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第2章 1年時 ーハロルド編ー

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さすがにおとりは危険だということでモーリーンに詳しい教師に協力してもらうことになった。この年度から学園に変身術と属性魔法の教師として赴任したユージーン先生は、元冒険者でなんとあのモーリーンを発見した人物であった。

「よくここまで調べたね。」

ユージーン先生の下にやってきたのはハロルド、ノエル、シャーリーの三人だ。

「私もモーリーンのことは職員会議で報告していたが、モーリーンは歌声にしか引き寄せられないんだ。それも、相当上手くないとね。歌声に引き寄せられて移動するから、どうやって魔法学園に入ってきたかはわからないが、魔法学園から出ていかせるようなことも起きていないからね。
まだ学園内にいると思う。」

「学園から出て行かせることもできるんですか?」

「歌声を奪うのは歌姫クラスだが、おびき寄せるだけならどんな歌でもいいんだ。だから歌いながら魔法汽車に乗ればついてくるだろうと思うよ。」

「じゃあ、おびき寄せるだけならどんなレベルでも歌えばいいんですか?」

「ああ。ただ、モーリーンはもともと精霊だからね。捕獲するには実体を持たせる必要がある。声を取る時が、実体を見せるときだから…。それに生徒におとりをさせるのは…。でも君たち勝手にやりそうだし、それだけの準備もできそうだしね…。」

ユージーン先生は困ったように腕を組んだ。



ーーーー



そして、ユージーン先生指揮の下、モーリーン捕獲作戦が始動した。

「マイクみたいに見えるけど、これも魔法道具なんですか?」

空き教室でノエルがスタンド型のマイクの前に立っている。結局今日の歌い手はノエルになった。ノエルの立候補もあったが、ザラがノエルの歌はプロ並みにうまいと保証したこともある。
他のメンバーは全く歌に自信がなかった。

「そう。学園の他の場所においたスピーカーと連動して歌声が響く。モーリーンがどこにいても君の声を聞きつけるはずだ。」

「スピーカーからここがわかるでしょうか?」

「モーリーンは生の歌声に惹かれるからね。おそらく。ただ不確定なことが多いから、何が起きるかはわからない。歌声の取り方もわからないしね。魔物除けの魔法と防御魔法をかけておくけど、モーリーンは元精霊だったらしいからどこまで効くか…。」

ユージーン先生、もとは凄腕の冒険者だ。この用心深い性格が冒険者として成功する秘訣の一つだろう。

「私もしっかり見ているが、危険を感じたらとりあえずすぐに歌うのをやめるんだ。これまでの被害者は歌っている途中や歌い終わった後に声が出なくなったことに気づいたって言っていたからね。」

「わかりました。」

そうしてノエルがマイクの前に立った。ザラがノエルから目を離さない状態で、少し離れたところに立つ。ハロルドとユージーンも少し離れたところで立った。




ノエルが歌い始めると、その場の空気が変わったようだった。

それは隣国オールディ語の有名な歌で、この国の公用語の一つでもあるため、聴く人によっては耳なじみのある曲だろう。ノエルの歌は想像を超えた。歌うごとに引き込まれ、心が洗われ、そう、まるで…。



ハロルドもユージーンも心を奪われていたために、ノエルの背後に突然現れた透ける女への反応が遅れてしまった。…まずい!

ハロルドがノエルの危機を見つけた時に、横から何者かがその女に飛び蹴りをかまし蹴り倒した。そのままノエルの口をふさぎ、はずみでマイクを蹴り倒す。ごとッブチっという音がしてマイクの接続が切れた。
すかさずハロルドは魔物用の網で女をとらえ、縛り上げる。転びかけたノエルを支えたのはザラだった。

「大丈夫?」

「ありがとう。全然気づいてなかった…。」

「完全にゾーンに入ってたから、ノエル。」

ハロルドは何もできなかった。

「すまない、ノエル。君の歌に聞きほれていたよ。ザラがいて本当によかった。」

ユージーンがモーリーンを昏倒させて転がしだ後、二人に声をかけた。

「ノエルの歌に聞きほれるのはしょうがない。俺は聞きなれてるから。」

ザラはちらっとハロルドを見て、鼻で笑った。うわ、むかつく。僕だってこれから聞きなれる予定だ。
ハロルドはイライラしながら、ポケットから眼鏡を取り出し、かけながらモーリーンを観察する。初見の魔物だ。データを集めておかなくては。

眼鏡から頭に声が響く。

『モーリーン。元歌の精霊の魔物。綺麗な歌声に嫉妬して生まれた。歌の精霊が歌声から活力を得るように、歌声を吸い取り糧にしていると考えられる。歌声を取られたものは、歌は歌えずとも日常に支障のない声は出せるようになると推測される。』

「ハロルド、その眼鏡はもしかして、知識の精霊かな?」

ユージーンが興味深そうにハロルドを覗き込む。

「あ、はい。モーリーンの解析をしました。被害者は歌声は戻らないかもしれませんが、日常に支障なく発話はできるようになるかもしれないとのことです。」

「精霊?眼鏡が?」

ノエルがハロルドの隣にしゃがみ顔を覗き込む。

「まさか一年生に精霊契約者がいるとはね。しかも知識の精霊なんて、契約者に初めて会ったよ。」

ノエルはまじまじとハロルドの顔を見た。ハロルドもまじまじとノエルの顔を見つめる。

「ハロルド、あなたの顔、本ちゃんに似てるわね。眼鏡かけてるのみて思い出したわ。」

「それ!僕!本ちゃん、僕だよ!」

やっとノエルが僕のことを思い出してくれた!しかし、ノエルは顔をしかめて納得いかなさそうだ。

「でも、本ちゃんはよ?ハロルド、女の子だったの?」

「あ。」



そうだった。当時ハロルドは女の子として生活していたのだった。

ノエルも気づけないはずである。


「ごめん。あの時、僕、女の子の格好してたけど、男の子なんだ。」

「じゃあ、ハリーなんだ。会えてうれしい!」

ハロルドはノエルに思い出してもらえて大喜びだ。あの日ノエルに会ってから、毎日がどんどん楽しくなっていく。もう一回会ったらありがとうを伝えたいと思っていたから。
一方、ザラは面白くなさそうな顔になっていく。

「でも、全然キャラが違わない?ハリー、すごい本ばっかり読んでて、物静かだったじゃない?」

「あれから、自分の足で知識を体験することにハマったんだ。ノエルの影響だよ。」

うおっほん、という咳払いで会話が遮られる。見ればザラが二人の間に割って入ってきた。

「ノエル、声に異常はない?」

ノエルが軽く歌ってみてから親指を立てる。

「ありがとう。ザラのおかげね。ハリーのおかげで被害者の人たちの声も一部戻りそうってわかったし…。」

「ああ、のおかげで。」

「ハリー…。」

。」

「ハ…。」

。」

「どうしちゃったの、ザラ?」



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