上 下
40 / 56
第四章 無計画なプロポーズ

裏/エアハルト・ヒューゲン

しおりを挟む
「おいおい、あいつはそんなことを言っていたのか?」

ヒューゲンの国王であり、ヨーゼフの兄であるエアハルトはバッツドルフ家の家令であるペーターの定期報告にため息をついた。

「あいつが子作りできないというのは本当なのか?」

「わかりませんが、お忙しくてそれどころではないというのが正確な答えでしょう。奥様はその後、私に王族の血を引く子供たちのリストアップを命じられ、部屋に戻られました。」

「夫人としてもヨーゼフと子をなすつもりはなさそうだな…。子のいない貴族夫人の立場など低いだろうに。やはり、夫人は離縁するつもりでいるのか?」

「おそらく、どう転んでもいいように三年間は身ぎれいでいるおつもりの様です。実際、三年間子供がいなかったとしても、奥様の責任にはならないかと。」

エアハルトは眉を寄せる。子が三年なせなければ、離縁する夫婦もいる。もちろん妻の有責だ。離縁されずとも、夫が第二夫人や愛人を迎え、子供が生まれても文句は言えない。
それだけ、ヒューゲンという国での当たり前だ。妻は夫のために尽くし、家のために子を産み、家の繁栄のために子を育てる。

「ヨーゼフ様に長く愛人がいたことも、そのためにクラウディア夫人と婚約破棄したことも、奥様との結婚を機に掘り返され、今や年下の世代までも知っていることです。
逆に、愛人と別れたことは一時期の話題にはなりましたが、あまり人々の口にのぼりません。のです。」

長年仕えてくれているペーターの心配そうな顔にエアハルトはさらに困惑する。

「その顔はなんだ?」

「私はこれらの情報操作は奥様によるものではないかと考えています。」

「夫人が?まさか。なぜブルテン人のしかも夫人にそんなことができる?」

「国王陛下、奥様を侮ってはいけません。」

「侮る?10以上年下の娘をか?」

ペーターの言葉に、何をふざけたことをと笑ってしまう。

「侮ってなどいないさ。むしろ利用している。おかげでヨーゼフは愛人の娘と縁を切れたじゃないか!」

「それは先見の明があったかと。」


エアハルトはキャサリンを迎えるに至った経緯を思い出してほくそ笑む。

ブルテンからヒューゲンに嫁を迎えるにあたり、考えられる縁談は二つあった。まずはヨーゼフに分家のダンフォード公爵家の長女または次女を嫁に迎えること。もう一つはヒューゲン王太子であるエアハルトの息子の婚約者にダンフォート公爵家の次女を迎えること。

すぐに成立する婚姻で年齢差も現実的ということで、表向きに選ばれたのはヨーゼフとキャサリンだ。エアハルトとしても、ヨーゼフにダンフォード家の長女を迎えるというのは愛人と縁を切らせる絶好の機会だと考えていた。


ヨーゼフが”運命の姫”と言ってはばからない、『眠りの森の姫』の挿絵の女性、あれは先代ダンフォード公爵の一人娘、つまり、キャサリンの母をモデルにしたものである。
彼女の5人の子供たちの中でも長男と長女は母親似だと聞いていたのだ。

初顔合わせではきつい顔立ちの美人で驚いたが、すぐに妻である王妃が化粧だと見破った。


素顔を見ればすぐに落ちるのではないか。

そう思って待っていた。まさか素顔を見るまでに時間があれほどかかるとは思わなかったが。


「さっさと子作りして子供を数人設けてくれればそれでいいのだが。本来なら夫人の気持ちなど関係なく初夜に出会ってすぐに契っていたはずなんだ。何を甘ちょろいことを…。」

エアハルトは「押し倒してしまえばいいものを…」と、はあとため息をついた。ペーターは最後まで複雑そうな顔をしていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」 結婚して幸せになる……、結構なことである。 祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。 なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。 伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。 しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。 幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。 そして、私の悲劇はそれだけではなかった。 なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。 私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。 しかし、私にも一人だけ味方がいた。 彼は、不適な笑みを浮かべる。 私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。 私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

(完)あなたの瞳に私は映っていなかったー妹に騙されていた私

青空一夏
恋愛
 私には一歳年下の妹がいる。彼女はとても男性にもてた。容姿は私とさほど変わらないのに、自分を可愛く引き立てるのが上手なのよ。お洒落をするのが大好きで身を飾りたてては、男性に流し目をおくるような子だった。  妹は男爵家に嫁ぎ玉の輿にのった。私も画廊を経営する男性と結婚する。私達姉妹はお互いの結婚を機に仲良くなっていく。ところがある日、夫と妹の会話が聞こえた。その会話は・・・・・・  これは妹と夫に裏切られたヒロインの物語。貴族のいる異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。 ※表紙は青空作成AIイラストです。ヒロインのマリアンです。 ※ショートショートから短編に変えました。

全てを諦めた令嬢の幸福

セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。 諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。 ※途中シリアスな話もあります。

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

公爵令嬢ディアセーラの旦那様

cyaru
恋愛
パッと見は冴えないブロスカキ公爵家の令嬢ディアセーラ。 そんなディアセーラの事が本当は病むほどに好きな王太子のベネディクトだが、ディアセーラの気をひきたいがために執務を丸投げし「今月の恋人」と呼ばれる令嬢を月替わりで隣に侍らせる。 色事と怠慢の度が過ぎるベネディクトとディアセーラが言い争うのは日常茶飯事だった。 出来の悪い王太子に王宮で働く者達も辟易していたある日、ベネディクトはディアセーラを突き飛ばし婚約破棄を告げてしまった。 「しかと承りました」と応えたディアセーラ。 婚約破棄を告げる場面で突き飛ばされたディアセーラを受け止める形で一緒に転がってしまったペルセス。偶然居合わせ、とばっちりで巻き込まれただけのリーフ子爵家のペルセスだが婚約破棄の上、下賜するとも取れる発言をこれ幸いとブロスカキ公爵からディアセーラとの婚姻を打診されてしまう。 中央ではなく自然豊かな地方で開拓から始めたい夢を持っていたディアセーラ。当初は困惑するがペルセスもそれまで「氷の令嬢」と呼ばれ次期王妃と言われていたディアセーラの知らなかった一面に段々と惹かれていく。 一方ベネディクトは本当に登城しなくなったディアセーラに会うため公爵家に行くが門前払いされ、手紙すら受け取って貰えなくなった。焦り始めたベネディクトはペルセスを罪人として投獄してしまうが…。 シリアスっぽく見える気がしますが、コメディに近いです。 痛い記述があるのでR指定しました。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

処理中です...