1 / 101
1
しおりを挟む東南電鉄沿線にある「きさらぎ駅」。
最近駅がリニューアルされて名前が「きさらぎガーデンヒルズ駅」となった。
SF映画に出てきそうな近未来的な駅舎は、大きなショッピングモールとなっている。
駅の中には緑溢れる噴水広場や、子供が走り回って遊べるプレイグラウンド、手ぶらでバーベキューを楽しめるスペースもあって、子育て世代に特に人気だ。
駅周辺もデパートやスーパーなど商業施設が多く立ち並び、この街の中だけで生活の全てを賄える。
そんな便利な「きさらぎガーデンヒルズ駅」と共に再開発されて出来た住宅街。それが私たちの住むことになった「きさらぎヶ丘」だ。
「朋美~! これ、こっちで良かったの~?」
階下から夫の叫ぶ声が聞こえた。
「ちょっと待って~! そっち行くから~!」
私は急いで引っ越し業者の人に家具の配置の指示をすると、階段を下りてリビングにいる夫、和也の元へ向かった。
「この棚、ここで良かったっけ?」
私の顔を見るなり和也は聞いてきた。
「あぁ、それはこっちだよ!」
私は出窓の下を指さした。
「あ、そっか。すみません、そっちにお願いします。」
夫は業者の人たちに場所を指定し直した。
私たち夫婦は結婚5年目にしてマイホームを購入した。
私は今年38歳になった。夫の和也は二つ上の40歳。
まだ子供もいないし、賃貸のマンションで十分だと思っていたのだけど…和也の友達が次々にマイホームを購入し始めて、それに触発されたのか、家を買う事に積極的になったのだ。
考えてみたら毎月家賃を払うのももったいないし、自分の所有だったら先で人に売ることも貸すこともできる。悪く無い投資だと思った。
そんなこんなでマイホームを購入すると決めてからは、週末ごとにいろんな物件を見て回った。
これといった趣味の無い私たち夫婦にとっては、新たな趣味が出来たみたいに物件を見て回るのがすごく楽しくて、週末が待ち遠しく感じるくらいだった。
そしてこのきさらぎヶ丘に出会ったのは、今思えば運命だったとしか言いようがない。
「朋美? 朋美じゃない?」
後ろからいきなり声をかけられた。振り向くと良く知っている顔がそこにあった。
「モッコ!」
モッコ…。森野ココ。
学生時代の友人だった。
森野の「モ」、ココの「コ」を取って、「モッコ」と、彼女の事を呼んでいた。
もちろん森野は旧姓で、今は確か海野…だったような気がする。ということは現在は…○ンコ!?
「何でモッコがこんなとこにいるの?」
突然の旧友の出現に私は驚いた。モッコの横には素朴で感じの良さそうな男性がいた。
「主人です。主人と会うの…結婚式以来だっけ? この人の事、覚えてる?」
モッコはその男性を紹介した。
「ご無沙汰してます。ココの夫で海野浩太と申します。」
…うんの…さん…? …やっぱり…という事は…現在は…ウン…いやいやいや! それを口にするのはさすがに失礼だ。封印しよう…。
私はその意地悪になりそうな妄想から離れることにした。
「ご無沙汰してます。青山朋美です。私の事…覚えてらっしゃいますか?」
朋美はお辞儀をした。
「覚えてますよ! ココの友達は何故かみんな美人揃いだったから!」
浩太は言った。
「ちょっとパパ! 何故か…は余計でしょ! まるで私だけブサイクって言ってるみたい…。」
ここはふてくされて言った。
「パパ~、ママ~!」
そこへ小学校高学年くらいの男の子と女の子が駆け寄ってきた。
「娘と息子なの。」
モッコは子供たちの頭を撫でながら笑顔で言った。
「二人も子供さんいるんだね! モッコもママかぁ~!」
ー感慨深いなぁ~。
モッコは子供たちを旦那さんに預け、少し朋美と二人だけで話をしたいとその場を離れた。
「私たちさ、さっき契約を終えたとこなの。朋美もきさらぎヶ丘にするの?」
「うん。ここ人気だからさ、早くしないと無くなりそうだし、今日は決めようと思って来たんだ。」
「そっか! じゃあ、私たちご近所さんになるのね! 嬉しい! 仲の良かった朋美と近くに住めるなんて!」
「私もだよ!」
嬉しかった。知らない土地に住むのは不安があったが、気心知れている友達が近所に住むと知って安心した。
「知ってた? 絵梨もこの近くに住んでるのよ!」
モッコが言った。
「絵梨が!」
「うん。きさらぎヶ丘じゃないんだけど、駅の向こう側の菊ヶ丘に住んでるらしいの。」
「そうだったんだ…絵梨が…。ずっと連絡取ってなかったからさ、全然知らなかった。」
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ずっと君のこと ──妻の不倫
家紋武範
大衆娯楽
鷹也は妻の彩を愛していた。彼女と一人娘を守るために休日すら出勤して働いた。
余りにも働き過ぎたために会社より長期休暇をもらえることになり、久しぶりの家族団らんを味わおうとするが、そこは非常に味気ないものとなっていた。
しかし、奮起して彩や娘の鈴の歓心を買い、ようやくもとの居場所を確保したと思った束の間。
医師からの検査の結果が「性感染症」。
鷹也には全く身に覚えがなかった。
※1話は約1000文字と少なめです。
※111話、約10万文字で完結します。
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
私と継母の極めて平凡な日常
当麻月菜
ライト文芸
ある日突然、父が再婚した。そして再婚後、たった三ヶ月で失踪した。
残されたのは私、橋坂由依(高校二年生)と、継母の琴子さん(32歳のキャリアウーマン)の二人。
「ああ、この人も出て行くんだろうな。私にどれだけ自分が不幸かをぶちまけて」
そう思って覚悟もしたけれど、彼女は出て行かなかった。
そうして始まった継母と私の二人だけの日々は、とても淡々としていながら酷く穏やかで、極めて平凡なものでした。
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる