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第三章 無計画な告白

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「久しぶりだね、キャシー。元気だったか?」

「お久しぶりです、ベニーお兄様。」

二人はブルテン語で挨拶すると、愛称で呼び合い、抱擁を交わした。仲の良い兄妹の様だ。

「お兄様、紹介します。こちらがヨーゼフ・バッツドルフ様です。」

ヨーゼフも紹介を受けてブルテン語で挨拶をする。

「初めまして、ヨーゼフと申します。なかなかご挨拶できず、申し訳ありません。」

「いえ、お気になさらず。急なことでしたからね。ベネディクト・ダンフォードです。」

ベネディクトはキャサリンとよく似た金髪に釣り目がちな水色の瞳の青年だった。二人は握手を交わす。今日は家族で食事をということでヒューゲン大使館にベネディクトを招待したのだ。

「アミーお兄様、ドリーとエディーは元気ですか?」

「ああ。ドリーは無事に学園を卒業したし、エディーも高等部に進学したよ。」

キャサリンは5人兄弟の真ん中だったようだ。…知らなかった。

「エステルお義姉様は今回はご一緒ではないの?」

「実は懐妊したんだ。今回はおいてきた。」

「まあ!おめでとうございます!」

「ああ。父上がうるさかったからありがたいよ。」

「奥方がご懐妊ですか?」

「はい。結婚三年目で授かりまして。私は気にしていなかったのですが、本人は気にしていたようで、よかったですよ。」

晩餐にはヒューゲンのワインが用意されており、ベネディクトはご機嫌でワインを口に含んだ。

「子ができるタイミングは私たちにはどうにもできないものです。なので、ヨーゼフ殿も子が気にやまれませんように。」

これは…。ベネディクトはヨーゼフたちの白い結婚を把握しているとみていいだろう。しかし、妹がないがしろにされていると怒っているわけではなさそうだ。
むしろ、そのままでいい、と言われているようだ。

そのことがヨーゼフには引っ掛かる。しかし、どうしようもできないので笑って「そうですね」と答えるにとどめておいた。


「妹は何か粗相をしていませんか?」

「いえ、キャサリンはヒューゲンの社交界にもすぐに馴染みまして、よくやってくれています。」

「そうですか。珍しくキャサリンも赤いドレスを着ていますしね。赤はヒューゲン王族の色ですから、すっかり他国に馴染んだようで。」

『今日は』の部分が強調された気がしてならない。キャサリンが報告したのか、それとも独自の情報網があるのか。キャサリンと少し話しただけでもわかるが、ダンフォード家の情報網はヨーゼフよりもはるかに優れている。外交を担うベネディクトにとってこれぐらいの情報を集めるのは朝飯前なのかもしれない。

少しチクッとさしてくるが、別に騒ぎ立てる気はなさそうだ。


時折、ひやっとする会話を挟みながら、滞りなく食事会は終わった。



ーーーー



案の定、ヨーゼフはデジレ王女に付きまとわれていた。ブルテンの国王が同席する会談の情報は筒抜けらしく、部屋を出るといつもデジレが待ち構えていた。

一度、ベネディクトが同席していた会談後にも待ち構えており、お構いなしに腕に抱き着いてきた時は殺意が湧いた。

「デジレ王女殿下、このようなことはお止めくださいとお願いしたはずです。」

半ばうんざりして腕を払うがお構いなしだ。

「ヨーゼフ様が政略結婚をさせられた、というのは聞いていますわ。奥様もツンとした感じで嫌な人だわ。」

と、妻の兄の前で平然と言ってくる。ベネディクト本人は気にした様子もなく、気の毒そうにヨーゼフを一瞥してその場を離れていった。

「即位式の後の夜会ではぜひエスコートをお願いしたいの。」

「申し訳ありませんが、妻をエスコートする必要がありますので。」

「まあ!いつもはしてくださるじゃない!」

それは国王陛下直々に頼みに来られるからである。さすがに今回は妻をともなっているのでそのようなことはできない。

「それは婚約者もなく、国王陛下にも頼まれていたからです。今は妻がいる身で独身の女性のエスコートなどできません。」

「あの人にそう言われているのね!」

全く話が通じない。あげく「お父様にお願いするわ!」と言って去って行った。本当に勘弁してほしい。



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