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しおりを挟む「それは、澄ちゃんとよく行ってたジャズ喫茶のマッチ箱だな。」
「こんな物まで澄子さん大事に取ってたんだな。」
俺は感心してしまった。
「あのジャズ喫茶はな…、澄ちゃんを連れて行ったら本当に喜んでくれて、何度も二人で一緒に行ったんだ。あの店は、澄ちゃんとセットになってるようなもので、一人で行くと多分ものすごく違和感を感じただろうと思う。澄ちゃんが横にいるのが当たり前だったからな。だから、別れた後は一度も行ってないんだ。良子が…ばーちゃんがな、自分もあの店に連れて行って欲しいって、すごく行きたがってたんだけど、一度も連れて行かなかった。いや、連れて行けなかったんだ。あの店に行く道すら通るのが辛くて、ましてやあの店に行ったら澄ちゃんの事を思い出して、きっと耐えられなくなると思ったんだ。今思うと、良子には本当にすまない事をしたな…。」
「そっか…。」
もしかするとばーちゃんは、一緒に住んでいるうちにじーちゃんは澄子さんの事を忘れるかもしれないと思って、それを試すためにわざと二人の思い出のジャズ喫茶に連れて行って欲しいって聞いたのかな?
結局連れて行ってもらえなかったから、じーちゃんが澄子さんを忘れることは無いと悟ったんだろう…。
夫の心の中に忘れられない人がいるって知りながらも一緒に暮らすのって、さぞかし辛いよな。
俺だったら無理かも。
ばーちゃんは、本当に強い人だったんだと思う。
というか…自分が辛い事より、じーちゃんと暮らす事の方を守りたかったんだろう。
ばーちゃんが、いつも底抜けに明るかったのは、そういう暗い気持ちを振り払いたくて、必要以上に明るく振舞っていたのかもしれない。
小さい頃からずっと一緒にいたのに、家族でも知らない一面ってあるんだな…。
思い出の中のばーちゃんが、すごく悲しく見えた。
「じーちゃん、自分の人生を後悔してる?」
俺はじーちゃんに聞いてみた。
じーちゃんはしばらく考え込んでいた。
「…後悔してない。」
「そっか。」
「きっと…澄ちゃんだって、自分の人生、やりきったんだと思う。」
「…そうだね。」
「…でもな…、残りの人生がだんだん少なくなってきて過去を振り返ると…、もっと自分に正直に生きてきても良かったんじゃないかって…そう思うんだ。周りに迷惑かけるわけにはいかないとか、あの人の為に自分は我慢しようとか、そう思って取った行動が、結局人を傷つけていることもあるなってな…。」
「乃海、おまえは自分の気持ちを大事にしろよ!」
俺はそう言ったじーちゃんの顔が目に焼きついて頭から離れなかった。
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