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番外編
1 やってこなかったサンタクロース
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ご無沙汰しています。本編から半年も経ってしまいましたが、クリスとヒューゴは恋人になるまでのここだけ完全に恋愛タグの番外編を書きました!
本日より三話、一日一話ずつ投稿します。
ー---------
オールディの国全体を守る結界を張ることのできる大聖女は、一時代に一人しかいない。その条件は初代大聖女の血を継ぎ、彼女と同じキラキラとした青い瞳を持ち、結界術と強化術を操れること。
一番の力を持つと認められた聖女が特別な儀式により宝石目を開眼し、国を覆う特別な祈りの結界を張ることができるようになるのだ。
当代の大聖女であるクリスローズ・ルロワが宝石目を開眼したのはわずか7歳のとき。そして初めて大聖女として祈りの結界を張ったのは8歳のときだ。
一度はその座をおりたものの、17歳で大聖女に復帰をし、それから彼女の祈りの結界は綻び知らずだ。
そんな彼女も23歳となり、周りの環境は大きく変化していた。
「クリス様。ニコレット様とイザベル様からクリスマスカードが届いていますよ。」
「ありがとう。ヤスミン。」
クリスは少し複雑な顔でそのクリスマスカードを受け取った。
ニコレットとイザベルはクリスの貴族学園の頃からの親友だ。ニコレットは学園卒業後すぐの19歳で結婚をし、すでに二児の母だ。
イザベルは驚いたことにクリスの弟であるウィリアムと婚約をし、彼の卒業を待って結婚した。彼女も一児の母になった。
そう、クリスは少し友人たちにおいていかれたように感じていたのだ。
「二人とも元気みたい!」
クリスは努めて明るい声でそう言った。
「最近お会いになれていませんものね。」
「私はなかなか教会から出られないから、二人が来てくれないと会えないし。」
「クリスマスにはルロワ公爵家でイザベル様にはお会いになれるのでは?」
「あ…そうね…。」
正直、クリスはあまり会いたい気持ちになれなかった。大好きな親友のはずなのに、なぜだろう。そんなクリスの心の機微を有能な侍女であるヤスミンはしっかりと感じ取った。
「無理にお帰りになる必要はありませんよ。気が進まないなら、クリスマスは教会で祝いましょう。私が豪勢なごちそうをご用意しますよ。」
「それがいいかもしれないね…。」
元気が出きらないクリスの様子に、ヤスミンはとっておきを出すしかないと咳ばらいをした。
「そういえば、先ほど黒騎士団長にお会いして聞いたのですが、このクリスマス休暇にヒューゴ様が帰ってこられるそうですよ。」
クリスはぱっと顔をあげてヤスミンを見た。その顔はみるみると輝きだし、頬が赤くなっていく。
「ヒューゴに会えるの!?」
ー---
その翌日にはクリスの下にもヒューゴから帰還する予定を告げる手紙が届いた。
クリスの四つ年上のヒューゴは現役の黒騎士であり、その実力は黒騎士随一と言われている。この春から西方の黒騎士団のトップである隊長を務めている。
二人はクリスが教会にやってきた6歳のころからの知り合いで、いわゆる幼馴染である。様々な困難を乗り越えた今では幼馴染以上の強い絆で結ばれており、ヒューゴはクリスのために黒騎士団長を目指すと言って旅立っていた。
ここ数年はヒューゴは地方で黒騎士として活躍し、今回の帰省も二年ぶりのことだった。その間も二人は定期的な手紙のやり取りをしてきた。
クリスマスや誕生日にはプレゼントを贈りあい、時には『会いたい』『恋しい』といった睦言が交わされる。だけどクリスがそんなこと望んではいけないと思っている節もあり、二人の関係に幼馴染以上の言葉はついていなかった。
「絶対に、ヒューゴに私のところに来るように言ってくださいね!」
クリスに会うたびにそう言われ続けた黒騎士団長は常に複雑そうな微笑を浮かべていた。その様子をクリスの愛猫であり感情の精霊でもあるフィフィは眉間にしわを寄せて見ていた。
