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第7章 ーノエル編ー
28 オールディ訪問
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ルロワ公爵とその家族、さらに大聖女様の魔力調査と属性調査を実施した。公爵の家にはシャーリーとウィルが、大聖女様のところにはセシルに付き添われたノエルとハロルドが向かった。
「メアリローズ様、お連れしました。」
「どうぞ。」
教会の中でも一際大きな部屋に案内され、そこにいたのはシルバーブロンドに美しい青い宝石のような瞳を持つ40前後の美女だった。ゆったりした白いローブをまとっている。
ノエルはその顔から目が離せなかった。シルバーブロンドや瞳の色味は若干違うがその顔立ちは母にそっくりだったのだ。美女の方もノエルの顔を凝視して驚いている。
「ママン…。」
「シャルローズ…。」
しばらく見つめ合っていたが、セシルの咳払いに遮られた。
「ノエル様、ハロルド様、こちらは大聖女のメアリローズ・ルロワ様でございます。」
大聖女のメアリローズはぎこちなく微笑み、ノエルたちに椅子をすすめた。
「この度は聖女の術の解明に力を貸してくださってどうもありがとう。あなたたちの研究が聖女システムの改善につながることを期待しているわ。少しお話ししましょうか。」
メアリローズは護衛の白薔薇騎士たちを扉の外に待機させ、お茶を準備させたメイドも下がらせる。その場にはメアリローズ、ノエル、ハロルド、セシルが残された。
「どうかしら?」
「魔力量も高いし、属性も恐らく三属性あります。」
「あなたが発見したという未知の属性ね。とりあえず”聖属性”とでも名付けましょうか。」
メアリローズが手をかざした属性調査の水晶は、一瞬の間の後に白く、さらに青くなった。ノエルの時と全く同じである。
これで聖属性の持ち主が結界を張れるとみていいだろう。
「大聖女は代々ルロワ家血縁の女性の中で、青い瞳を持つ者の中から選出されると伺いましたが、ルロワ家の男性は結界を張れないのでしょうか?」
ハロルドの質問にメアリローズは首を横に振る。
「大聖女資格のある青い瞳を持って男児が生まれてくることはこれまでのルロワ家の歴史でもなくてね。これまでのルロワ家の男児が結界を張れたのかどうかはわからないわ。
今日ルロワ家にも行っているのよね?弟とその息子を調べてみれば何かわかるかもしれないわね。」
「大聖女資格とはどういうことなのでしょう?簡単な説明は受けたのですが、詳しくは大聖女様からと。」
「まずは、初代聖女とルロワ家のことを話した方がいいかしら。そこのお嬢さんも聞きたいでしょうから。」
今まで進行をハロルドに任せてメアリローズを見つめていたノエルははっと姿勢を正す。
「教会にあるステンドグラスは白い髪に青い瞳の乙女をあしらっているのだけど、それは初代の大聖女様をモチーフにしているの。初代の大聖女様は白に近いシルバーブロンドに宝石のような青い瞳をしていたと言われているわ。」
白に近いシルバーブロンドに青い瞳、それはノエルにとっては母の色だ。目の前のメアリローズは少し黄色が強いシルバーブロンドをしている。
「初代大聖女は幼馴染の男性との間に三人の子をなしたと言われていて、その子の一人が興したのが今のルロワ公爵家よ。それからルロワ公爵家には青い瞳の女児が生まれて、大聖女様の用いた祈りの結界術を身に着けてオールディを守るようになったの。」
「聖女は結婚してもいいんですか?みなさん、未婚で引退後に結婚される場合もあると聞きましたが…。」
「そうね、昨今はそのようなルールとなっているわ。過去に大聖女が出産で命を落としたことがあってから、聖女職は未婚の女子であることが条件になったと聞いているわ。」
メアリローズが紅茶に口をつける。
「過去にルロワ家にも青い瞳ではない女児が生まれたことがあるそうなのだけど、皆、結界術は使えなかったと聞いているわ。そういった場合は他家に嫁ぐことがほとんどで、血縁の貴族家からも青い瞳を持つ女児が生まれる場合もあるわ。
