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第5章 5年時 ーシャーリー編ー
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「な、なに?」
「音のした方、ちょうどシャーリーの研究室の当たりかもしれない…。」
眼鏡をかけたハロルドが深刻そうな顔をしている。
「廊下に出よう。マックスはティナを連れて安全なところに。もしかしたら…窓から爆発物が投げ込まれたのかもしれない。」
慌てて廊下に出るとユージーンが他の職員を連れて急ぎ足に駆けてくるところだった。
「シャーリー、お前の部屋から出火だ。水魔法使いが鎮火に向かってる。何か出荷に心当たりはあるか?爆発が起きたようだが…。」
「…全くないです。」
「爆発音の前にパリンっていう音がした。多分窓が割れた音なんじゃないかと思う。」
ハロルドが意見する。ユージーンもハロルドが眼鏡をかけていることを確認して頷いた。
「そうだとしたら、シャーリーが狙われたのか、もしくは…。」
ユージーンはマックスとティナを見た。マックスは側近でありながら、王位継承権もある。もしやマックスが狙われたのか?でも、二人は今日突然やってきた。魔法学園には身元がしっかりしたうえで、申請がないと入れない。
学生はある程度自由に研究所と学園を行き来できるが、訪問者は必ず付き添いがいる。爆発物を部屋に投げ込むようなことは、できないだろう。
「とりあえず、鎮火が終わったら、調査に入ろう。ハロルドも来てくれる?」
「はい。」
「そこの二人はまだ研究所を出ないでもらえるかい?一緒に来てもらえると護衛もしやすい。」
「わかりました。」
一行が上の階へ移動しようと動き出したタイミングだった。
パリンパリンという音がはっきりと響き、ドーンという爆発音が轟いて建物が揺れた。
尻もちをつきかけたティナをマックスが支えたのを横目にとらえる。シャーリーの目の前ではノエルが猫を抱えたまま揺れているのをハロルドが片手でつかんで支えた。…いつのまにそんな筋肉を?と思いながらシャーリーは尻もちをついた。
いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。一体、何が起きているんだ?敵はなんだ?マックス?ティナ?それとも僕?
「爆発だ!上で鎮火にあたっていた水魔法の使い手たちが怪我をした!治癒魔法を使えるもの、水魔法を使えるものは3階で避難の補助を!残りは建物外に避難しろ!」
「「行きます!」」
ノエルとハロルドが3階に駆けていく。ちなみにノエルの猫はノエルの背中にへばりつく様にしてついて行った。
まだ学生の二人はシャーリーより肝が据わって落ち着いている。
「僕たちは外へ出よう。」
「でも、外から爆発物が投げ込まれている可能性があるんだろう?外に出るのは危険じゃないか?」
「研究所が爆発されたら元も子もないわ。犯人も捕まえないといけないし。行きましょう。」
「ティナ!俺たちは魔力も弱く、本格的な魔法攻撃から身を守るのにも限度があるんだ!安全を確保してから出ないと!」
「この建物の方が安全だという証拠はどこにもないわよ、マックス。研究所の職員たちには上級魔法科出の人も、元戦闘職の人も多いし、守ってもらいましょう?」
マックスがティナに怒っている。ティナはまあまあと余裕の笑顔だ。何事かをマックスの耳元でささやいて職員たちに続いて移動する。
マックスは心なしか顔を赤らめてティナの後に続く。イケメンでポーカーフェイスのマックスがティナ相手に振り回される、シャーリーたちにとっては日常の光景である。
プチパニックになっていた心がちょっと落ち着いて、シャーリーも避難の列に続いた。
ーーーー
研究所の建物を出ると、3階フロアの西向きの部屋全てから出火しているのが見えた。等しく窓ガラスが割れており、爆発物が投げ込まれたとみていいだろう。
「爆発した後、ひどい火災になってるってことは、あの部屋にいたら怪我ではすまなかったかもしれないな。」
ユージーンが油断なく周囲を見渡しながら言う。
「最初の出火がシャーリーの部屋だったことを考えると、やはり狙いは…。」
ユージーンはマックスとティナを見る。ティナが真剣な面持ちで頷いた。
ヒューンという音がして何か茶色い球のようなものがいくつもこちらに、研究所から避難した人々の方めがけて飛んでくるのが見えた。
「させるか!」
すかさず実戦経験者のユージーンが魔法で土壁を作り、茶色い球から皆を守ってくれた。他にも数人の土魔法使いが同様に土壁で茶色い球を受け止めと、土壁の向こう側で大きな爆発音が響き、土壁は木っ端みじんに吹き飛んだ。
とっさにシャーリーは風魔法でマックスとティナを爆風や土壁の残骸から守ったが、土壁を作っていた土魔法の使い手たちは一様に怪我を負っていた。中には重傷の者もいた。
「いっつぅ…。」
ユージーンも額から血を流している。
「すごい威力だな…。市販に出回っている魔法道具じゃないぞ…。」
土埃が晴れるにつれて、その向こうから複数人が駆け寄ってくる足音がした。助けに来た、というよりはとどめを刺しにきたような殺気と共に。
敵の姿を見たシャーリーは驚きで目を丸くした。
「学生!?」
すごいスピードで走ってくる三人は、魔法学園の制服を着ていたのだ。そして手には先ほどにも見た茶色い球、爆弾を持っている。…な?自滅しに来たのか?しかもこのスピードで走るなんて、獣人か?
そしてまっすぐに三人ともがこちらに向かってくる。
…そこからは早わざだった。
「音のした方、ちょうどシャーリーの研究室の当たりかもしれない…。」
眼鏡をかけたハロルドが深刻そうな顔をしている。
「廊下に出よう。マックスはティナを連れて安全なところに。もしかしたら…窓から爆発物が投げ込まれたのかもしれない。」
慌てて廊下に出るとユージーンが他の職員を連れて急ぎ足に駆けてくるところだった。
「シャーリー、お前の部屋から出火だ。水魔法使いが鎮火に向かってる。何か出荷に心当たりはあるか?爆発が起きたようだが…。」
「…全くないです。」
「爆発音の前にパリンっていう音がした。多分窓が割れた音なんじゃないかと思う。」
ハロルドが意見する。ユージーンもハロルドが眼鏡をかけていることを確認して頷いた。
「そうだとしたら、シャーリーが狙われたのか、もしくは…。」
ユージーンはマックスとティナを見た。マックスは側近でありながら、王位継承権もある。もしやマックスが狙われたのか?でも、二人は今日突然やってきた。魔法学園には身元がしっかりしたうえで、申請がないと入れない。
学生はある程度自由に研究所と学園を行き来できるが、訪問者は必ず付き添いがいる。爆発物を部屋に投げ込むようなことは、できないだろう。
「とりあえず、鎮火が終わったら、調査に入ろう。ハロルドも来てくれる?」
「はい。」
「そこの二人はまだ研究所を出ないでもらえるかい?一緒に来てもらえると護衛もしやすい。」
「わかりました。」
一行が上の階へ移動しようと動き出したタイミングだった。
パリンパリンという音がはっきりと響き、ドーンという爆発音が轟いて建物が揺れた。
尻もちをつきかけたティナをマックスが支えたのを横目にとらえる。シャーリーの目の前ではノエルが猫を抱えたまま揺れているのをハロルドが片手でつかんで支えた。…いつのまにそんな筋肉を?と思いながらシャーリーは尻もちをついた。
いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。一体、何が起きているんだ?敵はなんだ?マックス?ティナ?それとも僕?
「爆発だ!上で鎮火にあたっていた水魔法の使い手たちが怪我をした!治癒魔法を使えるもの、水魔法を使えるものは3階で避難の補助を!残りは建物外に避難しろ!」
「「行きます!」」
ノエルとハロルドが3階に駆けていく。ちなみにノエルの猫はノエルの背中にへばりつく様にしてついて行った。
まだ学生の二人はシャーリーより肝が据わって落ち着いている。
「僕たちは外へ出よう。」
「でも、外から爆発物が投げ込まれている可能性があるんだろう?外に出るのは危険じゃないか?」
「研究所が爆発されたら元も子もないわ。犯人も捕まえないといけないし。行きましょう。」
「ティナ!俺たちは魔力も弱く、本格的な魔法攻撃から身を守るのにも限度があるんだ!安全を確保してから出ないと!」
「この建物の方が安全だという証拠はどこにもないわよ、マックス。研究所の職員たちには上級魔法科出の人も、元戦闘職の人も多いし、守ってもらいましょう?」
マックスがティナに怒っている。ティナはまあまあと余裕の笑顔だ。何事かをマックスの耳元でささやいて職員たちに続いて移動する。
マックスは心なしか顔を赤らめてティナの後に続く。イケメンでポーカーフェイスのマックスがティナ相手に振り回される、シャーリーたちにとっては日常の光景である。
プチパニックになっていた心がちょっと落ち着いて、シャーリーも避難の列に続いた。
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研究所の建物を出ると、3階フロアの西向きの部屋全てから出火しているのが見えた。等しく窓ガラスが割れており、爆発物が投げ込まれたとみていいだろう。
「爆発した後、ひどい火災になってるってことは、あの部屋にいたら怪我ではすまなかったかもしれないな。」
ユージーンが油断なく周囲を見渡しながら言う。
「最初の出火がシャーリーの部屋だったことを考えると、やはり狙いは…。」
ユージーンはマックスとティナを見る。ティナが真剣な面持ちで頷いた。
ヒューンという音がして何か茶色い球のようなものがいくつもこちらに、研究所から避難した人々の方めがけて飛んでくるのが見えた。
「させるか!」
すかさず実戦経験者のユージーンが魔法で土壁を作り、茶色い球から皆を守ってくれた。他にも数人の土魔法使いが同様に土壁で茶色い球を受け止めと、土壁の向こう側で大きな爆発音が響き、土壁は木っ端みじんに吹き飛んだ。
とっさにシャーリーは風魔法でマックスとティナを爆風や土壁の残骸から守ったが、土壁を作っていた土魔法の使い手たちは一様に怪我を負っていた。中には重傷の者もいた。
「いっつぅ…。」
ユージーンも額から血を流している。
「すごい威力だな…。市販に出回っている魔法道具じゃないぞ…。」
土埃が晴れるにつれて、その向こうから複数人が駆け寄ってくる足音がした。助けに来た、というよりはとどめを刺しにきたような殺気と共に。
敵の姿を見たシャーリーは驚きで目を丸くした。
「学生!?」
すごいスピードで走ってくる三人は、魔法学園の制服を着ていたのだ。そして手には先ほどにも見た茶色い球、爆弾を持っている。…な?自滅しに来たのか?しかもこのスピードで走るなんて、獣人か?
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