「どうしたの?」
『黒騎士団長から後ろめたい感情を感じるわ。何かヒューゴに関して隠し事をしているのかもしれないわ。』
「隠し事…?」
一抹の不安を残しながら、ヒューゴはクリスマスの三日前に帰還した。
ー---
ヒューゴが帰還した折には、クリスのプライベートスペースに訪ねてきてくれる。ヒューゴのみならず、クリスが個人的に神官や騎士の友人に声をかけるときにはこのプライベートスペースを使うのだ。
黒騎士の宿舎で旅装を着替えたヒューゴは黒騎士団長にあった後、すぐにクリスのところに来てくれた。
三年ぶりに見たヒューゴは背丈こそ変わらないが、さらにがっしりとした体形になったように見えた。黒髪は短く刈り込まれ、日焼けした顔に鋭くなった黒い目がよく映えている。
外見はやや変わったが、優しい笑顔は変わらないヒューゴのままだ。思わずクリスが童心に戻り、駆け寄って抱き着いてしまうのも致し方ないだろう。
「ヒューゴ、お帰りなさい!」
「ただいま。クリス。久しぶりだな。」
ヒューゴは軽くクリスを抱きしめると、やんわりと体を離した。…いつもだったらクリスが満足するまで待っていてくれるのだが。
クリスがきょとんとした顔でヒューゴを見上げると、ヒューゴも困ったような、少し悲しそうな顔をしていた。
「どうかしたの、ヒューゴ?」
「いや、クリスが大人になってて驚いただけだよ。」
「…それ、三年前も言ってたよ。」
ヒューゴから西方のクモの魔物の意図から作った刺繍糸を受け取り、ヤスミンが用意してくれていたお茶の席へとヒューゴを案内する。
「今回はどれくらいいられるの?」
「だいたい二週間だ。」
「長くいられるのね!また会いに来てくれる?」
「ああ、もちろん時間があるときに会いに来るよ。」
ヒューゴの様子は完全にいつも通りなのだが、感情の精霊であるフィフィと契約しているクリスには、悲しげかつ不安げなヒューゴの感情が伝わってきた。
「ヒューゴ、何かあった?」
これまでにないヒューゴの様子にクリスは困惑した。それは顔に完全に出ていたようで、ヒューゴは「クリスはごまかせないな」と苦笑した。
「ごめん。黒騎士団の運営にかかわることだから、まだクリスには話せないんだ…。騎士団長の命令でね…。」
「そうなの…。私にできることがあったらいつでも言ってね…。そうだ!ヒューゴはクリスマスはどうするの?」
「クリスマス?実家か黒騎士団で過ごすことになると思うけれど…?」
「教会で一緒にお祝いしましょう!ヤスミンが豪勢なご馳走を用意してくれるの!」
「公爵家には帰らないのか?」
「…ええ。…母親になったばかりで忙しいイザベルの負担になりたくなくて。」
クリスはここで視線を泳がせた。上手に自分の嘘を隠せるようになってきたクリスだったが、長い付き合いのヒューゴや横で見ていたヤスミンにはばればれだった。
「…そうか。」
ばればれでもそっとしておいてくれるのも二人のいいところである。
この日、ヒューゴは予定を調整することを約束して二人の短い対面は終わった。
ー---
結局、タイトルの通り、ヒューゴはクリスマスにクリスのところに来ることはできなかった。クリスマスの前日には知らせがあり、クリスは消沈して教会の神官や聖女、侍女たちとクリスマスを過ごしていた。
もしかしたら、もしかしたら、ヒューゴが来るかもしれないとごちそうを少し取り分けていたが、それらは結局人間の食べ物好きの精霊たちのお腹に入ることとなった。
『クリス、昨日まで元気だったのに、今日もまた元気ないね!』
『クリスが元気ないと私たちも悲しい!』
小人型の歌の精霊たちは、全然悲しそうには見えない元気な姿で小さく切られたごちそうを食べながら騒いでいる。
『クリス、なんで元気ないの?』
『知らないの?黒いのが来れなかったからだよ!』
クリスとそれ以外というくくりでしか人間を見分けられない歌の精霊たちだが、ヤスミンとヒューゴといったクリスと関りの深い人間たちを見分けることはできる。
そこでヒューゴのことは”黒いの”と呼んでいるわけだが。
『黒いのなんで来れなかったの?』
『知らないの?黒いの結婚するんだよ!』
