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第一章 婚約破棄

閣議編 嘆願書の山 2 国王の決断

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「陛下。申し訳ありません」
コーフナー魔導第一師団長がいきなり直立不動で立ち上がり頭を下げた。

「本来、亡くなった兵士の家族の事はここにいる師団長が考えなければいけないことです。それを学生であるクリス様にさせていたなど、言語道断。私、全責任を取って師団長の職を辞し、一兵卒として一からやり直させていただきます。」
「私、北方師団長も今日をもって辞職一からやらせてもらいます」
「私、魔導第二師団長も本日をもって一兵卒として一からやり直させていただきます」
「私南方師団長も本日をもって一兵卒としてやり直させて頂きます」
次々に師団長が蒼白になって立ち上がって言い出す。

「いや、まあ待て」
国王陛下は一同を止めた。

「本来は兵士はわしの命で戦場で死んだのだ。本来はこの国王が自ら率先してやらねばならないことだ。全責任はこの国王にある。」

「しかし、陛下。今回の件は私たちの至らなさを原因として起こった事です。私どもも責任を取らねば戦神シャラザールに申し開きできません」

「そうは思うがの。まあ待て。
全員が辞められても困るのはクリス嬢だぞ」
一同を見渡すと、うなだれていた。

「しかし、近衛は全く心に響かなかったのか?」
国王は一人座っているギルティを見た。

「いえ、しかし、本来兵士は国王陛下に殉じるものと、戦死は名誉の戦死であり遺族には遺族給付金が支払われ保障は済んでいるものと存じます」

「で、クリス嬢のしていたことは余計な事だと」

「いえ、そうは思いませんが、余計な人気取かと」

「おのれ、ギルティ」
その瞬間にコーフナーはギルティに掴みかかっていた。
他の師団長が慌てて止めに入る。

「何をする」

「貴様、死んでいったものの気持ちが判るのか。
息子を残していく兵士の気持ちが。
いつも後方で前線に出たことも無いからそんなことが言えるのだ。近衛はいつから人間の心を無くした」

「まあ待て、コーフナー」
国王が言う。

「しかしギルティ。余もコーフナーに同意見だ。この学生の子はクリス嬢に感激していた。これは国民の意見でもあると思うぞ。その心が全く判らないというのであれば少し考えないといけないな」
国王は悲しそうな顔をして言った。

ギルティは下を見て黙っていた。

国王は続きを読みだした。

「クリス様と対照的に皇太子は横にこのマティルダと取り巻きを侍らせてへらへら遊んでいました。皇太子がマティルダと二人でいる時に、話している声がたまたま聞こえたのですが、『私たちの事は王弟殿下もご存じだ。高慢なクリスの態度には良い感触はお持ちでない。殿下が公爵と財務卿とそろって国王陛下に婚約破棄のお話をしていただく予定だ。生意気なクリスはもう終りだ』

と皇太子が言っているのを見て

私はもうこの国は終わりだと思いました。
素晴らしい人が虐げられ、どうしようもない奴の世の中が来るならもうこの国は終わりです。
でも、パーティ会場で皇太子がクリス様に婚約破棄を言い渡した時、ウィル様が剣を皇太子に向けられたときに、みんなウィル様が正義の鉄拳を下すのを期待してみていました。
盾となろうとした近衛騎士は悪徳代官の兵士たちに見えました。
どう考えても守る相手が違います。
もしウィル様がいらっしゃらなかったらクリス様を捕まえるつもりだったのでしょうか。
その時は私たちも立ち上がろうと考えました。
また、その時に助け船を出していただいたドラフォードの皇太子様の素晴らしい態度。我が国の皇太子の態度がとても恥ずかしく感じられました。
そのあとのジャンヌ王女殿下の飛び蹴りで私たちはやっと溜飲がおりました。ノルディン帝国の皇太子殿下を引き連れて来臨された王女殿下を見て、まだ、わが国にも素晴らしい方がいらっしゃるのを知りえて本当に良かったです。

