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しおりを挟む「ねぇ…開けてよ! いるんでしょ?」
男は窓をドンドンと叩いている。
絵梨は外へ逃げようと思ったが、完全に腰が抜けて身動きが出来なかった。
「絵梨さん! もう目の前まで来てる! マンションのエントランスのロック、解除出来る?」
スマホから和也の声がした。
絵梨は這いながら玄関のモニターまで移動してなんとかロック解除のボタンを押した。
「部屋、何号室?」
「…に…ま…る…い…ち…」
なんとか伝えることが出来た。
そしてそのまま這いつくばいながら玄関まで行き、鍵を開けた。
「ちょっと! 何で開けてくれないの? 開けてくれないんだったら俺、窓壊して入っちゃうよ!」
男は窓をドンドン叩きながら言った。
絵梨は恐怖で体が震え、歯をガチガチ鳴らした。
ガチャ
「大丈夫か?」
ドアが開いて和也が入ってきた。
「…う…うぅ…」
絵梨は和也を見ると、安堵のせいか涙が溢れ出た。
「不審者は?」
和也が聞くと、絵梨はベランダの方を目配せした。
和也は無言で頷くとベランダへ向かった。
そして深呼吸をすると、思いっきりカーテンを開けた。
窓の外には目を真ん丸にして驚いている男の顔があった。
この間、カフェで絵梨に付きまとっていた男だった。
「え…どゆこと? ほんとに旦那がいるの? 嘘じゃなかったの?」
男はブツブツ呟き慌てた。
和也は男を捕まえようとベランダの窓の鍵を開けた。
男は慌ててベランダの塀を登り、隣に伸びている大木の枝をつたって地上に降りようとした。
和也は男を追いかけたが、すんでの所で間に合わなかった。
ベランダから階下を見ると、男はこちらをチラチラ振り返りながら走り去って行った。
チッ
和也は舌打ちした。
警察に通報しようと部屋の中へ入ると、絵梨が真っ青な顔でガタガタ震えていた。
不審者の恐怖と風呂上りに濡れたままでしばらくいたためだろう…。
「大丈夫?」
和也は床にへたり込んでいる絵梨に手を差し伸べた。
絵梨は歯をガタガタ言わせながら震える冷たくなって手で和也の手を取った。
「…こんなに冷え切って…」
和也は絵梨の手を取ると、あまりの冷たさに驚いた。
絵梨は和也の手助けでやっと立ち上がることが出来た。
「…ありがとう…ございます…。」
絵梨は和也が助けてくれた安堵で緊張の糸が切れ、そのせいか涙が止まらなくなった。
来ているバスローブの袖で涙を拭いた。
髪からは水滴が滴り落ちている。
和也はタオルを取って絵梨の頭を拭いてやった。
絵梨はさっきの恐怖と寒さで体の震えが止まらなかった。
「寒いな…。ヒーターのリモコンは?」
和也が聞くと、絵梨はリモコンが掛けてある壁を指さした。
和也はヒーターのスイッチを入れ、再び絵梨の元へ来た。
「すみません…ご迷惑…おかけして…。」
絵梨は涙が止まらなかった。
和也は絵梨が痛ましくて堪らなかった。
絵梨は今にも声に出して泣きそうなのをギュっと口を結んで堪えた。
絵梨のバスローブから真っ白な肌が覗いている。
絵梨の潤んだ瞳に見つめられ、和也は動揺した。
和也は頭の中が真っ白になり、気が付くと絵梨の手を取り自分の胸へ引き寄せていた。
そして思いっきり抱きしめた。
絵梨は驚いて顔を上げた。
目の前に和也の顔があった。
少しの躊躇があった。
しかし絵梨は確かに自分の意思で和也の背中に手を回した。
和也は絵梨をジッと見つめると、そのままキスをした。
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