『ちがうよ!お見合いするんだよ!』
歌の精霊たちの会話をぼーっと聞いていたクリスは突然の爆弾発言に固まってしまった。
「……え?」
本日より三話、一日一話ずつ投稿します。
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オールディの国全体を守る結界を張ることのできる大聖女は、一時代に一人しかいない。その条件は初代大聖女の血を継ぎ、彼女と同じキラキラとした青い瞳を持ち、結界術と強化術を操れること。
一番の力を持つと認められた聖女が特別な儀式により宝石目を開眼し、国を覆う特別な祈りの結界を張ることができるようになるのだ。
当代の大聖女であるクリスローズ・ルロワが宝石目を開眼したのはわずか7歳のとき。そして初めて大聖女として祈りの結界を張ったのは8歳のときだ。
一度はその座をおりたものの、17歳で大聖女に復帰をし、それから彼女の祈りの結界は綻び知らずだ。
そんな彼女も23歳となり、周りの環境は大きく変化していた。
「クリス様。ニコレット様とイザベル様からクリスマスカードが届いていますよ。」
「ありがとう。ヤスミン。」
クリスは少し複雑な顔でそのクリスマスカードを受け取った。
ニコレットとイザベルはクリスの貴族学園の頃からの親友だ。ニコレットは学園卒業後すぐの19歳で結婚をし、すでに二児の母だ。
イザベルは驚いたことにクリスの弟であるウィリアムと婚約をし、彼の卒業を待って結婚した。彼女も一児の母になった。
そう、クリスは少し友人たちにおいていかれたように感じていたのだ。
「二人とも元気みたい!」
クリスは努めて明るい声でそう言った。
「最近お会いになれていませんものね。」
「私はなかなか教会から出られないから、二人が来てくれないと会えないし。」
「クリスマスにはルロワ公爵家でイザベル様にはお会いになれるのでは?」
「あ…そうね…。」
正直、クリスはあまり会いたい気持ちになれなかった。大好きな親友のはずなのに、なぜだろう。そんなクリスの心の機微を有能な侍女であるヤスミンはしっかりと感じ取った。
「無理にお帰りになる必要はありませんよ。気が進まないなら、クリスマスは教会で祝いましょう。私が豪勢なごちそうをご用意しますよ。」
「それがいいかもしれないね…。」
元気が出きらないクリスの様子に、ヤスミンはとっておきを出すしかないと咳ばらいをした。
「そういえば、先ほど黒騎士団長にお会いして聞いたのですが、このクリスマス休暇にヒューゴ様が帰ってこられるそうですよ。」
クリスはぱっと顔をあげてヤスミンを見た。その顔はみるみると輝きだし、頬が赤くなっていく。
「ヒューゴに会えるの!?」
ー---
その翌日にはクリスの下にもヒューゴから帰還する予定を告げる手紙が届いた。
クリスの四つ年上のヒューゴは現役の黒騎士であり、その実力は黒騎士随一と言われている。この春から西方の黒騎士団のトップである隊長を務めている。
二人はクリスが教会にやってきた6歳のころからの知り合いで、いわゆる幼馴染である。様々な困難を乗り越えた今では幼馴染以上の強い絆で結ばれており、ヒューゴはクリスのために黒騎士団長を目指すと言って旅立っていた。
ここ数年はヒューゴは地方で黒騎士として活躍し、今回の帰省も二年ぶりのことだった。その間も二人は定期的な手紙のやり取りをしてきた。
クリスマスや誕生日にはプレゼントを贈りあい、時には『会いたい』『恋しい』といった睦言が交わされる。だけどクリスがそんなこと望んではいけないと思っている節もあり、二人の関係に幼馴染以上の言葉はついていなかった。
「絶対に、ヒューゴに私のところに来るように言ってくださいね!」
クリスに会うたびにそう言われ続けた黒騎士団長は常に複雑そうな微笑を浮かべていた。その様子をクリスの愛猫であり感情の精霊でもあるフィフィは眉間にしわを寄せて見ていた。
「どうしたの?」
『黒騎士団長から後ろめたい感情を感じるわ。何かヒューゴに関して隠し事をしているのかもしれないわ。』
「隠し事…?」
