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しおりを挟む初めて見た本当のタヌ子は…それはそれは…美しい女の子だった!
「だ! 大丈夫ですかっ! 救急車! 救急車、今すぐ呼びますからっ!」
タヌ子はあたふたしてバッグからスマホを取り出した。
「大丈夫! 本当に何でもないんだ! だから呼ばなくていいよ。」
僕は電話をしようとしていた彼女を止めた。
「…だって…顔色だって…」
タヌ子は困惑していた。
―タヌ子、よかった、無事で。…本当はこんなにかわいい女の子だったんだね。あの時は女性として見てなくてごめんね。俺、自分の気持ちに気が付くのが遅くて…。君の事…タヌキの時から、本当に大好きだよ。会いたくてたまらなかったよ。
タヌ子はどうやら僕の事を覚えていないようだ。僕らの思い出は彼女の中では無くなってしまった。
悲しいけど…だけど僕は嬉しくて堪らなかった。タヌ子が無事だったんだから!
「うぅぅぅ…うぉぉぉぉぉぉ…うっぅうっ…」
僕は声を上げて泣いた。
堪えても堪えても、涙が勝手に溢れ出てくる。
僕との記憶を無くしてしまったタヌ子にとっては、なんて気持ち悪い男だと映るだろう。
「あの、大丈夫ですか? これよかったら。」
しかし優しいタヌ子は僕の事を不気味がるでもなく、唯々心配してくれて、肉球じゃない、白いきれいな手でハンカチを渡してくれた。
「あ、ありがとう。ごめんね。俺、ちょっと今おかしくて。気にしないで!」
僕が涙と鼻水にまみれたグシャグシャな顔にもかかわらず必死の笑顔でそう言うと、タヌ子はそんな僕の様子が面白かったのか、ニコーっと満面の笑みを向けてくれた。
―タヌ子だ! 人間の女の子の顔だけど…この表情は…この満面の笑みは…タヌ子だ!
僕は今の人間の女性のタヌ子の笑顔の中に、信楽焼のようなタヌキだった頃のタヌ子と同じ微笑みを見つけた。
僕の中で人間とタヌキ、両方のタヌ子が一致した。
気が付くと過呼吸も治まり、立ち上がることが出来た。
タヌ子は僕の様子を見て安心した様子だった。
僕はタヌ子を見つめた。タヌ子は恥ずかしそうに時々視線を外しながら僕を見つめた。
何から話したらいいのか分からなかった。
しばらく無言の時が過ぎた。
さすがにタヌ子も気まずそうにしていた。
「大丈夫そうなので…少し安心しました。お大事にされて下さいね。じゃあ…そろそろ…私はこれで…」
タヌ子はそう言っておじぎをした。
そしてその場を去ろうとした。
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