ただ、一人国外に嫁いだ女児がいたのだけど、その方の子孫からは青い瞳の女児はでていないはずよ。ただ、異国の血で5人もの子を産んだと記録に残っているから、もう血縁はおえないほどに増えているかもしれないけれど。」
なるほど、オールディでだけ青い瞳の女児が生まれる可能性があるのか。
「実は、ルロワ家の血をひかない聖女たちの血縁も一部調査したのですが、魔力はあっても聖属性は持っていませんでした。また、ルクレツェンで聖属性も今のところ確認されていません。
もしかしたら、聖属性はオールディの、祈りの結界の中でのみ生まれる属性なのかもしれません。」
「だとしたら、やはり初代大聖女様はすごいお方だったってことになるわね。」
ハロルドは頷いた。
「結界術の仕組みに関しては明日より聖女の稽古の様子を見学させていただきますが、祈りを捧げるだけ、なんですよね?」
「ええ。」
メアリローズは指を組んで目を閉じた。するとキラキラとした光と共に大聖女の周りを膜のようなものが覆って消えた。
「今のが簡単な結界術よ。守る対象と弾く対象を指定して、結界を与えたまえと祈りを捧げるの。でも、最初からみなこれができるわけじゃないわ。まず自分の中にある祈りの力を認知するところから始めるのよ。」
そう言ってメアリローズはセシルに指示を出し、古代文字の書かれた小さな石板のようなものを持って来させた。
「明日、もう一度説明を受けると思うけれど、結界術に適性があるものがこの石板に触れると体の内にある祈りの力を認知することができるの?やってみる?あなたも十中八九持っているでしょう?」
メアリローズはノエルに石板を示す。ノエルが頷いて手をかざすと石板が光り、ピリピリっという感覚がして何かが吸われていくのを感じた。それは魔力なのだが、何か胸のあたりに渦巻くものを感じる。
「これが…?」
「僕もやってみていいですか?」
「どうぞ。」
ノエルが手を放した石板にハロルドが手をかざすが、何も起きなかった。
「今、感じた祈りの力を外に出すイメージで結界を出してみて。」
メアリローズに言われて渦巻くものを外に引っ張っていくイメージで魔力と混ぜて放出した。すると、ノエルの周りにキラキラとした光が出た。
「あら、筋がいいわね。これを会得するのにだいたい一年かかるのよ。やはり魔法を学んでいるからかしら。」
「確かに魔法を学んでいないと魔力と混ぜるのが難しいかもしれません。」
「…魔力と混ぜる。ルクレツェンの魔法使いはそう考えるのね。興味深いわ。聖女候補たちに魔法の基礎を学ばせたら芽が出ずに虐げられて教会を去るような聖女はいなくなるかもしれないわね。」
ノエルははっとしてメアリローズを見た。
「…私の妹のシャルローズの話をしましょうか。」
メアリローズはノエルが姪であると断言はしなかった。だが、姪のために母の話をしてくれた。
「私はルロワ公爵家前当主の長女なの。でも正妻が母ではないわ。いわゆる愛人の子なの。父は正妻にモロー侯爵家の令嬢を迎えたけど、長く子供ができなくて、屋敷に勤める男爵家出身のメイドに手を出したの。そうして生まれたのが私よ。私が生まれた一年後に正妻が生んだ娘が妹のシャルローズ。
シャルローズは血筋も確かだし、青い瞳に髪も白に近いシルバーブロンドで、初代大聖女様の再来だと噂されていたわ。そしてまだ幼いころに聖女判定を受けたの。」
メアリローズは当時を思い出したのか顔をしかめる。
「石板は反応しなかったらしいわ。5歳の時のことよ。当時私は生まれたばかりの弟と母と別邸で正妻から隠されて暮らしていたけれど、シャルローズが3年連続で石板を光らせられなかったから、同じく大聖女の資格があった私も聖女判定を受けたの。すぐに石板を光らせて教会に入れられたわ。それが9歳の時よ。
私が教会で修業を始めてしばらくして、シャルローズも教会に入ったわ。」
「聖女判定が出てないのに、ですか?」
「ええ。正妻が、『教会で修業すればすぐに能力が開花するはずだ』と言って無理やり入れたそうよ。聖女の力もないのに聖女の修行をさせられることがどれほどの苦行か、彼女にはわからないでしょうね。
聖女候補たちには、自分は選ばれたものだという意識があるわ。ルロワ家の血縁の貴族令嬢もいるわ。選ばれていないのに教会にやってきたシャルローズは公爵家の正妻の娘と言えども侮蔑の対象だったわ。そして愛人の子だった私もね。それはもういろいろ言われたわ。」
「大聖女様は妹君と仲が良かったのですか?」
「良くないわ。あの子、教会に入るまで私たち姉弟のこと知らなかったのよ?姉だと名乗ったら愕然としていたわ。それに私は数年で次期大聖女候補として名前があがるようになったし、同母の弟が次期公爵になったから、侮蔑はなくなったけど、あの子は結局最後まで結界術が使えなかったわ。」
つまり、最後まで聖女たちからは蔑まれていたということだろう。
「シャルローズが18歳になった年に、正妻が馬車の事故で亡くなって、私が次期大聖女に内定した年に、もう可哀そうだからと辺境に送ってあげたの。あの子は結界術はできなかったけど、大聖女に必要な強化術は使えたから。それが正妻があの子を大聖女にすることをいつまでもあきらめなかった理由の一つなんだけど。」
メアリローズはハロルドの方に視線を向け、「モロー家について知っているか」と尋ねた。
「モロー家はオールディで代々神官を輩出する家系だと聞いています。確か今代の神官長もモロー家の方だったはず。」
「そう。モロー家の血を引く大聖女を誕生させるのは大望だったのよ。失敗したけれど。
シャルローズはルロワの籍から抜けて平民となり、ローズと名乗るようになった。そして平民の男性と辺境で結婚したわ。
モロー家はシャルローズを利用することをあきらめてはいなかったようで監視を付けていたそうよ。そのストレスかしらね。シャルローズは辺境に行ってから10年ほどで亡くなってしまったわ。」
母が目覚めたという未来視の話はしないようだ。ハロルドがいるからだろうか?
「…妹君と平民の男性の間に子供はいなかったのですか?」
ノエルはぎょっとしてハロルドを見た。メアリローズは「鋭いわね」と苦笑し、爆弾発言を残した。
「その子はモロー家にとって利用価値がある、とだけ言っておきましょうか。」
「メアリローズ様、お連れしました。」
「どうぞ。」
教会の中でも一際大きな部屋に案内され、そこにいたのはシルバーブロンドに美しい青い宝石のような瞳を持つ40前後の美女だった。ゆったりした白いローブをまとっている。
ノエルはその顔から目が離せなかった。シルバーブロンドや瞳の色味は若干違うがその顔立ちは母にそっくりだったのだ。美女の方もノエルの顔を凝視して驚いている。
「ママン…。」
「シャルローズ…。」
しばらく見つめ合っていたが、セシルの咳払いに遮られた。
「ノエル様、ハロルド様、こちらは大聖女のメアリローズ・ルロワ様でございます。」
大聖女のメアリローズはぎこちなく微笑み、ノエルたちに椅子をすすめた。
「この度は聖女の術の解明に力を貸してくださってどうもありがとう。あなたたちの研究が聖女システムの改善につながることを期待しているわ。少しお話ししましょうか。」
メアリローズは護衛の白薔薇騎士たちを扉の外に待機させ、お茶を準備させたメイドも下がらせる。その場にはメアリローズ、ノエル、ハロルド、セシルが残された。
「どうかしら?」
「魔力量も高いし、属性も恐らく三属性あります。」
「あなたが発見したという未知の属性ね。とりあえず”聖属性”とでも名付けましょうか。」
メアリローズが手をかざした属性調査の水晶は、一瞬の間の後に白く、さらに青くなった。ノエルの時と全く同じである。
これで聖属性の持ち主が結界を張れるとみていいだろう。
「大聖女は代々ルロワ家血縁の女性の中で、青い瞳を持つ者の中から選出されると伺いましたが、ルロワ家の男性は結界を張れないのでしょうか?」
ハロルドの質問にメアリローズは首を横に振る。
「大聖女資格のある青い瞳を持って男児が生まれてくることはこれまでのルロワ家の歴史でもなくてね。これまでのルロワ家の男児が結界を張れたのかどうかはわからないわ。
今日ルロワ家にも行っているのよね?弟とその息子を調べてみれば何かわかるかもしれないわね。」
「大聖女資格とはどういうことなのでしょう?簡単な説明は受けたのですが、詳しくは大聖女様からと。」
「まずは、初代聖女とルロワ家のことを話した方がいいかしら。そこのお嬢さんも聞きたいでしょうから。」
今まで進行をハロルドに任せてメアリローズを見つめていたノエルははっと姿勢を正す。
「教会にあるステンドグラスは白い髪に青い瞳の乙女をあしらっているのだけど、それは初代の大聖女様をモチーフにしているの。初代の大聖女様は白に近いシルバーブロンドに宝石のような青い瞳をしていたと言われているわ。」
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「初代大聖女は幼馴染の男性との間に三人の子をなしたと言われていて、その子の一人が興したのが今のルロワ公爵家よ。それからルロワ公爵家には青い瞳の女児が生まれて、大聖女様の用いた祈りの結界術を身に着けてオールディを守るようになったの。」
「聖女は結婚してもいいんですか?みなさん、未婚で引退後に結婚される場合もあると聞きましたが…。」
「そうね、昨今はそのようなルールとなっているわ。過去に大聖女が出産で命を落としたことがあってから、聖女職は未婚の女子であることが条件になったと聞いているわ。」
メアリローズが紅茶に口をつける。
「過去にルロワ家にも青い瞳ではない女児が生まれたことがあるそうなのだけど、皆、結界術は使えなかったと聞いているわ。そういった場合は他家に嫁ぐことがほとんどで、血縁の貴族家からも青い瞳を持つ女児が生まれる場合もあるわ。
ただ、一人国外に嫁いだ女児がいたのだけど、その方の子孫からは青い瞳の女児はでていないはずよ。ただ、異国の血で5人もの子を産んだと記録に残っているから、もう血縁はおえないほどに増えているかもしれないけれど。」
なるほど、オールディでだけ青い瞳の女児が生まれる可能性があるのか。
「実は、ルロワ家の血をひかない聖女たちの血縁も一部調査したのですが、魔力はあっても聖属性は持っていませんでした。また、ルクレツェンで聖属性も今のところ確認されていません。
もしかしたら、聖属性はオールディの、祈りの結界の中でのみ生まれる属性なのかもしれません。」
「だとしたら、やはり初代大聖女様はすごいお方だったってことになるわね。」
ハロルドは頷いた。
「結界術の仕組みに関しては明日より聖女の稽古の様子を見学させていただきますが、祈りを捧げるだけ、なんですよね?」
「ええ。」
メアリローズは指を組んで目を閉じた。するとキラキラとした光と共に大聖女の周りを膜のようなものが覆って消えた。
「今のが簡単な結界術よ。守る対象と弾く対象を指定して、結界を与えたまえと祈りを捧げるの。でも、最初からみなこれができるわけじゃないわ。まず自分の中にある祈りの力を認知するところから始めるのよ。」
そう言ってメアリローズはセシルに指示を出し、古代文字の書かれた小さな石板のようなものを持って来させた。
「明日、もう一度説明を受けると思うけれど、結界術に適性があるものがこの石板に触れると体の内にある祈りの力を認知することができるの?やってみる?あなたも十中八九持っているでしょう?」
メアリローズはノエルに石板を示す。ノエルが頷いて手をかざすと石板が光り、ピリピリっという感覚がして何かが吸われていくのを感じた。それは魔力なのだが、何か胸のあたりに渦巻くものを感じる。
「これが…?」
「僕もやってみていいですか?」
「どうぞ。」
ノエルが手を放した石板にハロルドが手をかざすが、何も起きなかった。
「今、感じた祈りの力を外に出すイメージで結界を出してみて。」
メアリローズに言われて渦巻くものを外に引っ張っていくイメージで魔力と混ぜて放出した。すると、ノエルの周りにキラキラとした光が出た。
「あら、筋がいいわね。これを会得するのにだいたい一年かかるのよ。やはり魔法を学んでいるからかしら。」
「確かに魔法を学んでいないと魔力と混ぜるのが難しいかもしれません。」
「…魔力と混ぜる。ルクレツェンの魔法使いはそう考えるのね。興味深いわ。聖女候補たちに魔法の基礎を学ばせたら芽が出ずに虐げられて教会を去るような聖女はいなくなるかもしれないわね。」
ノエルははっとしてメアリローズを見た。
「…私の妹のシャルローズの話をしましょうか。」
メアリローズはノエルが姪であると断言はしなかった。だが、姪のために母の話をしてくれた。
「私はルロワ公爵家前当主の長女なの。でも正妻が母ではないわ。いわゆる愛人の子なの。父は正妻にモロー侯爵家の令嬢を迎えたけど、長く子供ができなくて、屋敷に勤める男爵家出身のメイドに手を出したの。そうして生まれたのが私よ。私が生まれた一年後に正妻が生んだ娘が妹のシャルローズ。
シャルローズは血筋も確かだし、青い瞳に髪も白に近いシルバーブロンドで、初代大聖女様の再来だと噂されていたわ。そしてまだ幼いころに聖女判定を受けたの。」
メアリローズは当時を思い出したのか顔をしかめる。
「石板は反応しなかったらしいわ。5歳の時のことよ。当時私は生まれたばかりの弟と母と別邸で正妻から隠されて暮らしていたけれど、シャルローズが3年連続で石板を光らせられなかったから、同じく大聖女の資格があった私も聖女判定を受けたの。すぐに石板を光らせて教会に入れられたわ。それが9歳の時よ。
私が教会で修業を始めてしばらくして、シャルローズも教会に入ったわ。」
「聖女判定が出てないのに、ですか?」
「ええ。正妻が、『教会で修業すればすぐに能力が開花するはずだ』と言って無理やり入れたそうよ。聖女の力もないのに聖女の修行をさせられることがどれほどの苦行か、彼女にはわからないでしょうね。
聖女候補たちには、自分は選ばれたものだという意識があるわ。ルロワ家の血縁の貴族令嬢もいるわ。選ばれていないのに教会にやってきたシャルローズは公爵家の正妻の娘と言えども侮蔑の対象だったわ。そして愛人の子だった私もね。それはもういろいろ言われたわ。」
「大聖女様は妹君と仲が良かったのですか?」
「良くないわ。あの子、教会に入るまで私たち姉弟のこと知らなかったのよ?姉だと名乗ったら愕然としていたわ。それに私は数年で次期大聖女候補として名前があがるようになったし、同母の弟が次期公爵になったから、侮蔑はなくなったけど、あの子は結局最後まで結界術が使えなかったわ。」
つまり、最後まで聖女たちからは蔑まれていたということだろう。
「シャルローズが18歳になった年に、正妻が馬車の事故で亡くなって、私が次期大聖女に内定した年に、もう可哀そうだからと辺境に送ってあげたの。あの子は結界術はできなかったけど、大聖女に必要な強化術は使えたから。それが正妻があの子を大聖女にすることをいつまでもあきらめなかった理由の一つなんだけど。」
メアリローズはハロルドの方に視線を向け、「モロー家について知っているか」と尋ねた。
「モロー家はオールディで代々神官を輩出する家系だと聞いています。確か今代の神官長もモロー家の方だったはず。」
「そう。モロー家の血を引く大聖女を誕生させるのは大望だったのよ。失敗したけれど。
シャルローズはルロワの籍から抜けて平民となり、ローズと名乗るようになった。そして平民の男性と辺境で結婚したわ。
モロー家はシャルローズを利用することをあきらめてはいなかったようで監視を付けていたそうよ。そのストレスかしらね。シャルローズは辺境に行ってから10年ほどで亡くなってしまったわ。」
母が目覚めたという未来視の話はしないようだ。ハロルドがいるからだろうか?
「…妹君と平民の男性の間に子供はいなかったのですか?」
ノエルはぎょっとしてハロルドを見た。メアリローズは「鋭いわね」と苦笑し、爆弾発言を残した。
「その子はモロー家にとって利用価値がある、とだけ言っておきましょうか。」
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