一抹の不安を残しながら、ヒューゴはクリスマスの三日前に帰還した。
ー---
ヒューゴが帰還した折には、クリスのプライベートスペースに訪ねてきてくれる。ヒューゴのみならず、クリスが個人的に神官や騎士の友人に声をかけるときにはこのプライベートスペースを使うのだ。
黒騎士の宿舎で旅装を着替えたヒューゴは黒騎士団長にあった後、すぐにクリスのところに来てくれた。
三年ぶりに見たヒューゴは背丈こそ変わらないが、さらにがっしりとした体形になったように見えた。黒髪は短く刈り込まれ、日焼けした顔に鋭くなった黒い目がよく映えている。
外見はやや変わったが、優しい笑顔は変わらないヒューゴのままだ。思わずクリスが童心に戻り、駆け寄って抱き着いてしまうのも致し方ないだろう。
「ヒューゴ、お帰りなさい!」
「ただいま。クリス。久しぶりだな。」
ヒューゴは軽くクリスを抱きしめると、やんわりと体を離した。…いつもだったらクリスが満足するまで待っていてくれるのだが。
クリスがきょとんとした顔でヒューゴを見上げると、ヒューゴも困ったような、少し悲しそうな顔をしていた。
「どうかしたの、ヒューゴ?」
「いや、クリスが大人になってて驚いただけだよ。」
「…それ、三年前も言ってたよ。」
ヒューゴから西方のクモの魔物の意図から作った刺繍糸を受け取り、ヤスミンが用意してくれていたお茶の席へとヒューゴを案内する。
「今回はどれくらいいられるの?」
「だいたい二週間だ。」
「長くいられるのね!また会いに来てくれる?」
「ああ、もちろん時間があるときに会いに来るよ。」
ヒューゴの様子は完全にいつも通りなのだが、感情の精霊であるフィフィと契約しているクリスには、悲しげかつ不安げなヒューゴの感情が伝わってきた。
「ヒューゴ、何かあった?」
これまでにないヒューゴの様子にクリスは困惑した。それは顔に完全に出ていたようで、ヒューゴは「クリスはごまかせないな」と苦笑した。
「ごめん。黒騎士団の運営にかかわることだから、まだクリスには話せないんだ…。騎士団長の命令でね…。」
「そうなの…。私にできることがあったらいつでも言ってね…。そうだ!ヒューゴはクリスマスはどうするの?」
「クリスマス?実家か黒騎士団で過ごすことになると思うけれど…?」
「教会で一緒にお祝いしましょう!ヤスミンが豪勢なご馳走を用意してくれるの!」
「公爵家には帰らないのか?」
「…ええ。…母親になったばかりで忙しいイザベルの負担になりたくなくて。」
クリスはここで視線を泳がせた。上手に自分の嘘を隠せるようになってきたクリスだったが、長い付き合いのヒューゴや横で見ていたヤスミンにはばればれだった。
「…そうか。」
ばればれでもそっとしておいてくれるのも二人のいいところである。
この日、ヒューゴは予定を調整することを約束して二人の短い対面は終わった。
ー---
結局、タイトルの通り、ヒューゴはクリスマスにクリスのところに来ることはできなかった。クリスマスの前日には知らせがあり、クリスは消沈して教会の神官や聖女、侍女たちとクリスマスを過ごしていた。
もしかしたら、もしかしたら、ヒューゴが来るかもしれないとごちそうを少し取り分けていたが、それらは結局人間の食べ物好きの精霊たちのお腹に入ることとなった。
『クリス、昨日まで元気だったのに、今日もまた元気ないね!』
『クリスが元気ないと私たちも悲しい!』
小人型の歌の精霊たちは、全然悲しそうには見えない元気な姿で小さく切られたごちそうを食べながら騒いでいる。
『クリス、なんで元気ないの?』
『知らないの?黒いのが来れなかったからだよ!』
クリスとそれ以外というくくりでしか人間を見分けられない歌の精霊たちだが、ヤスミンとヒューゴといったクリスと関りの深い人間たちを見分けることはできる。
そこでヒューゴのことは”黒いの”と呼んでいるわけだが。
『黒いのなんで来れなかったの?』
『知らないの?黒いの結婚するんだよ!』
『ちがうよ!お見合いするんだよ!』
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