上 下
5 / 12

5

しおりを挟む



「ま、確かにねぇ…。私も次付き合うなら絶対パンダ好きの人がいいもの。一緒に世界中のパンダを見に行くのが夢なの、ウフッ。」

 パンダ好きの雄タヌキ…現れるといいですね…

ハイボールを飲もうと思ったら、もう空になっていた。女将は絶妙なタイミングでおかわりをくれた。


「…仕事から疲れて帰ってきたら、お疲れ様の言葉の前に自分の仕事の愚痴や友達の悪口…。いかに自分が不幸かを延々と話し出すんですよ…。もう彼女と一緒にいても、そこに癒しは無いと…わかったんです。」

「…そうだったんなら…一緒にいてもお互い不幸になるだけよね…。きっと彼女も自分のやっていることを分かっていたんだろうけど、それを止められなかったのかもね…。」


「…俺が悪かったんスかね…?」

「…もともと相性が悪かったのか…、お互い出会う時期が今じゃなかったのか…」

「別れてからは周りからも非難轟々ですよ! 35の女を捨てたんだから…。ロクデナシとかクズとか責任とれよ!とか、別れるにしても、もっとはやく別れてやれよ! とか、この年で見捨てるなんて人としてあり得ない! とか…」

「…でしょうね…」

「でも女将! 5年かかっちゃったもんはしょうがないでしょ? 俺だって自分の努力で相手が変わるかもしれないと思ったこともあったし、結婚したら変わるのかと思ったこともあったし、それに元カノの年齢を考えたら別れるのはかわいそうって思って、すぐには決断できなかったんですよ。でもやっぱり無理だった。あの元カノとの結婚は考えられない。俺だって幸せな結婚生活をおくる権利あるでしょう? 死ぬまで我慢なんてしたくなかったんですよ!」


俺はつい感情的になって女将に訴えた。何のしがらみのない女将だからこそ、俺のこと間違ってないよ、あんたは悪くないよ、って言ってほしかった。
大勢から悪者にされて元カノから恨まれているのが辛かった。見ず知らずのタヌキ女将に救いを求めていた。


 …女将…やけに静かだな…

「…女将…?」


 寝てる! 

 寝てやがる!


タヌキ女将は幸せそうに居眠りをしていた。
寝顔は微笑んでいた。パンダの夢でも見ているのだろうか? 
あるいはパンダ好きなイケメン雄タヌキの夢でも見ているのだろうか?

 
寝顔…可愛いな…

 
 純は…寝顔まで眉間に皺を寄せていたな…
 よっぽど俺に対する不満が溜まっていたのかな…


 さんざん純の悪口言ったけど、俺も…純の寝顔を…タヌキ女将のような幸せそうな寝顔にしてやることが出来なかったんだ…


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小料理 タヌキ屋

まんまるムーン
ライト文芸
アラフォー目前に、彼氏から捨てられた私… もう人生終わった… てかキサマ、アタシの人生返しやがれ! 身も心もズタボロで家路へと向かっていた私の前に、今まで見たことのない路地裏が出現。 怪しい提灯がぶら下がるその先に…その店はあった… 奇妙な女将が営む小料理屋

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...