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しおりを挟む土曜日が近づくにつれて、モッコはときめいてしまう自分に気付かないようにしていた。
以前は週末の朝は遅めに起きていたのに、最近は平日と変わらない時間に起きている。
今日は土曜日。
モッコは目を覚ますと、夫の浩太は既にリビングでコーヒーを飲んでいた。
「あら…早いわね。」
―いつもならお昼近くまで寝ているのに…。
変に思いながらもモッコは手早く朝食の準備を始めた。
朝食の準備が終わると、浩太と子供たちの分の昼食を作ってタッパーに詰め、冷蔵庫へ入れた。
そして庭に出て、自分で育てているハーブを摘んだ。
「ん~、いい香り!」
モッコは切り取ったハーブでスワッグを作った。
「ママ~、おはよう!」
目を擦りながらリクがやって来た。
「おはよう! ご飯にするからルイ呼んできて!」
「はーい!」
「今日も俺が子供たちの習い事連れてくから。」
浩太朝食を黙々と食べながらモッコの目も見ずに言った。
「ありがとう。」
モッコは作り笑いをして応えた。
まだこの間のわだかまりは消えてない。モッコの心は傷ついたままだった。
しかし、土曜日が来ることで、モッコは救われた気持ちになるのだった。
輝也とのおしゃべりの時間
最近、土曜の朝はいつものショッピングモールで輝也と偶然会う事が多い。
約束をしている訳じゃ無いけど、モッコは今日も輝也に会えるような気がしていた。
浩太と子供たちを送り出して身支度をし、電動自転車に乗ってショッピングモールへ向かった。
きさらぎヶ丘の並木道は紅葉が始まり色鮮やかになっていた。
ショッピングモールの中は、いつにも増して人が多かった。
中央広場で「秋の陶器市」が主催されていた。
それを目当てに多くの客が来ていたのだった。
モッコも中に入ってみた。
しかし、モッコの好みの食器は無かった。
―もうすぐアンティークマーケットがあるし、そっちを期待しようかな…。
モッコはイギリスやフランスのアンティーク食器が好きだった。
古風で繊細な絵柄のついた器を集めている。
一通り見て回って、モール内をぶらぶら歩いた。
時計を見るともうすぐ11時になろうとしている。
―輝也さん…今日は来てないのかしら…。
モッコは食品売り場に行って夕食の買い出しをした。
今晩はカレーにするつもりだった。
食品棚を見ると、輝也に教えてあげたプライベートブランドの品が並んでいた。
―これ…教えてあげた時の輝也さんの目の輝きったらなかったわ…
モッコは思い出し笑いをした。そして我に帰ると、小さな溜息が出た。
一通り買い物を済ませ、何もする事が無くなってしまった。時間だけが過ぎていく。しかし輝也は一向に姿を現さない。
―考えてみたら大きなモールだし、同じ時間に訪れていたとしても会うとは限らないのよね…。今まで偶然会っていたのは奇跡だったのかも…。
そう思いながらも、モッコはダメ押しでいつものカフェに行ってみた。
中に入るといつも座る席が空いていた。
モッコはカートを押しながらその席へ行き、カフェオレを注文した。
「…おいしい。」
モッコはカフェラテをゆっくりと飲んだ。
気を抜くと頭の中には先日の夫の言葉が蘇ってくる。
“家を出て行く? 有り得る訳無いですね…。専業主婦の妻が、家を出てどうやって暮らしていくんですか? 手に職も無いし…、或いは他に養ってくれるような男が言い寄って来るなんて…フッ…有り得ないし”
―悔しい…。
思い出す度に涙が出そうになる。
―私が家事を好きだっていうのもあるけど、家にいて家庭を守って欲しいっていったのはあの人じゃない!
ポロリと出てしまった一粒の涙をモッコはテーブルの上にあったナプキンで拭いた。
カフェオレを飲み終わるとモッコは席を立った。
カートを押して店を出て、そしてさっきまでいた席を振り返った。
ついこの間、ここで輝也と一緒に楽しそうに話していた時の残像が見えるようだった。
―別に輝也さんの事を好きだとか…そんなんじゃない。ただ…輝也さんなら私の気持ちを分かってくれそうな気がしただけなの…。
今日は輝也に会いたかった。
いや…誰でもいいから全てをさらけ出せる相手に自分を慰めて欲しかった。
―何考えてるの、私は! 輝也さんは沙也加の旦那様でしょ! 私みたいなのから愚痴を聞かされるなんて、輝也さんにとってはいい迷惑よ。まったくどうかしてるわ…。
バッグの中には、今朝作ったハーブのスワッグを綺麗にラッピングして入れてあった。
今日、輝也に会えたらプレゼントしようと思っていたのだ。
モッコは溜息をついて家路へと向かった。
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