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「おはようございます!」

 土曜の朝のショッピングモール。モッコはいきなり後ろから声を掛けられた。

 振り向くと、沙也加の夫、輝也がニコニコしながら立っていた。

「あら! また会いましたね! 今日も…お一人?」
モッコは沙也加や子供も一緒じゃないかと思い、周りを見回した。

「え…えぇ…あいつはまだ寝てます! 息子は塾だし。」

「じゃあ、週末はいつもパパさんが買い物に来てるの?」

「…いや…実を言うと…一人で来るのはこの間が初めだったんだけど…なんて言うか…」
輝也は右手で首の後ろを掻きながらモジモジしていた。

「ははぁ~ん! わかった! 私がいるかなぁ~って、そう思って来たんでしょう?」
モッコはニヤリと笑って、もちろん冗談のつもりで言った。

 すると輝也の顔は一瞬で真っ赤になった。

「じ…実は…そ…そうなんですよ…ハハ…。」

 それを聞いてモッコの顔も真っ赤になった。

「…い…嫌だぁ…。パパさんったらノリがいいから私まで冗談を真に受けちゃうじゃない! もうっ!」
モッコはそう言いながら照れ隠しに輝也の肩をバシっと叩いた。

「アハハハ…」

 輝也は「本当なんだけどなぁ…」と思いながら頭を掻いた。

 モッコは冗談だと思いながらも、異性からそんな事を言われてドキドキしていた。

 思い返せば、これまでの人生でこんな風に男の方から好意を寄せられた事は無かった。

 夫の浩太にしても、一応は恋愛結婚だけど、実際は友情の延長…といった感じだったし、独身時代に付き合った数少ない恋人も、モッコから熱烈にアピールして付き合ってもらったのだった。

 モッコは改めて輝也を見た。スラっとして背は高いし、ファッションセンスも悪く無い。顔は言うまでも無くイケメンだ。

―こんな人が私みたいな女に冗談でもそんな事言っちゃいけないわ! 勘違いしてしまうでしょ!

 モッコは高鳴る気持ちを抑えるのに必死になった。

 これは今まで生きてきて自分なりに身につけた自己防衛術だった。

 ヘタに自分に気があると勘違いすると、後で笑い者になる。実際そうなったことがある。

―落ち着け…落ち着け…これは幻…

「あの…」

 輝也はその場に立ち止まったまま、目を閉じて深呼吸を始めたモッコに恐る恐る声を掛けた。

「…リラ~ックス…リラ~ックス…」
モッコは深呼吸をしながら呪文のように小さく呟いた。

 その様子に輝也は笑いをこらえるのに必死だった。そしてモッコの気の済むまで邪魔しないように見守ろうと思った。

―ハッ!

 モッコは我に返って輝也を見た。目が合うと、輝也は目じりを下げて微笑んだ。

「ご…ごめんなさい…私ったら…」

「落ち着きました?」

「は…はい…」

「なら良かった」
輝也は満面の笑みでモッコに向けた。

「昔から緊張すると自分の殻に入り込んで深呼吸をする癖があって…。ごめんなさい、驚いたでしょ?」
モッコが恥ずかしそうに言った。

「…ちょっとビックリしたけど…もしかして具合でも悪いのかなってね。でもそうじゃ無いような感じだったんで見守ってました。」

「わ~、恥ずかしい。」
モッコは真っ赤になった。

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