53 / 72
53
しおりを挟むトカゲ君はそう思っていた。
トカゲ君の意識が体の奥底に入っていくと、どこからか声が聞こえた。
「待っていたよ。入っていいかい?」
トカゲ君はそこにドアがあることに気付いた。
声は暖かい感じがした。トカゲ君はドアを開けた。
ドアを開くと生暖かい空気に包まれて、人型の黒い影のようなものが入ってきた。
影は大きくなったり小さくなったり、所々形を変えたりしていた。
「あなたは、どなたですか?」
トカゲ君は聞いた。
「私は、そうですねぇ…名前はありません。あったようにも思えますが、もう思い出すこともできません。」
影は言った。
「あなたはとても傷ついていますね。心がボロボロになっています。ここには私とあなただけです。あなたを傷つける者は誰もいません。あなたの苦しみを吐き出してみませんか?楽になりますよ。」
影はトカゲ君の肩を抱いて言った。
トカゲ君は今まで誰かに相談したり、本心を打ち明けたりしたことなど無かった。打ち明けられる相手もいなかった。
ずっと一人で耐えてきた。トカゲ君の目に涙が浮かんだ。
「苦しかったでしょう。辛かったでしょう。よく一人で耐えました。あなたはこの不幸な境遇を、もしかして自分のせいだと思っていませんか?」
影がそう聞くと、トカゲ君は肩を震わせ泣き出した。
「そう思っていたのですね。かわいそうに。あなたのせいではありません。全て回りの人間のせいです。まず、あなたの父親は、あなたの体を傷つけた。そして母親に暴力を奮うことによって、あなたの心まで痛めつけた。母親は、自分が楽になりたいばかりにあなたに嫌な感情を吐き出して、あなたのエネルギーを奪っていた。自分のエネルギーはすでに使い果たしていた母親が今まで生き延びられてこられたのは、あなたのエネルギーを奪っていたからなのですよ。そして父親もあなたからエネルギーを吸い取っていました。あなたにはもう、エネルギーがほとんど残っていない。生きているのが不思議なくらいです。」
影はトカゲ君をいたわるように言った。
「エネルギーが無くなるという事は、僕はもう死ぬという事ですか?」
トカゲ君は聞いた。
「このままでは残念ながら死んでしまうでしょう。しかし、助かる道はあります。どうでしょう、ここは私にまかせてみませんか? 決して悪いようにはいたしません。誰にもあなたを傷つけたりさせません。私はあなたが哀れでならないのです。」
影は言った。
「あなたにまかせるって、何をです? 僕はどうしたらいいのでしょう?」
トカゲ君は影に聞いた。
影は優しくささやくように言った。
「私が全て導きます。いいえ、ご心配には及びません。難しいことでは無いのです。私が全て教えるから、あなたはその通りに従えばいいだけなのです。」
影はトカゲ君を抱きしめた。
「そうすれば私は死にませんか? 今のような苦しみから逃れられますか?」
トカゲ君は影に縋り付くように聞いた。
「死にません。もう、苦しみもないでしょう。」
影は優しく答えた。
「わかりました。僕はあなたに全てを委ねます。」
トカゲ君は言った。
「承りました。」
影はそう答えると、トカゲ君の口に両手を入れ、彼の口を大きくこじ開けた。
人が一人余裕で入れるくらいの大きさにトカゲ君の口は広がった。しかし彼は何も苦痛を感じていない用だった。
そして影はスルスルとトカゲ君の体の中に入っていった。
影がトカゲ君の体の中に入ると、トカゲ君の顔つきが別人のように変わった。
さっきまでの気弱で貧弱な男はもういない。
トカゲ君の目は吊り上がり、口は片方がねじりあがり、貧弱だった体は全身の筋肉が増強され一回りも二回りも大きくなった。
そしてトカゲ君の心の中に溜まっていた悲しみや恐怖の感情は、激しい憎しみの感情に変わった。
「すごくいい気分だ。体中から力が沸いてくる。この手で全てを破壊してやる。」
トカゲ君は、クックックと笑った。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。
レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。
【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。
そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる