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週末、俺は一人でじーちゃんの施設に泊まりに行くことになった。じーちゃんが来い来いってうるさいからだ。施設にはゲスト用の部屋があって有料で貸してくれる。土曜の朝から行って、日曜の夕方に帰る予定だ。
土曜の朝は、いつもの習慣で6時半には目が覚めた。両親はまだ寝ている。二人とも仕事で疲れているので、起こさないようにそっと1階に下りた。我が家は、母も昔からフルタイムで働いているので、俺はいつの頃からか、自分の身の回りの事はたいてい出来るようになっていた。ばーちゃんが生きていた頃は、ばーちゃんが俺の面倒を見ていたが、亡くなってからはじーちゃんが「ばーちゃんの代わりはワシがするからな!乃海、何も心配するな!」と、張り切っていたが、一週間くらいですぐヘコたれて、その頃俺はもう小学校高学年だったから、俺がばーちゃんの代わりにじーちゃんの面倒を見てやることになってしまった。洗濯と掃除と、簡単な料理くらいはすぐできるようになった。正直、学校の勉強よりも面白くて、将来嫁さんに働いてもらって俺主夫ってものアリ?なんて、冗談半分に思ったりした。
キッチンの窓から光が射して眩しい。いい天気だ。冷蔵庫を開けると、食材らしき物がほとんど無い。しかし俺は無から有を作る男だ!戦力が無いとなると余計にヤル気が出た。とりあえず卵とキャベツが少しだけある。食パンとケチャップも発見した。俺はキャベツを千切りにして塩コショウで炒めた。そしてスクランブルエッグを作った。食パンの上にキャベツ炒めを敷いて、さらにスクランブルエッグを上から乗せ。その上にさらにケチャップをかけた。そうして出来たキャベツ卵トースト?とでもいうべき物をトースターに入れて3分ほど暖めた。
「自分でいうのも何だけど…うめぇ…旨すぎるだろコレ!」
自画自賛が止まらない。
この簡単レシピは母から教えてもらった。学生時代に付き合っていた彼氏から教えてもらったそうだ。その彼氏がバイトしていた喫茶店のまかないでよく出ていたらしい。この話は父には内緒にしろと母から釘を刺されている。父もあの年になってヤキモチも無いだろと思うのだが、仲の良い夫婦の関係に波風を立ててはいけないので母との約束はいまだに固く守っている。良い息子だ!我ながら。
料理の後片付けをしてから、じーちゃんの施設に行く準備をした。準備と言っても一泊分の着替えくらいだ。玄関を出ると秋の冷たい空気が漂っていた。暑苦しい夏にうんざりしていたので、寒くなっていくのが嬉しい。一年中、季節が秋だったらいいのになぁ…。
家の戸締りを終え、駅に向かった。そして、じーちゃんのいる隣県の街行きの快速電車に乗った。土曜の朝なので、車内は空いていた。車窓をぼーっと眺めていると、昔森だったところが住宅地になっていた。たくさんのオシャレな家が建っている。
あの一つ一つに家族が住んでいて、それぞれ俺の知らない生活があるんだと思うと不思議な気がしてきた。ここだけでもこれだけの知らない生活がある。日本中、いや世界中だと、どれだけの知らない生活があるんだろう?今は知らない人でも、先で知り合いになることもあるかもしれない。今俺の目に映っているあの家の娘さんが、将来の俺の彼女や嫁さんかもしれない。あの家の息子は、もしかして未来で俺のことを殺すかもしれない。そんな密な関係になり得る人々でも、今会ったとしたらそれはわからない。この前、三人で運命の人の話をしてたけど、もし本物の運命の相手だとしたら、出会ったときにわかるのだろうか?将来の何かを察知できたりするのだろうか?超能力者でも無い限り、そんな事わからない気がする。
快速電車はひたすら目的地に向かって走る。
「そうだよ、君。ただひたすらに目的に向かって突っ走るのです。速く走ると景色がどんどん流れて行って、やがて溶けて見えなくなる。前方で待っている目的地だけがフォーカスされるのです。余計なことを考えずに済むではありませんか!」
そう囁きかける快速電車に俺は問いかける。
「でも、ゆっくり走れば、車窓から将来出会うべき大事な人々や住むだろう場所なんかが見えたりするんじゃないの?」
「そういう事もあるかもしれませんね…。でも、でもですよ、それがもし見えたとして何なのです?将来会うべき人や、住むべき場所は、その時に会ったり住んだりすればいいだけの話ではないですか?」
快速電車は反論した。
「まあ、そうかもしれないけど、あ!あの人と将来会うんだ!とか思ったら、なんかわくわくしたりときめいたりするんじゃないの?」
俺は言った。
「わくわくしたりときめいたりする人ばかりじゃないですよ、人生は。もう二度とそのツラ見たくない!おまえのこと考えるだけで吐き気がする…なんて人の方が実際多かったりします…はい。」
快速電車はげんなりしながら言った。
「あー、なんかお先真っ暗になってきたじゃん!どーしてくれんだ!快速電車!」
「だから、走るのです!君は今まで全力で走ってきたことなんかないでしょう?走りなさい!若いんだから!私は走りますよ!それが私…快速電車たる所以です。」
その通りだよ!快速電車!
