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第7章 ーノエル編ー

5 学園一年目

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「うおー!大きい!」

ノエルは荷物を引きながら魔法学園の門をくぐった。周りにはたくさんの一年生がいて、ノエルと同じように荷物を引いている子もいれば、使用人のような人に大荷物を持てせている子もいる。
大荷物の子たちは決まって別の方の建物に向かっていく。おそらく個室のA寮というやつだろう。

魔法学園では基本寮生活だ。三人部屋が普通なのだが、お金を払えば一人部屋にグレードアップできる。
高額なため、ノエルは三人部屋だ。部屋割りを確認して、女子寮の三階に向かうと中にはすでに女子学生が一人いた。


「初めまして!同室の子?」

ノエルが声をかけると鮮やかな赤毛の女の子がこちらを見てにっこりした。八重歯が印象的な子で、その色彩から獣人ではないかと思われる。

「よろしく!私はコレット・レオン。猫獣人のハーフなの。」

「私はノエル・ボルトン。両親は非魔法族なの。」

コレットが目を丸くする。

「じゃあ、あなたが噂の?」

「…噂になってるの?」

「ええ。非魔法族生まれの子が入学するなんて滅多にないもの。気を付けた方がいいわ。貴族の人たちは快くは思わないと思うの。」


そこにもう一人、女の子が部屋に入ってくる。茶髪のストレートにほっそりした長身の女の子だ。顔にはそばかすがある。

「初めまして!今日からよろしく!ダコタ・シュメッツっていうの!」

ダコタもコレットと同様にノエルが非魔法族生まれなことに驚きを示し、同じように忠告をしてくれた。二人ともとてもいい子だ。
でも、ここまで注意されるなら本当に気を付けた方がいいのかもしれない。一応、昔ムキムキマッチョのお兄さんたちから習った護身の心得を思い出しておこう。


すぐに入学式の式典があるため、制服に着替える。グレイのセーターにスカート、白いシャツに黒いネクタイとローブ。…地味だ。セーターとネクタイに学園の紋章がついているがそれにしても地味すぎる。
ミネルバと一緒に制服を買いに行ったときにも嘆いたが、本当に地味すぎる。6年間これを切るのだと思うと、すっかりマリーやクロエの影響でおしゃれ好きになっていたノエルには地獄の様だった。
制服を改造するのは校則で禁止されているらしいし…。

「魔法学園の制服って地味だと思わない?可愛くないよね?せめてセーターにラインとか…。いっそカーディガンとかならいいのに。」

ノエルがポツリと言う言葉にコレットが強く賛成した。

「わかる!カーディガンが良い!色も黒と白で二色ほしい!」

「カーディガンの裾にラインをいれてさ。」

「それいい!」

ダコタも自分の制服姿を見下ろしながら頷く。

「カーディガンがあるなら私も着たいわ。」


…もしかして、賛同者が多ければ、制服にカーディガンを導入できるのでは??



ー---



「制服に、カーディガンですか…。」

ノエルは授業終わりにミネルバを捕まえて、カーディガンについて相談していた。

「賛同者が多ければ、学園も対応するしかないでしょうが…。全校生徒の三分の二ほどは賛成がほしいですね…。」

ミネルバ先生はお堅そうに見えて柔軟な思考の持ち主であるようだ。ノエルは先生にお礼を言って意気揚々と部屋を出る。


「まずは、コレットとダコタに相談しよう!コレットならカーディガンのかわいいデザインを書いてくれるかも!」

早足に廊下を歩いていると人気のないところで目の前に派手な髪形をした女子学生たちが立ちふさがった。


「そこのあなた、待ちなさい!」

ノエルは足にブレーキをかけて立ち止まる。総勢3人の女子学生だ。見覚えのある顔が一人おり、おそらく午前中の授業で初めて顔をあわせたクラスメイトだろう。そして、恐らく貴族だ。

「何かご用ですか?」

「あなた、非魔法族生まれなのよね!」

「信じられない!何を考えて魔法学園に入学してきたのかしら!」

「魔法を学ぶのは魔法族だけに許された特権なのよ!」

「ちょっと魔力があったからって、魔法学園に入学してくるなんて厚かましい!」

「さっさと薄汚い非魔法族の町に帰りなさいよ!」


…何言ってるんだ、こいつら。魔力もちが魔法学園に入学しないと罪に問われることを知らないのか?馬鹿なのかしら…馬鹿そうな髪型だし、顔もけばいし、馬鹿なのね。
ノエルは自然と憐みの表情を浮かべた。

「な、なんですの!その顔は!」

「魔力もちが魔法学園に入学しないと罪に問われることを知らないなんて、お勉強をさぼってきたんだなと思って。」

沸点の低いお嬢様の一人がノエルの顔を叩こうと手を振り上げたのを顔の直前でガシッとつかむ。

「あら、暴力で勝負するの?いいわよ?これまでのお相手は叩けば逃げてきたんでしょうけど、私はそうはいかないわよ。
あなたたちのピ――――にピ―――――で一生お嫁に行けなくしてあげるわ。」

お嬢様たちはかっと顔を赤くする。

「なんて下品なの!」

「意味が分かるならあなたも下品よ。」


お嬢様たちがわなわなと震えていると、奥から艶やかな黒髪を上品に巻いた女子学生が歩いてきた。彼女もクラスメイトだ。…真打の登場かしら。

「あなたたち、何をしているの?」

「ビクトリア様!この女が私たちに暴言を!」

ビクトリアと呼ばれた女子学生はお嬢様たちよりも家格が上の家の出の様だ。優雅なしぐさでノエルの方を見て首を傾げる。

「そうなの?」

「さあ?平民の生まれなので、どの言葉をお嬢様たちが暴言ととられたのかわからず…。申し訳ございません。教えていただけますか?」


「「「なっ…!」」」


「私が許すわ。暴言の内容を教えてちょうだい。」


お嬢様たちはもちろんあんな下品な言葉を人前で話せるはずがない。



「ど、どうやら気のせいだった様ですわ!」

「きょ、今日はこのあたりで!」

「う、うちのシェフがランチを用意していますの!」


お嬢様たちは「おほほほほ~」と去っていった。本当におほほなんて言うんだ。さすが貴族。

「さておき、あなたの下品な言葉、私も聞いたわよ。学園内でそんな言葉を使うのはよくないわ。誰が聞いているかわからないし。」

「そうですね。でも私がそんなこと言っていたなんて、誰も信じないでしょう?」

ノエルはちょっとにやりとする。ビクトリアもノエルの可愛らしい見た目をみて「そうね」と頷いた。

「確か、同じクラスよね。私はビクトリア・マクレガーよ。」

「私はノエル・ボルトンです。」

「同期で私より家格の高い女子はいないわ。何かあったら相談してくれてもいいわよ。」

「ありがとうございます。」

「…敬語もいらないわ。」


ビクトリアことリアとはこの後すっかり仲良くなり、将来的には無二の親友となることはノエルはまだ知らない。




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