわけはないのだ。

「シャルル様。これはなかなかお渡しするわけには」
クリスは渋る。
「いやだいやだ。欲しい」
シャルルは大声で駄々をこねる。
隣国の令嬢がこの公爵家の孫のわがままにどう対処するか回りは固唾をのんで見守った。
クリスのつけていた飾りは王家が信頼を置くものに渡すという古くからの言い伝えのある飾りなのだ。
そう言えば現国王がなかなか振り向いてくれない隣国の王女に無理やり渡したという曰くつきのものでもあった。
それに倣って皇太子がクリスに渡したものだろう。
普通子供にねだられても渡せるものではないはずだった。

「じゃあ、渡したら大切にしてくれますか?」
そのクリスの瞳に魅入られたようにシャルルは頷く。

「そして、王家に忠誠を誓われますか。」
「うん」
シャルルはきっぱりと頷いた。

「じゃあ、これをどうぞ」
その時、クリスは胸から飾りを外してシャルルに渡した。

皆唖然としてクリスを見た。

「ミハイル嬢何をなさる。」
慌てて、フィリップは止めようとした。

「バーミンガム公爵閣下。見て頂いた通りですが」
クリスが、飾りを喜んで手に持ったシャルルを抱いて立ち上がった。
「お主、それが何か知っているのか」

「ええ、1000年前のサマーパーティーで、戦神シャラザールから初代騎士バーミンガムに渡された忠誠の誓いの飾りです。」
クリスはこの飾りの謂れをはっきりと言った。

「何故それを?」

「そんなのはこの国にいる者にとっては常識なのでは?
私は皇太子殿下からそのようにお伺い致しました」
きっぱりとクリスは言う。
「しかし、それはあなたが皇太子殿下から受け取られたものだろう。
それを軽々しく他人に渡すなど。」

「殿下はお子様が欲しがられたら渡しても良いとおっしゃいました」
「嵌めたのか」
「嵌めたなど。そもそも、シャルル様がいらっしゃった時からこの飾りを欲しがるのは
公爵閣下も判っていらっしゃったはずです。
なのに、私に対して手を伸ばされたのに止められなかった。
止めようと思えば止められたのに。
それに、そもそもこの飾りは他国の私が持っているよりも、この国で一番力をお持ちのあなたが持たれるべき物なのです」
クリスは言い切った。

「シャルル様、あなたは今からドラフォード王家の忠実な臣になったのです。」
シャルルの目を見て言う。
「うん」
元気よくシャルルは返事した。

「気に入った。」
突然フィリップは大きな声をだした。
久しぶりにフィリップは感動した。
先代国王に感じたように。
「その度胸といい言い様といい、言う事はない。
はめられたのは私だが。」
そう言うと、クリスの前に跪いた。

「クリスティーナ・ミハイル様。
このバーミンガム公爵家はあなた様がどこにいらっしゃっても終生の忠誠を尽くす事を誓います」
フィリップ・バーミンガムはクリスに騎士の誓いを行っていた。

「公爵様。そんなの困ります。私というよりも王家に忠誠を」
クリスは困惑した。

「いや、私を嵌めたのはあなただ。初代バーミンガムも、戦神シャラザールに嵌められて忠誠を誓わされたそうだ。
私も初代と同じに嵌められるとはな」
笑って公爵が言った。
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