最後にクリス様が皇太子に鉄拳を下された時、私どもは心から拍手喝采いたしました。

国王陛下。

クリス様は本当に悪くありません。

悪しき皇太子と公爵及び公爵令嬢、クリス様を陥らせようとした王弟達にぜひとも天罰をお与えください」

「なんと王弟殿下に不敬な」
公爵がたちあがって叫んだ。

「公爵はそう思うのか。でクリス嬢のどういう点が皇太子の婚約者にふさわしくないのだ」

「クリス嬢は高慢で皇太子妃になった事を鼻にかけていると」

「お主は今まで何を聞いていた。王妃の話を聞いたのか。この子の手紙はどう聞いたのだ」

「単なるやらせで、クリス嬢が無理やり書かせたかと」

「愚か者!」
国王は叫んだ。
普段温厚な国王が怒り狂っていた。

「お主はこの上申書の山が見えないのか。これだけの者がクリス嬢の無罪を嘆願し、皇太子の処罰を期待しているのだぞ。
貴様とヘンリーの悪辣とした醜聞もいやほど上がっておるわ。
何だったら全て読んでやろうか」
国王は机を叩いて叫んでいた。

「これは財務省のものだ。
私は財務部に所属している一平民ですが、この前財務部に行く途中にたまたまクリス様とすれ違いました侯爵家のご令嬢ではるか雲の上の方だと、一生言葉を交わさせていただくことは無いと思っておりました。
しかし、その雲の上の方が立ち止まられて、『お子様の怪我は治られましたか』
とおっしゃられたのです。
息子は1か月前に骨折しておりやっと松葉杖が取れたところでした。
私は驚愕いたしました。
20年以上王宮で働いておりますが、上司にはそんなに優しい声をかけられたこともありませんし、私に息子がいる事なんて知りもしないでしょう。
でも、皇太子の婚約者は私のことまで気にかけていらっしゃる。
こんなに慈悲深い方が未来に王妃様になられるんだ。
この国は本当に明るいと思いました。
しかし、最近喫茶室の中で王弟殿下と公爵閣下がクリス嬢を高慢だとけなし、蹴落とす算段を大声でしていらっしゃいました。
私は暗くなりました。
こんな公の場でこんなに大勢が聞いているのに、こういうことが許されるのでしょうか。その周りにいた心あるものは目を怒らせておりました。

国王陛下。何卒臣等の心の声をお聞き届けください。」
きっとして国王は周りを見渡した。

「財務卿。これを聞いてもクリス嬢のしていたことは人気取りか」
手紙の差出人の上司である財務卿に聞く。

「いえ、私の不徳の致すところです。私どもでは思いもしませんでした。自分の不徳を恥じ入るばかりです」
首を垂れてモワットは言った。

「公爵、まだいう事があるか」

「いえ、陛下のお心のままに」
厳しい目をして公爵は応えた。

「貴様らはとんでもないことをしてくれたのだよ。シャラザールの再来と呼ばれただろう王妃の誕生を邪魔したのだからな」
国王は決断した。

「まず、その一番やらなければいけなかった事をしなかった私は50%の給与削減。自身に各師団への慰問を義務に付す。

王弟ヘンリー、王位継承権はく奪。

王妃エリザベス、6か月間の謹慎。その間に王宮の再度掌握を命ず。
クリス嬢に少しでも近づけ」

「御意、少しでも侍女の傍らに立てるよう努力します」

「皇太子エドワード、皇太子位はく奪。北方師団へ勤務。
側近も同じく。
近衛師団ギルティは北方師団へ大隊長として転属」

「御意」
力なくギルティは言った。

「半数の近衛兵も同じく。綱紀粛正せよ。人選は今後詰める」

「アーカンソー公爵は爵位返上。代わって侯爵位を与える。
一から出直せ」

「御意」

「マティルダ・アーカンソーは修道院送りとする。以上だ」

もはや誰も反論するものはいなかった。

*****************************************
ここまでありがとうございました。

これにて取り敢えず完結とさせていただきます。

感想等記載いただけたら幸いです。

続編等書く予定なのでお気に入り登録して頂けるとありがたいです。

読んで頂いて本当にありがとうございました。

この話の1000年前の戦神シャラザールのお話始めました
「娘の命を救うために生贄として殺されました・・・でも、娘が蔑ろにされたら地獄からでも参上します」

https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/474495563

是非とも読んで下さい
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