俺は今まで一度も全速力で走るようなことしてねーよ。
でもさ、そこまで走りたいようなことが無かったんだよ…。
快速電車は俺にあてつけるように速く走った。
土曜の朝は、いつもの習慣で6時半には目が覚めた。両親はまだ寝ている。二人とも仕事で疲れているので、起こさないようにそっと1階に下りた。我が家は、母も昔からフルタイムで働いているので、俺はいつの頃からか、自分の身の回りの事はたいてい出来るようになっていた。ばーちゃんが生きていた頃は、ばーちゃんが俺の面倒を見ていたが、亡くなってからはじーちゃんが「ばーちゃんの代わりはワシがするからな!乃海、何も心配するな!」と、張り切っていたが、一週間くらいですぐヘコたれて、その頃俺はもう小学校高学年だったから、俺がばーちゃんの代わりにじーちゃんの面倒を見てやることになってしまった。洗濯と掃除と、簡単な料理くらいはすぐできるようになった。正直、学校の勉強よりも面白くて、将来嫁さんに働いてもらって俺主夫ってものアリ?なんて、冗談半分に思ったりした。
キッチンの窓から光が射して眩しい。いい天気だ。冷蔵庫を開けると、食材らしき物がほとんど無い。しかし俺は無から有を作る男だ!戦力が無いとなると余計にヤル気が出た。とりあえず卵とキャベツが少しだけある。食パンとケチャップも発見した。俺はキャベツを千切りにして塩コショウで炒めた。そしてスクランブルエッグを作った。食パンの上にキャベツ炒めを敷いて、さらにスクランブルエッグを上から乗せ。その上にさらにケチャップをかけた。そうして出来たキャベツ卵トースト?とでもいうべき物をトースターに入れて3分ほど暖めた。
「自分でいうのも何だけど…うめぇ…旨すぎるだろコレ!」
自画自賛が止まらない。
この簡単レシピは母から教えてもらった。学生時代に付き合っていた彼氏から教えてもらったそうだ。その彼氏がバイトしていた喫茶店のまかないでよく出ていたらしい。この話は父には内緒にしろと母から釘を刺されている。父もあの年になってヤキモチも無いだろと思うのだが、仲の良い夫婦の関係に波風を立ててはいけないので母との約束はいまだに固く守っている。良い息子だ!我ながら。
料理の後片付けをしてから、じーちゃんの施設に行く準備をした。準備と言っても一泊分の着替えくらいだ。玄関を出ると秋の冷たい空気が漂っていた。暑苦しい夏にうんざりしていたので、寒くなっていくのが嬉しい。一年中、季節が秋だったらいいのになぁ…。
家の戸締りを終え、駅に向かった。そして、じーちゃんのいる隣県の街行きの快速電車に乗った。土曜の朝なので、車内は空いていた。車窓をぼーっと眺めていると、昔森だったところが住宅地になっていた。たくさんのオシャレな家が建っている。
あの一つ一つに家族が住んでいて、それぞれ俺の知らない生活があるんだと思うと不思議な気がしてきた。ここだけでもこれだけの知らない生活がある。日本中、いや世界中だと、どれだけの知らない生活があるんだろう?今は知らない人でも、先で知り合いになることもあるかもしれない。今俺の目に映っているあの家の娘さんが、将来の俺の彼女や嫁さんかもしれない。あの家の息子は、もしかして未来で俺のことを殺すかもしれない。そんな密な関係になり得る人々でも、今会ったとしたらそれはわからない。この前、三人で運命の人の話をしてたけど、もし本物の運命の相手だとしたら、出会ったときにわかるのだろうか?将来の何かを察知できたりするのだろうか?超能力者でも無い限り、そんな事わからない気がする。
快速電車はひたすら目的地に向かって走る。
「そうだよ、君。ただひたすらに目的に向かって突っ走るのです。速く走ると景色がどんどん流れて行って、やがて溶けて見えなくなる。前方で待っている目的地だけがフォーカスされるのです。余計なことを考えずに済むではありませんか!」
そう囁きかける快速電車に俺は問いかける。
「でも、ゆっくり走れば、車窓から将来出会うべき大事な人々や住むだろう場所なんかが見えたりするんじゃないの?」
「そういう事もあるかもしれませんね…。でも、でもですよ、それがもし見えたとして何なのです?将来会うべき人や、住むべき場所は、その時に会ったり住んだりすればいいだけの話ではないですか?」
快速電車は反論した。
「まあ、そうかもしれないけど、あ!あの人と将来会うんだ!とか思ったら、なんかわくわくしたりときめいたりするんじゃないの?」
俺は言った。
「わくわくしたりときめいたりする人ばかりじゃないですよ、人生は。もう二度とそのツラ見たくない!おまえのこと考えるだけで吐き気がする…なんて人の方が実際多かったりします…はい。」
快速電車はげんなりしながら言った。
「あー、なんかお先真っ暗になってきたじゃん!どーしてくれんだ!快速電車!」
「だから、走るのです!君は今まで全力で走ってきたことなんかないでしょう?走りなさい!若いんだから!私は走りますよ!それが私…快速電車たる所以です。」
その通りだよ!快速電車!
俺は今まで一度も全速力で走るようなことしてねーよ。
でもさ、そこまで走りたいようなことが無かったんだよ…。
快速電車は俺にあてつけるように速く走った。
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